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第五章 襲来に備える俺
124、悪くない
しおりを挟む俺はフォグの話を聞いて驚いていた。
多分フードの男というのは、俺たちが前にギルドの屋上で見た奴と同一人物だと思う。だってアイツは俺に、またすぐに会えると言っていたのだ。
だけどまさかこんな風に襲撃してくるなんて、俺は考えてもいなかった。
そしてフォグの話が終わっても、暫くは皆何も言えずに黙っていた。
きっと今回の事で、俺も含めてそれぞれ思う所があったのだと思う……。
そんな俺たちの中で、一番最初に声を発したのはディーネだった。
「……マスター。妾がもう少し強ければ、奴の攻撃を防げたかも知れぬ。なにより、マリーは唯一奴の情報を何か知っていたかもしれぬというのに、何故妾なんぞを庇ったのであるか……? これならば攻撃を受けるのは妾の方がよかったのである!!」
「ディーネ、そんな事言うなよ! マリーがどんな思いでお前を庇ったと思ってるんだ……?」
「……マスター、だがっ!」
「マリーはお前たちを咄嗟に庇うほど、大好きなんだよ。まぁ確かにマリーは、自分たちはモンスターだから死ぬのは仕方がないって言うけどさ、一応はお前らを育てた親でもあるんだ。だからお前らを死なせたくないって、一番強く思ってるのはマリーなんだって俺にはわかるんだよ」
いつもマリーを横で見ていた俺は知ってる。
ディーネやフォグたちモンスターを見るマリーの瞳は、確かに無表情なのだけど何処か慈愛に満ちていた。
それは俺に向ける瞳とは明確に違う物だった。
そしてディーネは俺の話に動揺したのか、マリーと俺を交互に見た。
「それにマリーの事だからさ、自分なら攻撃を防げると思って受けたと思うんだよな。だからヒビが入ったのは予想外だっただけだし、なによりマリーは死んだわけでもないんだ。だから自分が攻撃を受ければよかったなんて、そんな事はもう二度と言うなよ?」
無表情なのにディーネの瞳は間違いなく揺れていた。
その姿を見た俺は、無意識にディーネの頭へそっと手を置いた。
「っ……!」
ディーネは少し顔を歪めると、何も言わず俺にギュッと抱きついてきたのだ。
俺はその姿に少し驚いてしまう。
だってモンスターは表情が乏しい奴が多い。それなのに今のディーネの表情はとても悔しそうだっだ。
だから俺はそんなディーネの頭を優しく撫でながら言う。
「ディーネ、お前は何も悪くない。寧ろ、よく約束を守ってくれた……」
フォグの話を信じるのならディーネは少しだけ暴れてしまったけど、ちゃんと我慢して手加減をしたようなのだ。
正気、絶対にディーネは約束を守れないと思っていた。だから俺は今すぐにでもディーネを褒めてあげたかった。
「この宿屋を守ってくれてありがとな、ディーネ」
「な、何をいっておるのである。宿屋は半壊しておるではないかっ……」
「でもそれはディーネのせいじゃないだろ? それにディーネが守ってくれたのは、この宿の評判も入ってるんだ。もしもお前が客の前で本気で暴れたら、この宿屋にはきっと誰も寄りつかなくなる所だった。だから宿屋が破壊された事もマリーが倒れた事も、それは絶対にディーネのせいじゃない」
「…………だ、だがっ……」
中々納得してくれないディーネを見てこれ以上何と言うべきか悩んでいると、俺たちを黙って見守っていたフォグがディーネに言ったのだ。
「俺もマスターの言う通り、ディーネは何も悪くねぇって思うけどな」
「……ふんっ。妾はフォグに言われても信じられぬし、全く嬉しくないのである」
せっかくいい事を言ってくれたのに、ディーネは俺に抱きついたままフォグを睨みつけていた。
そんなディーネの姿にフォグはため息をついたのだ。
「はぁ……全くお前はマスター以外には本当に厳しい奴だな。でも一応俺の意見を言っておくけどよ、もしもディーネがアイツの攻撃を受けていたとしても、その余波でマリー以外は全滅してた可能性があるんだぜ?」
「わ、妾だってそれぐらいの事はわかっておるのである……! だが、フォグに言われるのは何か解せぬ」
「何ぃ!?」
どうやらコイツらも相性が良くないのか、二体は睨み合うと険悪な雰囲気になり始めていた。
しかしそんな二人の姿に耐えられないかったのか、マリーの側から離れようとしなかったフラフが突然声をあげたのだ。
「二人、喧嘩だめ! ……でもね。僕その時いたら……攻撃、防げたかも……間に合わなくて、ごめん」
そう言うフラフは相当落ち込んでいるのか、いつもフワフワの毛がしょんぼりしていた。
そんなフラフの姿にディーネは顔を背け、フォグはフラフの前にしゃがむと優しく撫でながら言った。
「いーや、フラフも別に悪くねぇよ」
「ふん、そうであるぞよ。フラフはその時ダンジョンを見に行ってたゆえに、仕方がないのである」
どうやらその時間、たまたまフラフは宿屋を離れていたらしい。
でもダンジョンの管理がモンスターであるコイツらの本来の仕事なのだから、常に宿屋にいる事は絶対に無理だろう。
そう思いながら、俺もフォグに同調するようにフラフへと喋りかけていた。
「ああ、そうだ。フォグの言うとおり悪いのは全部フードの男だからな。だから俺は、マリーの仇をとってやりたいんだけど……でもそいつはもうダンジョンにはいないんだよな?」
「ああ、しかもその男について言っておきたい事がある。多分だが……そのフードの男は前魔王様の孫じゃねぇかと思うんだ」
「は……? 魔王の、孫……!?」
突然出てきたその言葉に俺は一瞬固まってしまったのだ。
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