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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺

109、フラワーアート

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 前回試行錯誤をした結果、俺たちはフラワーアートを完成させる事は出来なかった。
 何故かと言えばディーネに時間を取られた事が後に響いて、その時はただ花を植えるだけになってしまったからだ。
 そして既にあの日からもう数日が経っていた。
 実は宿屋付近に突然湖が出来た事でちょっとした騒ぎになってしまい、数日間作業を進める事が出来なかったのだ。
 その為に俺たちは今日、改めてここに集まっていた。

「皆、今日こそフラワーアートを完成させるぞ!」
「「「おー!!」」」

 俺に続いて声を出したのはセシノとレッド、それにアーゴである。
 他のメンバーは忙しいそうなので、今日は人数が少ないけど頑張るしかない。

「今回は前と違って、ちゃんと作戦を練ってきた。だからそんなに時間をかけなくても出来る筈だ」
「そうですね。今からレッドさんとアーゴさんには元のサイズで手伝って貰うので、素早く作業する事が重要です」

 そう、前回の失敗から俺は学んだ。
 上から見る為の絵を地上で作ろうとした事が間違いだったのだ。
 だから俺たちは今回、フラワーアートを上空から作る事に決めていた。
 その為、アーゴとレッドには元のサイズに戻ってもらい、上に乗せてもらう必要があったのだ。

「客にレッドとアーゴを見られる可能性があるから、本当に早く作らないとまずいよな……」

 正直、こんな姿の二体を客に見られたらこの宿は終わる。特に今は殆どが一般客しかいないのだ。
 こんな巨大モンスターが近場に出る宿屋なんてトラウマ以外の何物でもないだろう。

「とにかく、ダンジョンが明るくなるまでに頑張るぞ!」
「「「おーー!!」」」

 こうして、やる気を出した俺たちはすぐ作業に取りかかったのだ。
 そんなわけで俺は今、巨大化したアーゴの肩に乗っていた。
 既に花は植えてあるので、セシノの絵を見ながら一生懸命配置を整えていくだけなんだけど……これがなかなか難しい。

「バンさん! そこの赤い花はもう少し右で、黄色の花をもう少し増やして、白い花を周りに沢山下さい」
「いやセシノ、一つずつ言ってくれないか!?」
「ご、ごめんなさい。私、急がないとって焦っちゃって……」

 そう言うセシノは、レッドに乗って俺よりさらに上空から絵を確認していた。

「いや、俺の要領が悪いだけだから謝らなくていい。寧ろ謝るのは俺の方だな、ごめん」
「いえいえ、バンさんは頑張ってますよ。あ、それと今動かした赤い花はほんの少し下に配置してください」
「わ、わかった」
 
 そして俺は何度もダメ出しをくらっては、細かく調整していった。
 そのうち俺は少しずつパニックなってしまったのだ。

「えっと黄色が右で、赤が下?」
「バンさん落ち着いてください。まだ時間はありますから、大丈夫です。でもその赤い花は下だけじゃなくて右斜め下です」
「わ、わかった!」

 セシノは優しいのに結構スパルタだった。
 でもそのおかげでダンジョンが明るくなる前に、フラワーアートを完成させる事が出来たのだ。
 確かにもの凄く大変だったけど、見下ろしたその景色はとても美しかった。
 そこには人魚の周りを色取り取りの魚が踊るように取り巻く、一つのアートが誕生していたのだ。

「バンさん……凄く綺麗ですよ!」
「ああ、これを俺たちが作ったなんて信じられないな」
「本当にそうですね……でも一番最初にこれを一緒に見た相手がバンさんなんて凄く嬉しいです」
「……ああ、俺たちはこれを作る為に頑張ったんだから、一番最初にこの絵を見る特権はあるよな!」
「えっと、そういう意味ではないのですけど……」

 じゃあ、どう言う意味で言ったのだろうかと俺は首を傾げてしまう。

「そ、それよりも早くレッドさんとアーゴさんには縮んで頂かないと!」
「確かにそうだな。アーゴ、悪いけど俺を降ろしたら縮んでもらってもいいか?」
「リョウカイ、マスター、オロス」

 アーゴは俺をゆっくり降ろすと、すぐに人型サイズへと戻っていた。
 そしてセシノの方を見るといつのまに地上に降りたのか、小さくなったレッドがすぐに俺の肩に乗ってきたのだ。
 どうやらレッドは俺の肩に乗るのが好きらしい。
 そんなレッドに気を取られていると、いつの間にかセシノが目の前にいた。
 その姿に俺はセシノが火傷や怪我をしてないか心配で、つい全身を見回してしまったのだ。

「ば、バンさん? そんな風に見られると恥ずかしいんですけど……」
「ご、ごめん! 確かに今の俺、変質者みたいだったよな……。いや、セシノがレッドに触れてたから少し心配でさ。セシノは鱗で火傷とかはしてないか?」
「はい、お借りしたこのローブのおかげで何ともないです。それに心配して下さってありがとうございます」
「いやいや、怪我をしてないなら良かったよ。それに本当はセシノをレッドに乗せるのは凄く不安だったんだ。でも今回は色んな角度からセシノには見て欲しかったから、レッドに乗ってもらうのが一番最適だと思ってさ」

 実際に客が見るのは窓からなんだけど、それでも俺はなるべく綺麗に花を並べたかったのだ。
 だって中途半端な物は、きっとすぐに飽きられてしまうからな。

「じゃあバンさんのこだわりの結果が、このフラワーアートには現れているんですね」
「ああ、そうだ。人の心を奪うような素晴らしい物があれば、何度も繰り返し来てくれる客がいるかもしれないからな」
「あの、それは……アンナさんに何度も通って欲しいって事ですか?」

 いい感じで締めて誤魔化そうと思ったけど、セシノにはわかってしまったようだ。俺がアンナをこの宿のリピーターにしようとしている事を……。
 実は久しぶりに会ったアンナの性格は昔と全く変わってなかった。だからきっとアイツには逃げ癖がまだ残っている筈だと俺は考えていた。
 つまりアンナがこのダンジョンに来たとしても、罠にかかる前に逃げ帰る可能性があるわけだ。その為、アンナにはこの宿が安全だと油断させる必要があった。
 それにせっかく温泉宿に来るのなら、ここを最大限満喫してもらった後に地獄を見てほしいと、俺は思ってしまったのだ。

「……確かにセシノの言う通りだよ。だけどそれは復讐の為に必要な事なんだ」
「バンさん……」

 詳しく聞きたそうにしているセシノには悪いけど、まだそれを話す訳にはいかない。
 そう思って、俺は少し話題を逸らしたのだ。

「それで一応確認したいんだけど、今のダンジョンでアンナは喜んでくれると思うか?」
「……えっと、そうですね。私が見た感じではこれはアンナさんの趣味と一致してると思います」
「それならよかった。じゃあ後はアンナを上手く誘い出せばいいだけ、なんだけど……。まだ暫くは町に行かない方がいいし、ダンジョンで待機するしかないんだよな」

 俺たちはダンジョンに引きこもっていた方がいいとイアさんに言われているので、ここから出るわけにはいかない。
 それに町の方が平和になれば向こうから誰かが会いにくるだろうしな。

「あの、私はお土産屋さんの事でマリーさんともう少し話を詰めたいので、まだ時間がかかると思います」
「そうか、じゃあ俺はそれが終わるまで他に作れそうな物がないか考えつつ、町の情報をお客さんに聞いておく事にするよ」
「はい、お願いします」

 こうして俺たちの観光地計画は一歩前に進んだ。
 だけどまだまだやれる事はある筈だと、俺は頭を捻らせていた。
 そしてその日、来店した客に町の状況を聞いた俺はとある話題に驚く事になったのだ。
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