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第五章 襲来に備える俺
113、簡易的な転移カバン
しおりを挟むとにかく今の俺は、恥ずかしがるセシノを落ち着かせようと焦っていた。
だから話を変える為、ずっと気になっていた真っ黒な立方体を指差して言ったのだ。
「えっと確認させてもらうけど、その黒い……ブラックボックス? って言うのがスキルの本体って事でいいんだよな?」
「……はい、そうです。でも私はあまりにも魔法を使うのが下手みたいで、魔法陣を描かないと使えないんですけどね……」
「いや、でもさ魔法陣が全く見えない俺と違って少しでも才能があるんだし、それを伸ばすのはいい事じゃないか?」
「…………」
魔法が全く使えない人は、死ぬまで使う事は出来ない。
だけどセシノは違う。魔法の才能がなくてもセンスはあるように見えたのだ。
だって俺はスキルの顕現なんて今まで聞いたことがない。それはつまり、この魔法自体が短時間で習得できる代物じゃ無い筈なのだ。
きっとセシノはかなり無理をしたんだ……。そんな努力家なセシノなら、すぐに魔法を使うのが上手くなるだろう。
そう思いながら黙ってしまったセシノを見つめていると、そんな俺達を横で見ていたマリーがセシノの手を取って言ったのだ。
「うむ、マスターの言う通りじゃな。出来ないと決めつけるのはセシノのよくない癖なのじゃ。セシノはワシから見てもかなり優秀じゃからな。それはもう、マスターの何倍も才能があるのじゃよ!」
「おい、俺を引き合いに出すのはやめろ! 才能のなさに凹むだろ……と、言いたいところだけどそれはたぶん事実だし、セシノはもっと自分に自信を持った方がいいと思うぞ!」
親指を立てながら言った俺に、セシノは何度か瞬きを繰り返していた。
そして肩の力が抜けたのか、少し嬉しそうに言ったのだ。
「バンさん、マリーさん……確かにそうですよね。私はまだ訓練を始めたばかりですし、まだまだ伸び代があるという事ですもんね」
「うむ、セシノはまだ若いからいくらでも伸びるのじゃ!」
「それなら私、バンさんの役に立てるようにもっと強くなりますね!」
「いや、俺の為ってのはおかしいだろ。セシノ自身の為に頑張るんだからな? それと無理だけはしないでくれよ」
「えっと、それはわかってますけど……って、そういえば忘れてました」
少し恥ずかしそうに目線を下げたセシノは何かを見つけたのか、俺の方へと近づいて来ると地面に落ちている針を拾い出したのだ。
「……それってやっぱり本物の針だったんだな」
「ええ、本物ですよ」
「じゃあもしかしてブラックボックスから射出される物って、全部あの中に収納されてる物なのか?」
「そうなんです。それと射出される物は一応魔力を帯びるみたいなんですけど、何故か攻撃力は殆ど変わりませんでした。でも自分で出したいものは選べるみたいなので、次は攻撃力の高そうな物を入れておきますね」
選べるのはいいけど、まさかほぼ物理攻撃だったとは……それならもしさっきの針が魔法を帯びていなかったら、結界を突き抜けて俺に刺さっていたかもしれないという事だよな?
そう思った俺は、先程余裕をかました事に少しゾッとして腕を摩っていた。
そんな俺を見たマリーはニヤリとしながらさらに言ったのだ。
「マスター、驚くのはこれからじゃ。なんとセシノのブラックボックスの使い方はこれだけではないのじゃ!」
「え……まだあるのか?」
「ほれ、セシノ見せてやるがよいのじゃ!」
「は、はい!」
突然振られたセシノは少しアタフタすると、ブラックボックスからカバンを二つ取り出したのだ。
そして一つを俺に手渡しながら言った。
「えっと、バンさんは私が作ったこのカバンを開いた状態で持っていてくれませんか?」
「よし、任せろ!」
なんだか少し楽しくなって来た俺は、両手でカバンを持って待機していた。
だってマリーがあれ程自信満々に言ったのだから、凄い事がおこるに違いない。
そう思った俺は、一体何が始まるのだろうかとワクワクしていたのだ。
「では、私もカバンを持ちます。一応、これで準備ができました」
「え、準備はこれだけなのか? 今回は魔法陣とかないんだな」
「すみません、確かに少し地味かもしれません。それに今から私がする事も簡単で、持ってるこのカバンに入だけなんです」
「……セシノがカバンに入る?」
なんだか手品でも始まるみたいだと思ってる間に、セシノはカバンを大きく開いていた。
そしてセシノが片足を入れたその瞬間、セシノはその場からいなくなってしまったのだ。
その事に驚いた俺は、ついセシノの名を叫んでしまった。
「せ、セシノ!?」
「マスター、落ち着くのじゃ。セシノはそっちじゃよ」
「え?」
俺はマリーが指差す方へ目を向けると、そこにはセシノに渡されたカバンがあった。
そして俺は、すぐに気がついたのだ。
「ま、まさか。こっちから?」
そう言った瞬間、カバンからセシノがニョキッと生えてきたのだ。
突然全身が現れたせいで、カバンを手に持っていた俺は慌ててセシノの腰を掴み持ち上げてしまう。
その事に驚いたのは、勿論セシノの方だった。
「キャッ! え、バンさん?」
「ごめんごめん。カバンを手に持ってたから、このままだとセシノが落ちると思ったんだ……と、とりあえず今すぐに降ろしてやるからな!」
「ご、ごめんなさい。こんな事になるなら、最初からカバンを地面に置いといてもらえばよかったですね……」
「まあ、それは次使う時の参考にすればいい。それよりも、これって簡易版の転移魔法だよな? それって凄くないか!」
俺はセシノを地面に降ろしながら興奮気味に言う。
だけどセシノからしたら、それはまだ褒められるような事ではないのか少し俯いてしまったのだ。
「そう言ってもらえるのは嬉しいです。だけどこの転移がどれ程の距離を移動出来るのかよくわかりませんし、まだ不安要素が多くて……だから色々試してからじゃないと心配で、バンさんと一緒に転移できませんから」
その発言に、俺は驚きに目を見開いたのだ。
「ええっ! 俺と一緒にって……もしかして俺も転移できるのか!?」
「は、はい。一応マリーさんで既に確認済みなんですけど、私と手を繋いだ状態で一緒にカバンに入ればどうやら転移は出来るみたいなんです」
「おお、それは凄いな」
「でもバンさんで試すのはまだダメです。もう少し安全性を確かめさせて下さい」
「それなら俺は、セシノがブラックボックスを使いこなせるようになるのを楽しみにしてるよ」
少し嬉しそうに頷くセシノを見て、俺は娘の成長を見守る親の気分になっていた。
そして暫くホッコリしていた俺は、そういえば口を挟んできそうなマリーがいない事に気がついたのだ。
「静かだと思ったらマリーはどこいったんだ?」
「マリーさんなら、先程から誰かと通信してるようですけど?」
セシノが指差す方を見ると確かにマリーは虚空に向かって会話をしていた。
そして丁度話し終えたのか、すぐにこちらに戻って来たのだ。
「マリー、誰からだった?」
「フォグからじゃ、そろそろ昼じゃから手伝いを頼むと連絡が来たのじゃ」
「もうそんな時間だったのか……」
「わかりました。それなら、すぐに戻りますね!」
そう言うとセシノは先程使ったカバンへ足を入れて、ここからいなくなったのだ。
きっとセシノが作ったカバンは宿屋にもあるのだろう。
「それにしても、もの凄く使いこなしてるな……」
「ワシが鍛えたのじゃから当たり前じゃろ?」
マリーがドヤ顔で言うのを見て、まあ確かにそうだなと思ってしまう俺がいたのだ。
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