ダンジョンで温泉宿とモフモフライフをはじめましょう!〜置き去りにされて8年後、復讐心で観光地計画が止まらない〜

猪鹿蝶

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第五章 襲来に備える俺

112、セシノのスキル

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 あの日、宿屋に泊まりに来た人は俺に言った。

「貴方が、お面の英雄バンテット様ですか?」

 俺は初め何を言われているのかわからなくて、その時は何も返す事は出来なかった。
 だけどその後も同じ事を聞いてくる人が何人もいた為、どういう事なのかと俺は確認してみたのだ。

「なんか今日は俺の事をそう聞いてくる人が多いんですけど、町の方で何かあったんですか?」
「いや、実はここにいるバンテットと名乗る男性が『真のお面の英雄』らしくてね。今、町ではその噂で持ちきりなんだよ。なんでもこの前の勇者派とお面派の争いも、彼一人で止めたとか……だから私もその人物を一目見ようとここまで来たわけなんだ」

 そう興奮気味に話す男に、俺は内心驚いていた。
 確かに争いを止める為に頑張ったけど、それは俺一人の力じゃない。だからそんな噂が流れている事が俺には信じられなかったのだ。
 なにより、俺がお面の英雄なんて笑えない冗談はやめてほしい。

「えっと、お面の英雄ってお面派のリーダーの事じゃなかったですか?」
「実はね、それは偽物だったらしいんだよ」
「……偽物?」
「噂だと彼は派閥を作る為の工作員だったとか、英雄願望者だとか色々言われているけど、まだその男は捕まってないからね。そこら辺の詳しい事はわかってないらしいんだよ」
「そうですか、まだ捕まってないんですね……」

 その事に少しガッカリしながらも、俺はお面派のリーダーを思い出す。
 その顔はお面で見る事は出来なかったが、確かに英雄と言われる程のオーラは感じられなかった。
 だからそいつが偽物だという予感はしていたけど、その代わりに俺がお面の英雄扱いされるのは意味がわからない……。

「それで、君はそのバンテットではないのかい?」

 そして最後にその客も、やはり同じ事を言ったのだ。
 だから俺は動揺を悟られないように考えていた。
 もしこの客のようにその話を信じている人たちが宿屋に押し寄せたら、きっと混乱がおきる。
 だから俺が今ここでバンテットだと認めるわけにはいかない。そう思って首を振ったのだった。


 そんな訳で、数日前から俺は宿屋の客から逃げるようにモンスター牧場に来ていた。
 そして今はセシノと一緒に、朝からトレーニングをしているところだったのだ。

「よいかセシノ。せっかくマスターと一緒に訓練するのじゃから、成果を見せて驚かせてやるのじゃ」
「はい、マリーさん」

 俺は気合の入ったセシノが何をするのかと、のんびり様子を見ていた。
 セシノはまだ慣れない手つきで指を踊らせると、魔法陣を描き始めたようだった。

「ここをこうして……これでよし。それでは『ブラックボックス』を召喚します!」

 そう叫んだ瞬間、セシノの頭上には人が一人入りそうな黒い立方体が出現したのだ。

「対象に座標を定めて針を射出して下さい」

 ブラックボックスと呼ばれた立方体はセシノの指示に合わせて角を少し開くと、真っ黒な針を俺めがけて飛ばしてきたのだ。

「おお、なんかよくわからないけど凄いな!」

 俺は余裕で結界を張ると、向かってくる針を呑気に観察していた。そして思った通り針は俺の結界を超える事はできなかった。
 だけど針は俺の予想とは違い、結界に触れるとバチッと黒いモヤを飛び散らせて地面に落ちていったのだ。
 つまりその針は魔法で作られた物じゃなくて、本物の可能性があるのか……?
 そう疑問に思いながらも、俺はセシノの攻撃を簡単に防いでしまった事に対して、これで良かったのかと不安になってしまいマリーを見たのだ。
 しかしそこには嬉しそうにセシノへ抱きつくマリーの姿があって、俺はホッとしたのだった。

「セシノ、よく頑張ったのじゃ。ワシはセシノがこんなにも早く習得出来るとは思っていなかったのじゃぞ!」
「いえいえ、これは根気よく教えて下さったマリーさんのおかげです」

 セシノはマリーを体から離すと、その手を取って頭を下げたのだ。
 そんな二人はとても微笑ましい。
 だけど俺は、完全に置いてけぼりになっていた。

「えーっと、喜びあってる所悪いんだけど聞いてもいいか?」
「は、はい。なんですか?」
「セシノはいつの間にこんな魔法を覚えたんだ? 俺、全く知らなかったんだけど……」
「そ、それは……」

 マリーの手を離したセシノは俺を見ると何かを言おうとした。
 だけどそれを遮るように、マリーがドヤ顔で言ったのだ。

「それは知らなくて当然じゃ。セシノはマスターと違って大真面目じゃから、毎日コッソリ特訓をしておったのじゃよ。それでいつかマスターを驚かせたいと言っておったのじゃ」
「ま、マリーさん!? そこまでは言わなくてもいいですから!」
「何故じゃ! せっかく頑張った結果なのじゃから、もっと自慢をしてもいいと思うのじゃ」
「で、でも……!」

 どうやらセシノは密かに特訓していた事を知られたくなかったようで、恥ずかしかったのかその顔は真っ赤になっていた。
 俺からしたら、こんなに成果が出ているのだから恥ずかしがらなくても良いのに……そう思ってしまったのだ。

「確かに魔法の才能がないって言ってたセシノが、魔法を使えるようになったのは凄いな。でも一つだけ気になってるんだけど、そのブラックボックスって一体なんなんだ?」
「えっと、それは……」

どう言うべきか悩んでいるセシノは、答えを縋るようにマリーを見た。

「仕方がないのぅ、セシノの代わりにワシが説明するのじゃ。実はこの魔法、魔法陣でセシノのスキルを無理矢理顕現させる事で成り立っておるのじゃ」
「スキルの顕現?」
「そうじゃ、その説明をする前にセシノが持つ本当のスキルについて話さないといけないのぅ」
「本当のスキルって……セシノは収納魔法付きのカバンを作れるスキルなんじゃないのか?」
「それは実のところ、半分間違いじゃ」

 ……半分ってなんだ?
 そういえばセシノがここに来たばかりの頃、マリーにステータスが気にならないかと聞かれた事がある。
 もしかしたらその時既に、マリーはセシノのスキルを把握していた可能性があるわけだ……。

「それなら本当のスキルって……?」
「うむ。セシノのスキルは、このブラックボックス……いや収納ボックスがスキルの本体と言えるじゃろう」
「収納ボックスが本体?」
「そうじゃ、今までそのスキルはカバンを通してでしか使えなかったじゃろ? そのせいでセシノは、収納魔法のついたカバンを作れるスキルだと勘違いしていたようなんじゃ」

 確かにそれなら、セシノが作った収納カバンの容量が少なかったり、セシノ以外使えなかったりするのも納得が出来る。
 だってそのカバンは、本当にただのカバンだったのだから……。

「つまりセシノは新しい収納カバンを生み出していたわけじゃなくて、毎回同じ収納ボックスにアクセスしていただけということか……」
「うむ、その通りじゃ!」

 マリーの話に納得していると、セシノは顔を赤らめながら俺に言った。

「あ、あの……。私もスキルについて今更詳しく知ったのが恥ずかしくて……だから何も言わないで下さい」
「いやいや、それでも十分凄いって! 自分の収納ボックスを常に持ってるなんて、俺からしたら凄く羨ましいんだからな」
「そうかもしれませんけど……過去の発言を思い出すと、恥ずかしくて恥ずかしくて……!」

 セシノはそう言いながら、手で完全に顔を覆ってしまった。
 だからこれ以上刺激しない方がいいと思った俺は、頭上に浮かぶブラックボックスを見ながら話題を変える事にしたのだ。
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