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第五章 襲来に備える俺

114、前のダンジョンマスターとは

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 俺は今、セシノが置いていったカバンを拾い上げながらため息をついていた。
 仕方がないのはわかっているんだけど、人手不足なのに何も出来ないのが申し訳なかったのだ。
 しかも宿屋には『お面の英雄』を目当てに来る人が増えているようで、そろそろ対策を考えたいと思っていた。
 そしてそんな悩んでいる俺を見ていたのか、マリーはおでこを指差しながら言ったのだ。

「マスター、眉間にシワが寄っておるのじゃぞ?」
「仕方がないだろう。俺は何もできなくて歯痒いんだから……というか、マリーは手伝いにいかないのか?」
「うむ、今日はマスターに話があるのじゃよ」
「俺に話……?」
「以前、話したい事があるからモンスター牧場にきて欲しいと、お願いしなかったかのぅ?」

 確かに観光地計画を手伝ってもらったときに、マリーにお願いをされていた。

「でも俺はモンスター牧場に来て欲しいとしか言われてないけど……?」
「うむ、モンスター牧場でしか話せない内容なのじゃよ」
「ここでしか話せないって、どう言う事だ?」
「まあ、言葉だけでは伝わらない事もあるからのぅ、とりあえずワシに着いてくるのじゃ」

 そう言って俺の腕を掴んだマリーは、有無を言わせず歩きだしたのだ。
 そして引き摺られるようにマリーついて行った俺は、前マスターが住んでいたという建物にまた足を踏み入れたのだ。

「なぁ、ここってずっと綺麗なままだから少し不気味なんだよな……」
「何を言っておるのじゃ、ダンジョンの建物なのじゃから当たり前じゃろ?」
「そうなんだけどさ……でも俺のダンジョンリフォームにはこんな建物ないんだよなぁ」

 それなのにどう見てもこの建物はダンジョンリフォームで作った物だった。
 つまりダンジョンリフォームにはマスターごとに作れる物が違うか、スキルレベルがあって後から増えるタイプなのかもしれない。
 そう考え事をしながら歩いてると、マリーが突然通路の真ん中で立ち止まったのだ。
 しかしそこには一枚の額縁と、灯り用の蝋燭しか見当たらない。

「マスターをここに呼んだのは、この部屋に連れて行きたかったからなのじゃよ」
「……え? この部屋と言われても、扉も何もないのに何処に部屋があるんだ?」
「それは、ここじゃよ」

 そう言いながらマリーは額縁に手を突っ込んだ。

「……は?」
「では、部屋に入るのじゃ!」
「いやいや、どうなってっ!?」

 俺はよくわからないまま、マリーに腕を引かれ額縁の中へと入ったのだ。
 そして俺達が出た先は書斎のようだった。
 しかもそこには何故か、黒髪の厳つい男の肖像画が何枚も何枚も置いてあったのだ。
 そしてマリーはその肖像画を指差して言った。

「この肖像画は歴代の魔王様じゃ」
「魔王様……」

 あれ、魔王ってなんだっけ?

「って、魔王!? 全員顔そっくりだけど別の人なのコレ? いやいや、それよりも何でこんなところに魔王の肖像画が……」
「肖像画だけなら、どのダンジョンにも飾ってあると思うのじゃ」
「そ、そうなのか……?」

 一瞬魔王が実在するのかと思ったけど、流石にそういう訳じゃないよな……でも、歴代のってどう言う意味だ?
 そう混乱していると、マリーは無機質な瞳で俺を見つめながら、少し言いづらそうに口を開いた。

「……マスターにはずっと隠しておったのじゃが、やはりこの事は伝えておこうと思うのじゃ」
「えーっと……それは大事な話なんだよな?」
「そうじゃな」
「なら俺も、真面目に聞くか……」

 そう思って俺は姿勢を正す。
 きっとマリーが隠している事はこのダンジョンについてだ。
 なにより俺はこのダンジョンについて、まだ知らない事が多い。だからこうして話してもらえると、少しはマリーから信頼された気がして嬉しかった。

「それなら驚いて飛び上がらないようにするのじゃぞ?」
「ああ、わかってるよ」
「うむ、では話すのじゃが……」

 マリーは肖像画の前を歩き出すと、一番右端の男を指差して言ったのだ。

「実はここにある一番最後の肖像画の男は、マスターの一つ前のダンジョンマスターなのじゃ……つまりここの前マスターは、一代前の魔王様だったわけじゃ」

 その話に一瞬思考が固まった俺は、マリーの言葉を脳内で反復してしていた。
 前マスターが前魔王様……魔王様?

「嘘だろ!? ってか、それよりもこの世界に本当に魔王っていたのか?」
「何を言っておるのじゃ。勇者の一族がいるのじゃから、魔王の一族がいてもおかしくないじゃろが」

 確かにそれはマリーの言う通りだ。
 だけど子供の頃に何度も勇者物語を読んだ俺には、魔王が今も現実にいる事が想像できなかった。

「それなら、ダンジョンボックスは魔王が作り出したっていう御伽噺も史実なのか?」
「そんな事は流石に知らぬのじゃ。じゃがダンジョンボックスのマスターは魔王の一族が仕切っておるのじゃ。そして本来ならこのダンジョンも、前マスターの孫が来る予定じゃった」

 つまり元魔王の孫だから、次期魔王になる可能性がある人って事だよな?
 それなのに、今は俺みたいなのがここのマスターになってるわけで……。

「それって凄くまずいんじゃないのか?」
「その通りなのじゃが、何年待てども孫が来る気配がなくてのぅ……一族側で何かあったとしか考えられぬじゃ。それにおかしいのは現魔王様の視察についてもじゃ。本来なら年に一度はあったのじゃが、ここ10年は全くないからのぅ……」
「いや待ってくれ、その魔王様の視察って何だよ?」
「そのままの意味じゃな。魔王様が視察に来てダンジョンに点数をつけるのじゃ。その点数によってダンジョンが無くなったり、マスターが入れ替わったりするのじゃよ」

 それじゃあ、このダンジョンはやばくないか?
 そう思った俺は、嫌な汗がダラダラと流れ始めていた。

「どうしよう、こんな魔改造したダンジョン見せて怒られないか……?」
「そこは大丈夫じゃな。それよりもワシは、マスターの方が心配じゃよ」
「え、俺?」
「ここは本来なら、マスターのダンジョンではないのじゃからな」

 確かにマリーの言う通りだ。
 俺がマスターってバレたら、もしかるすと簡単に消されたりするのかもしれない。
 一応、相手の肩書は魔王なんだし……。

「そう言うわけじゃから、この顔の男には気をつけるのじゃ。ワシとて、いつまでマスターの側にいられるかわからぬのじゃからな」
「なんだよそれ、まるでマリーがいなくなるみたいに言うなよな」
「それはわからぬのじゃ。いなくなるのはワシかもしれぬし、マスターの方かもしれぬのじゃ。それにワシは最近、嫌な予感がしておるのじゃ……わかっておると思うのじゃがワシの感は当たるからのぅ、マスターも充分に気をつけるじゃぞ?」

 そう言われてもどうやって気をつけたらいいのかわからない俺は、とにかく宿屋周りに新しい罠を張る計画を立てようと決意した。
 そして話し終えたマリーとともに、俺たちは屋敷を出ようとした。
 その時、突然セシノがカバンから飛び出してきたのだ。

「バンさん!」
「せ、セシノ!? いきなり出てきたからビックリした」
「す、すみません。急いでたものですから……」
「いや、それはいいけど宿屋で何かあったのか?」
「何かあったと言うわけではないのですけど、実は宿の方にマヨさんが来ていたので呼びに来たんですよ」
「マヨが?」

 ギルド職員であるマヨがわざわざ来るなんて、町の方でまた何かあったのかもしれない。
 そう思った俺は、なるべく人に見つからないように急いで宿屋に戻る事にしたのだ。
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