122 / 168
第五章 襲来に備える俺
122、乗り込まれて(フォグ視点)
しおりを挟むフォグ達に何があったのかを2話に分けて、フォグ視点で。
ーー▼ーー▽ーー▼ーー▽ーー▼ーー
それはマスターを見送ってからすぐの事だった。
突然、10人ほどの男たちが宿屋に乗り込んできたのだ。
「おらぁ! 邪魔するぜ!」
「あっひゃひゃーー!! ここに『バンテット』とかいう英雄気取りのクソ雑魚テイマー冒険者がいるよな?」
扉を蹴破って入ってきたスキンヘッドの男と、その横にいる地味な見た目に反して汚い笑い声をあげている男。そんな二人を先頭に、ゾロゾロと入ってくる男たちは全員が一般的ではなく頭がおかしな人種に見えた。
確かこういう奴らの事をゴロツキと言うんだぜ?
そう思いながら、俺はそいつらに言った。
「お客さん、悪いんだが『バンテット』という人はこの宿にはいないぜ?」
「ああ゛!? ふさけんじゃねぇよ!!」
「この記事に英雄はカルテットリバーサイドにいるって書いてあるんだぞ。いるって事は住んでるって事だろう? そしたらここ以外はありえないんだよ!!」
「それなのに、いねぇわけがねぇよなぁ!!」
「いや、そんな事言われても……いないもんはいねぇんだぜ?」
大体の人はその一言で納得して帰ってくれた。
だけど、この男たちはしつこかったのだ。
「どうしても俺たちに隠してぇみたいだなぁ。それなら俺たちも勝手に探させてもらうぜ!」
「はぁ? おい、受け付けしてねぇのに勝手に奥に行くんじゃねぇぜ」
「うるせぇ!!」
俺の静止を振り切り、男は勝手に奥の部屋へと入って行く。
正直止めるべきなのだろうけど、一歩間違えて手を出せばモンスターとバレる危険性がある為、俺は何もせずにその様子を見ていた。
「おい、おまえらも隈なく探せ!!」
「「「「おう!!」」」」
後ろに控えていた男たちは声を張り上げると、一斉に宿屋中を探し始めたのだ。
しかも男たちは見境なしに一般客の部屋まで調べ始めたせいで、至る所で悲鳴と怒号が飛び交い始めていた。
そして騒ぎを聞きつけたマリーとディーネも、玄関ホールに来たのだった。
「フォグ、これは一体なんの騒ぎじゃ?」
「マリー良いところに来たんだぜ! なんかゴロツキみたきな奴らが、バンテットを出せって言いながら宿屋内を荒らし始めてだな……。どうするか悩んでいたところなんだぜ?」
「ふむ、では荒らしてる奴らは別にお面派というわけではないのじゃな……?」
どう見ても今乗り込んできた奴らは、ここ数日見てきたお面派の印象とは全く違っていた。
「……どっちかと言えば、コイツらはマスターに恨みを持ってるように見えたんだぜ?」
「恨みじゃと……マスターは恨みを買うような事を何かしたのじゃろうか?」
「流石にそこまではわかんねぇって」
「うーむ、しかし困ったのじゃ。マスターは何があっても手を出すなと言っておったからのぅ。正直ワシらからしたら、荒らされても別に何も困らんのじゃが……どうも先程から客がダンジョンの外へと逃げ出しておるのじゃよ。困った事にこのままでは温泉宿の評判はガタ落ちじゃのぅ」
確かに先程からキャーキャーと逃げ惑う客が、出口に押し寄せているのが俺にも見えていた。
だけど俺たちは誰も動こうとしない。
たかが人間がどうなろうが俺達には関係ないからだ。
それに細かい事はマスターが帰って来てから考えればいい。この時は、ここにいる全員がそう思っていたのだと思う。
暫くして殆ど客がいなくなった頃、ゴロツキは全ての部屋を確認し終えたのか悪態をつきながらここへと戻って来たのだ。
「くそっ、本当に何処にもいねぇじゃねぇか!!」
「いや、今は出かけてるだけかもしれないしここで待つしかないだろうが!?」
「ああ、その為の人質だしなぁ~? 俺たちって用意周到だよなぁ!」
「あっひゃひゃっ!! 本当その通りだ!」
スキンヘッドの男に引き摺られるように現れたのは、メイド服を着た15歳ぐらいの銀色の髪をした少女だった。
「おい、てめぇら! バンテットを早く連れてこねぇと、このガキをバラバラにしちまうぜ!!?」
そして持ち上げられた少女は首元に剣を向けられ、恐怖でヒュッと喉を鳴しながらもなんとか声をあげていた。
「くっ、私は人質になる価値など無いただの奴隷なのです……だから、どうか私の事は気にしないで」
「うるせぇ! お前の身分なんざ関係ねぇ!!」
「キャッ!!」
スキンヘッドの男は怒りに任せて少女を地面へと叩きつける。そして少女が痛みで喋れなくなった事に満足したのか、再び剣を向けていた。
しかし俺たちはその光景を見ても、誰も助けようともしない。だって人質とか言われてもその行動に何の意味があるのか、俺にもよくわからなかったのだ。
しかし俺たちの中で唯一マリーだけが、男たちを見てピクリと反応したのに気がついた。
「マリー、どうしたんだぜ? もしかしてアイツらの事を知ってんのか?」
「その通りじゃな……。あやつらは以前ギルドでマスターに怪我をさせた奴らじゃが……一体何故ここに?」
「マスターに怪我……?」
そう呟いて殺気を溢れさせたのは、少し離れた場所にいたディーネだった。
「ディーネ、ダメじゃぞ!」
「わかっておるわ、マスターとの約束は違えぬ! だがあやつらの悔しがる顔を拝んでやる故、囚われておるおなごを助けるぐらいよいであろう?」
「うーむ、元の姿に戻らぬのであれば……ギリセーフじゃろう」
「本気を出さぬとも、それぐらい楽勝であるぞ!」
そう言いながらディーネは男たちの前に瞬間移動した。
即座に水魔法を展開すると、少女を捕まえている手を水弾で軽く弾き飛ばす。
「いっ、いっでぇっ!!!」
「な、なんだコイツ!?」
男たちの叫び声がした時には、すでに少女を救い出していたディーネは男たちを見下すように言い放った。
「貴様らの手に落ちていたおなごは、妾が貰ったのであるぞ」
「くっ、くそがぁ!」
「速すぎて、見えないだと……! なんでこんな温泉宿に高ランク者がいるんだよ!?」
どうやら男たちの様子から、ディーネがモンスターだと言う事は多分バレてはなさそうだ。
「さっきまでの生きの良さはどうしたのであるか? 貴様らが潔くこの場を引くというのであれば、妾も見逃してやらんでもないのであるぞ?」
「くそっ、こうなったら実力行使だ。テメェを倒して人質にすれば問題ねぇんだからな!」
「懲りぬ奴らであるな……おなごよ、とりあえず後にいる妾の仲間のもとへと行くが良い!」
「は、はい……」
ディーネに離して貰った少女は、転びそうになりながらもどうにか俺たちの方に合流した。
「嬢ちゃん、怪我はねぇか?」
「はい、私の事でしたら大丈夫です。しかし、あのお方は……」
「アイツなら大丈夫だから、とりあえず危ねぇから俺たちの後ろに隠れてるといいぜ?」
「……承知しました」
少女が後ろに走って行くのを確認した俺はディーネに視線を戻す。そこには男たちの総攻撃を全て捌いているディーネの姿が見えたのだ。
0
お気に入りに追加
641
あなたにおすすめの小説
はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!
さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。
しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。
とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。
『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』
これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)
愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。
ってことは……大型トラックだよね。
21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。
勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。
追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる