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第五章 襲来に備える俺
125、許せない
しおりを挟む魔王の孫。
その単語を理解するのに時間がかかった俺は、先程聞いたフォグの話を思い返していた。
「そういえばフードの男は、マリーの事を『ジジイのお気に入り』とか言ってたんだっけ?」
「ああ、そうなんだけどよ……普通に考えればマリーを知ってるのはここの前マスター、つまり魔王一族ぐらいしかいねぇ筈だ。それに今考えるとあの男から感じた威圧感は、魔王一族から感じる物と同じだった気がするんだぜ」
「魔王一族か……」
そういえば最近、マリーは俺に魔王の話を教えてくれたばかりだなと思った俺は、その内容を思い出そうと首を捻る。
そして俺に抱きついたままのディーネも、フォグの話に何か思い当たる事があるのか首を傾げていた。
「言われてみれば、あの時は妾も変なプレッシャーを感じた気がするのであるぞ。なにより妾はまだ若年故に魔王一族に会った事が無いのであるが、あの恐怖は強さから来るものだけではなかったのであるか……」
「俺たちモンスターは、本能的にあの一族には逆らえねぇからな」
「……成る程。それならお前らが動けなくなったのも、それは仕方がない事だったんだな」
俺は少し納得いってなさそうなディーネの頭を撫でながら、マリーの話をようやく思い出していた。
確かマリーはここのダンジョンの視察が全然来てない事と、このダンジョンは本来なら元魔王の孫が引き継ぐ予定だったと言っていた筈だ。
もしかして今回の事も、その話と何か関わりがあるのだろうか?
「一応確認させて欲しいんだけど、まさかフードの男が現魔王だとか、ここのダンジョンマスターになる予定だった元魔王の孫だとか……そういう訳じゃ無いよな?」
「いや、奴は魔王じゃねぇ。本物の魔王なら俺たちモンスターが気付かねぇわけがねぇからな。だけどよ、そいつがここのマスターになる奴だったのかどうかは、俺たちにもわからねぇ」
「そうか……。まあ、奴が魔王じゃないってわかっただけでもよかった」
「でもフード男は何故かマスターを探してた……見つけてどうするつもりなのかわからねぇけどよ、マスターは十分に気をつけるんだぜ」
気をつけろと言われても……確かフード男は俺を殺しておけばよかったと言っていた筈だ。
もしかしてダンジョンを取られたから俺を恨んでるとか?
だけど8年前の事に関わりがあるのなら、俺はダンジョンマスターになる前から殺されかけてる事になるし……一体どう言う事だ?
どれほど考えても出ない答えに、俺はため息をついてしまう。
「はぁ……。なんか理由もわからないのに狙われてるなんて、なんか嫌だな……」
「マスター、そんな呑気な事言ってる場合じゃねぇよ。確かに魔王一族だからこそ、俺たちが威圧されたのは間違いねぇ。だけど宿を半壊させたあの攻撃力は本物だからな……多分フード男はマリーと互角かそれ以上の強さだと思うんだぜ?」
「げっ、マジかよ……! 確か、マリーとディーネはランク9だったよな?」
「確かにそうだけどよ、マリーは殆どランク10と言ってもいいからな」
「と言う事は、そいつはランク10ぐらい強いって事になるんだが……?」
「間違いなくランク10はあるな」
「ええ……」
俺はその話が信じられなくて、無意識にあさっての方向を見てしまう。
だって俺が冒険者をやっていた時代には、ランク10まで到達している冒険者はいなかったのだ。
と言う事は、8年の間にランク10に到達したヤバイ奴がいるって事になる。
「そんな奴に狙われるなんて……俺、絶対に死ぬんじゃないか?」
「マスター、そんなに落ち込むなって。マスターがこのダンジョンにいる限り、俺たちが全力で守るからよ!」
「いやいや、だからって俺を庇って死ぬのだけは絶対に許さないからな!」
「あー、善処するぜ……?」
何故か疑問系で頷いてるフォグに合わせて、モンスターたちは全員同じように頷いていた。
その姿に、絶対にコイツら俺を庇うつもりだ。
そう思ってしまった俺は、コイツらを死なせない為にフードの男の対策を練る事を決めたのだ。
こうして俺が腕を組みをしながらどうしようかと考え始めた頃、ずっと横でショックを受けていたセシノがようやく落ち着いたのか口を開いた。
「あの……少しいいですか?」
「どうした、セシノ?」
「その、ずっと気になってたんですけどもしかしてゲートの入り口にいた人たちって、宿屋に乗り込んで来たゴロツキなんじゃないですか……?」
確かにセシノの言う通り、ゲート付近に凄くうるさい奴らがいたのを俺も覚えている。
だけどあれはゴロツキだったのか……?
そう思いながらフォグを見ると、セシノの問いに頷いていた。
「ああ、嬢ちゃんの言う通りだぜ」
「本当にあれがそうだったのかよ!? 俺、全然気が付かなかったんだが……。でもそいつらって、フードの男に帰れって言われてなかったか? それなのにまだいるってのは一体どういう事なんだ……」
「確かにバンさんの言う通り変ですね。ファミリーに属しているのであれば、命令違反は罰則になると思うのですが……」
俺とセシノは一緒に首を傾げていると、フォグがその答えを教えてくれた。
「実はな、それには理由があるんだぜ」
「理由……?」
「ああ、俺たちはマスターが帰ってくるまで奴らを引き止めようと、ゲートまでの道のりにレアモンスターを配置したからな。でもレアモンスターが奴らにに倒せる訳がねぇし、おちょくって逃げ回らせてるんだぜ」
「成る程、それでゴロツキ達はテンションが上がって騒いでるわけか……」
俺は祭りのように馬鹿騒ぎしていたアホどもを思いだして、苦笑いしてしまう。
「足止めはとりあえず成功してるんだけどよ、マスターは奴らをどうするつもりだせ?」
「そうだな。本当なら俺は、フード男に復讐したいところだが……」
フードの男は既に町へと戻っているだろう。
だけどたった一人の人物を町から探し出すなんて、そんなのは到底無理な話だ。
そう思いながら悩んでいると、セシノがフォグへ質問をしている声が俺の耳にも聞こえてきたのだ。
「フォグさん、あの人たちは確かフードの男をキングって呼んでいたのですよね?」
「ああ、それは間違いぜ」
「そうですか……。でもフードの男がキングなら、ファミリーを持っている冒険者って事になりますよね……?」
セシノの言葉にハッとした俺は、ついその話に割り込んでしまう。
「確かにそう言われたら変だよな。魔王の一族ってダンジョン管理がメインって聞いた気がするし……そんな奴らが冒険者になる事ってあるのか?」
「いや、普通ならあり得ねぇ。生まれた一族は全てダンジョンマスターになるように育てられるって、マリーから聞いてるからな」
「ということは、もしかしてフードの男は既に魔王一族じゃない、あるいは一族の異端児とか……?」
そこら辺に詳しいマリーが倒れている今、全ては憶測でしかない。
だけどゴロツキがフード男と同じファミリーであるのなら、何か情報を持っている可能性はある。
「よし、それなら俺はゴロツキを締め上げてフード男の情報を手に入れる事に決めた。それにアイツらは俺の宿を無茶苦茶にしたわけだし、俺はその事も結構頭にきてるんだよな……」
「その気持ちはわかりますけど、気をつけて下さいね。確かゴロツキは何故かバンさんを恨んでいるって話ですよ」
「あー、なんでだろうな?」
確かマリーの話だとギルドで会って、しかも俺を痛めつけた奴らだって話だけど……俺、恨まれるような事したか?
「とりあえず俺はフォグと様子を見に行ってくる。それですぐに仕掛けられそうなら、奴らをそのまま締めてくるよ。それからディーネとフラフはマリーを安静させられる所に……そうだな、モンスター牧場にある家の方に置いて来てくれ。あと気になっていた事があるんだが、ゴロツキに襲われてた所を助けた女の子はどうしたんだ?」
「あー、しまった。すっかり忘れてけどよ、その子なら宿屋が壊されたときのショックで気を失っちまったから、セシノの部屋に寝かせてきたぜ。嬢ちゃんには悪いが、無事な部屋があんまなくてな……」
申し訳なさそうに頭をかいたフォグに、セシノは笑顔で答えていた。
「こんな時ですから、それは構いませんよ。それに部屋を確認するついでに、その子は私が様子を見てきますね」
「悪いなセシノ、よろしく頼んだ」
「任せて下さい。それとバンさん、無理だと思ったら一旦引き上げて戻って来て下さいね」
「わかってるって……でもさ、これはマリーの敵討ちでもあるから簡単には引けない。だって俺が、マリーを傷つけた奴らを許せるわけがないだろ?」
そう言いって俺は、すぐに四足歩行型に変形したフォグに跨った。
「いくぞ、フォグ!」
「おう! 飛ばすからしっかり俺に掴まってるんだぜ、マスター!」
ゴロツキの所へと向かう為、俺は走り始めたフォグにしっかり掴まっていた。
奴らを脅すにはどんな方法がいいか、そう考えながらーーー。
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