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第五章 襲来に備える俺
119、退職(サバン視点)
しおりを挟むクラウとマヨがギルドに戻ってからのサバン視点を一話。
ーー▼ーー▽ーー▼ーー▽ーー▼ーー
今日一日待ち続けて、ソイツはようやくここに来た。
しかし何故かマヨと一緒に戻ってきた為、俺は少し困っていた。
「クラウ、なんだか会うのは久しぶりだな」
「そういわれたら確かにそうですねー」
「それでだ、お前には少し話したい事があってだな……。マヨ、悪いが少し席をはずしてもらってもいいか?」
「わかりましたわ、ワタクシ廊下で待っておりますので終わったら呼んでくださいまし」
マヨが部屋から出て行ったのを確認した俺は、真面目に話し合いをする為にクラウを対面に座らせた。
「クラウは最近忙しいようだが、それは例の事件についてか?」
「はい、そうです。僕にも色々調べたい事があったので……」
そう言葉を濁すクラウに、俺はハッキリと言ってやる。
「つまり、お面派の痕跡を消すのに忙しいんだよな?」
「……はい? なんの話です」
「隠さなくても大丈夫だ。俺はあの日、お面を被っていたクラウの顔をスキルを使って見ていたんだからな」
事件当日、俺はギルド屋上に現れたお面派二人組の顔をしっかり見ていた。
一人の女は元『黒翼の誓い』にいたクイーンだと思う。
そしてもう一人の男は、間違いなくクラウだったのだ。
「何を言ってるんです……他人の空似じゃないですか? だって僕はあの日、非番で少し離れた商店街にいってたんですよ。ほら、お土産だって渡したじゃないですかー」
「その事だが……本当にクラウがその時間帯、その場所にいたかどうかの確認は取れている。確かに事件がおきた時間よりもだいぶ前に目撃をされているが、事件時には目撃情報はない。つまりお前には事件当時のアリバイはないんだ」
「……やだな、それだけで僕を疑ってるんですか? 本当に僕じゃ無いですからねー。なにより僕たちは今まで一緒にやってきた仲じゃないですか。それなのに班長は、僕の事を信じてくれないんですねー」
クラウは冷静にそう言うと、情に訴えかけてきたのだ。
「それに、僕がそんな人間じゃないって班長が一番わかってるじゃないですか……僕達これでも、もう5年の付き合いになるんですよー?」
「そうだな、確かにクラウとはだいぶ長い……だが俺は、別にお前を信用まではしていない」
「えー、僕の事信用してないんなんて酷いですよ班長。でも僕は本当に違うんですってー」
俺は全く自白するきのないクラウを見て、ため息をついてしまう。
「そうか……俺はクラウから言ってくれる事を期待したんだが、それは無理そうだな」
「だから、僕は犯人じゃありませんし……そこまで言うなら何か証拠でもあるんですか?」
「ああ、証拠ならここにある」
俺はクラウが痕跡を消す前に集めた証拠を机の上に出し、まずはコレだと通信用メモ式魔法器具をクラウに見せながら言った。
「クラウ、お前がこの通信用メモを使ってお面派とやりとりしていたのはわかっている。お前が履歴を消した物を無理矢理復元して解析させてもらったからな」
「…………」
流石に俺の言葉にクラウの眉が少しピクリと動いた。
そして俺が見せたメモの内容は、『場 15 合』のようにただ単語が並んでいるだけの物だった。
だけどこの情報をお面派の行動履歴と合わせると、全てピッタリあってしまうのだ。
「それと事件数日前、お前はギルドの地下通路見回り当番だったよな?」
「そうですが、地下に何かありましたっけ?」
「事件時、地下から膨大な魔力反応があった。そしてそれを仕掛けたのがお前だと言う事も、魔法跡を解析させてもらった結果ここに出ている」
俺が出した紙の資料には、魔力痕跡者の名前がクラウだと書いてあった。
魔力痕跡はギルドに登録する際に貰った血によって、個体識別魔力値が保存されている人間なら誰でも調べる事ができる。
そのため痕跡が残っていれば、ギルド職員や冒険者の誰が魔法を使ったのかすぐにわかってしまうのだ。
「お前がお面派のリーダーとして活動している痕跡と、その証拠は全てここにある。だからお前を捕らえたら、何故こんな事をしたのか全て吐いてもらうぞ!」
俺はクラウを捕まえる為のマジックアイテムを準備していた。
そしてポッケからそれを出し使おうとしたのに、突然目の前現れたクラウによってそのアイテムを叩き落とされてしまったのだ。
「班長、罠を仕掛けるならもっと早くやらないとダメだと思うんですよねー?」
「なっ!!」
「『キープ・プリズン』発動」
その瞬間、俺はクラウのスキルによって作り出された檻に閉じ込められていた。
「まさか、班長は僕が仕掛けるとは思ってなかったんですかねー?」
「そういう訳では事はないが……このスキルはお前が手を離すと解ける筈だ。だから逃げるのには向かないと聞いていたが……まさか!」
それも嘘だったという事なのか……?
「班長は僕の事こんなにも疑ってるのに、なんでそこは信じちゃうんですかー?」
「くっ……だがこうして仕掛けてきたという事は、お前は自分がお面派のリーダーをやっていた事を認めるんだな?」
「…………うーん。班長がそう思うなら、そうなんでしょうね」
クラウはまだ認めるつもりがないのか、少し嫌そうな顔をしていた。
「それに今日僕が班長に会いに来たのには、理由があったんですよ」
「俺に会いに来た?」
「そうですよ。班長には言ってませんでしたけど、僕は今日でこの仕事退職する事になりました」
クラウが退職するだと……?
「いや待て……俺はそんな事、一言も聞いていないが?」
「実はギルド長に直接言いに行って、既に許可は得ていますから」
そういえばコルトには、今回の事件の詳しい内容をまだ伝えていない。
だから何も知らないコルトがクラウの退職を断る理由はないだろう。
「……お前が痕跡を消すために立ち回ってるのは知っていたが、辞めるためだったとはな」
「ええ、そうですよ。でも、僕がここにいた5年間は割と楽しかったです。……この場所にこのままずっといれたらどれ程幸せなのかと何度も考えました。でも僕にはまだやる事があるので、今ここで班長に捕まるわけにはいかないんですよ」
そう言うと、クラウは俺が入っている檻の上に文字を刻む。
「この数字は、檻が解除されるまでの時間を示しているんです。だから僕が逃げ切るまでは、ここでゆっくり待っていて下さいねー」
「まて、まだお前には『ユグドラシルの丘』について聞きたい事があるんだ!」
「『ユグドラシルの丘』……それは僕がずっと所属してるファミリーの名前ですねー」
「ずっと……って、どう言う事だ?」
クラウはいつも通り怠そうにしているだけで、その答えを返してくれなかったのだ。
「どうせ今更知ったところでもう既に遅いですし、それに『ユグドラシルの丘』を調べても何も出てきませんよ? まあ、班長なら既に調べてるかもしれませんけどね」
「……確かに、その通りだ」
俺はユグドラシルの丘について色々調べて見たが、後ろ暗い事は全く出てこなかった。
しかしあまりにも真っ白過ぎて、それが逆に怪しいと俺は思っていた。
「僕がこれ以上ここにいると、いらない事まで話してしまいそうです。だから、そろそろここを出ていきますねー」
「ま、まて! まだお前には聞きたいことが!!」
「サバン班長、長い事お世話になりました。もう会う事は無いかもしれませんが、お元気で」
クラウは軽く会釈すると、部屋を出る為に扉を開けた。
そして俺は外にマヨがいる事を思い出して、咄嗟に声を張ったのだ。
「マヨ、頼む! クラウを捕まえてくれ!!」
「っ!」
クラウは外にいるマヨに一瞬怯んだが、体勢を整えるとすぐに駆け出したのだ。
そしてそれに続くようにもう一つの足音が聞こえたので、多分マヨがクラウを追いかけてくれたのだと思う。
正直、マヨにはクラウを捕まえられない事はわかっている。
だけどマヨがクラウの事を好いてる事に、俺は気づいていた。
「だからといって恋の力で、どうにかなるとは俺も思ってはないんだがな……」
少しだけでもクラウの心を揺さぶる事ができたら、それでいい。
そう思いながら、俺はクラウを逃してしまった事をイアになんと言い訳するべきか考え始めたのだった。
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