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第五章 襲来に備える俺
115、噂について
しおりを挟む急いで宿屋に戻って来た俺たちは、変な人に絡まれないように裏口からコッソリ宿屋に入っていた。
正直なところ俺は、宿屋に直接入れるセシノのカバンが使ってみたかった。
だけどセシノにまだ駄目だと怒られてしまったので、俺たちは狼に変幻したマリーの背に乗って帰ってきたのだ。
それにしても宿屋まで誰にも会う事なく戻って来れたのは本当によかった。
そうホッとして立ち止まっていると、セシノに軽く服を引っ張られたのだ。
「バンさん、ダイニングでマヨさんが待ってますから急いで下さい」
「あ、ああ」
そんな訳で俺は、ダイニングへ向かう事にした。
そして俺を急かしたセシノは「私はお土産売り場の手伝いがありますから」と小走りで去って行ったのだ。
最近お土産屋さんを完成させたセシノは、名物作りにハマっている。
因みに今一番売れている商品をセシノに聞いたところ、【竜の鱗クッキー】と狼のマークのついた【トラパラサブレ】が人気らしい。
この調子でセシノにはドンドン新商品を出して欲しいものだ。
そう考えながら、ようやくダイニングに着いた俺はそっと扉を開けた。
そこにはセシノが言った通り、マヨが座って待っていた。
見るたびに思うけど、相変わらず綺麗に巻かれた縦ロールだなと感心しながら、俺はマヨへと話しかけたのだ。
「悪い、待たせたて悪かったな」
「バンテットさん、お久しぶりですわ」
「確かに、前にあったのはだいぶ前か……」
そういえば派閥争いがあった日、マヨには合わなかった。
だから最後にあったのは温泉が出来た頃かもしれない。
「温泉宿で忙しそうですのに、突然来てしまって申し訳ないですわ」
「いや、そんな事は全然ないって」
まあ、どうせ今の俺は宿屋を手伝えない超暇人だからな……。
そう思いながら俺は、とりあえずマヨの向かいに座った。
そしてマヨがここに来た理由を確認する事にしたのだ。
「もしかして、マヨがここに来たのって……」
「ええ、町の方は殆どいつも通りに戻りましたわ」
「そうか、それならよかった。それで二つの派閥はどうなったんだ?」
「現状の話をしますと、勇者派は大人しくしていますわ。ですが問題はお面派の方ですの!」
「えっ……アイツらあんな事をしでかしたのに、まだ解体されてないのか?」
「それが、少し問題がありまして……とりあえずバンテットさん、まずはこれを見てくださいまし」
マヨは、カバンからあるチラシを取り出すと机の上にバンっと勢いよく置いたのだ。
そしてマヨが指差した先には───。
『お面派のリーダーは偽物!? 本物はダンジョンに住むという噂の男か? 真のお面の英雄に迫る!』
と書いてあり、もしかしてあの噂はここから来たのかと俺は顔を顰めてしまったのだ。
そしてマヨは俺があまり驚かなかったことに、不思議そうに首を傾げていた。
「あら? その反応……もしかして、バンテットさんは知っておりまして?」
「ああ、既に客からお前がお面の英雄バンテットかと何度か聞かれたんだ。でもよく考えたら名前がすでにバレてるって事は、この記事には俺の名前までしっかり書かれてるって事なんだよな……?」
「ええ、そうですわね」
……ふむ、これは困った事になったもんだ。
正直、俺は自分が英雄だなんて思っていない。
それにこれだと、本物のお面の英雄が可哀想だよな……?
そう思った俺は、ため息をついていた。
「全く、一体誰が俺をお面の英雄とか言いだしたんだろうな」
「それはワタクシにもわかりませんけど、一応班長としてはこれ以上バンテットさんに迷惑がかからないよう、どうにかするつもりだと言っておりましたわね」
「……なんか、いつもサバンには迷惑かけてばかりで申し訳ないな」
「いえいえ、班長には仲間思いという取り柄しかないなのですから、それぐらいは当然の事ですわ!」
……アイツ、仲間からそれしか取り得がないと思われているのか、可哀想な奴だな……。
そう同情しながら少し遠い目をした俺は、とりあえず話を戻す事にした。
「それで今の話からすると、俺の存在がお面派を存続させてるって事でいいんだよな?」
「そうですわ。アイツらは前リーダーに全ての責任を押しつけて、今度はバンテットさんを次のリーダーに仕立て上げる事で、生き延びようとしているのですわ。殆どゴロツキばかりですのに、とても迷惑な話ですわよね?」
「まあ、確かにそうだな……」
これはどうも俺が思ってるより、良くない感じに噂が広まってるようだ。
本当は噂が風化していくのをゆっくり待つつもりだったけど、そんな呑気な事をしていたら知らない間にお面派のリーダーへと担ぎ上げられてる可能性がある。
だけどこんなの俺には回避できないし、一体サバンはどうやってこの噂の対処をするつもりなんだ?
そう思って頭を捻ってる俺を見てマヨは言った。
「バンテットさん、悩んでも仕方がありませんわ。それに今は班長に任せておけばきっと大丈夫ですわよ」
「いや、俺だってアイツの事を一応信頼してるつもりだ。だからきっと今回も上手くやってくれると思ってるよ……」
サバンはコルトが関わるとおかしくなるだけで、それ以外はしっかりしている。
それにアイツは出来ない事は最初から出来ないと言う男だ。
だから大丈夫……そう思った俺は、気がつけばマヨと一緒に頷いていた。
「とにかく町の事は全て班長にお願いしましょう。ただ、ダンジョン内の事になると話は別ですわ。今回ワタクシ達ギルド職員は、ダンジョンの援助にまで手を回す余裕がありませんの」
「いや、そこまでは迷惑かけられないから大丈夫だよ」
「ですが、もしゴロツキたちがここに押し寄せて来てもワタクシたちはすぐに駆けつける事が出来ませんわ。ですから、どうか奴らには気をつけてくださいまし」
「ああ、忠告ありがとうな」
正直ゴロツキが団体で来たら対処のしようがないだろう……。
それでも俺はお面の英雄でも何でもないから、例え脅されたとしてもお面派のリーダーになる事だけは絶対に拒否してやる。
そう思いながら、俺は盛大にため息をついたのだ。
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