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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺
106、怒を鎮めよう
しおりを挟む俺たちはフラワーアートを一旦中止して、急いでディーネの所に向かっていた。
レッドの話では、突然庭園温泉の中からディーネが現れたと思ったら、何か喚き散らしながら攻撃をしてきたらしい。
何で湖エリアのメインボスであるディーネがここに襲撃してきたのかは、レッド自身も全く理由がわからないようだ。
というよりレッドとディーネは数回しか会った事がない為、ほぼ初対面なのに謎は深まるばかりだった。
「レッド、ディーネはまだ庭園温泉にいるんだよな?」
「気配はあるから、多分いると思うぞ!」
そう言われても遠くに見える庭園温泉は、とても穏やかに見える。
本当にここでディーネが暴れていたのか不思議に思いながら、俺は庭園温泉を見回した。
「それならディーネは何処にいるんだ……?」
「えーっと、ディーネの気配なら神殿の中で……くそぉ、俺様の寝床が取られてるぞ~!!」
「レッド、まだそうと決まったわけじゃないからとりあえず落ち着けって」
喚くレッドを宥めた俺は、何か嫌な予感を感じつつも庭園温泉へと辿り着いていた。
しかしいくら待てども神殿から中々出てこないディーネに、俺は仕方がないとその名前を呼ぼうとした……その時だった。
ディーネの殺気が庭園温泉全体を覆ったのだ。
「くそっ、アイツは俺様の神殿ごと壊すつもりじゃないよな!?」
「マスター、ディーネは仕掛けてくるつもりじゃから気をつけるのじゃ!」
殺気に逸早く反応したのはレッドとマリーだった。
でもその殺気は俺でもすぐにわかるぐらい、空気がピリピリとしていたのだ。
「ああ、わかるってる。とりあえず俺は温泉に結界を貼るから、マリーはセシノを連れて少し下がって待っててくれ!」
「わかったのじゃ! セシノ、ワシの後ろから離れてはいかんのじゃぞ?」
「は、はい」
マリーに手を取られたセシノが、心配そうに俺を見ながら後ろに下がっていく。
そして二人が安全地帯に待機したのを確認した俺は、庭園温泉に向けてプロテクト・ゾーンを展開した。
結界が張られた事に気がついたディーネは、すぐに神殿から飛び出してきたのだ。
「ふふふ、やっと来たか! こんな事が出来るのはマスターしかおらぬからな。マスター、妾はずっと待っておったのであるぞ!」
そう言いながら結界スレスレまで来たディーネは、何故かレッドを見て驚愕に目を見開いたのだ。
「れ、レッド貴様! マスターの側だけでは物足りず、肩の上にまで乗っておるというのか!?」
確かにレッドは小さくなって俺の肩に乗っているけど、そこはそんなに怒る所なのだろうか?
「なんだ、ディーネ……もしかして俺様が羨ましいのかぁ?」
「くっ……その通り、羨まし過ぎるのであるぞ! しかし今は結界のせいでマスターへと近づけぬうえに魔法が打てぬ……」
「えっと、ディーネ。とりあえず一旦落ち着いて話し合いをさせてくれないか? お前に攻撃の意思がないと判断したら、この結界はすぐにでも解除するからさ」
「それならば早く解除するがよい!」
どう見ても、今解除したら絶対に魔法を打ってくるに決まっている。
だから俺はそのままディーネに質問した。
「そんな殺気を出してるのにダメに決まってるだろ。それとディーネ、なんでこんな事したんだ。ディーネの事だからちゃんと理由はあるんだろ?」
「うむその通りだ……これは、マスターが悪いのであるぞ!」
「え、俺のせい……?」
確かに俺はディーネを常に避けている為、思い当たる事が多すぎて反論できなかった。
そんな俺を見たディーネは、少し悲しそうな顔をするとポツリポツリと話始めたのだ。
「妾はずっとマスターが来るのを待っておるのに、全然会いに来てはくれぬではないか……。それだというのに、最近マスターはレッドを近くに置いておると噂が流れてきておったのだ。それゆえ妾はいてもたってもいられず、この場所へ急ぎ確かめに来たわけであるぞ」
「あー、成る程。でもな最近は会いに行かなかったというよりは、そんな時間が俺になかったんだよ」
確かにディーネを避けていたのは事実だけど、忙しくて湖エリアに行く暇も無かったのも事実だからな。
「それは仕方がないのはわかっておる! しかし何故レッドがこの場に住んでおるのか、妾はそこが解せぬ。それならば妾は、妾も……!」
「あの、ディーネ……?」
プルプル震え出したディーネに嫌な予感がした俺は、目の前に結界が張られているのに身構えてしまったのだ。
「つまり、妾もマスターの側にいたいのである! ゆえに、レッドだけマスターの近くにいてズルのであるぞ!!」
ディーネは怒りのままに、尻尾を勢いよく温泉へと叩きつけた。
それだけなのに水飛沫は結界を軽々超え、多分魔力を帯びていないただのお湯だけが俺たちへと降り注いでいた。
「なんだろう大した量の水じゃないけど、地味に濡れて嫌な攻撃だな……」
「バンさん、そんな呑気な事言ってる場合じゃないですよ。このままだと音でお客様が起きちゃいます!」
「しまった……!」
この時の俺は客の事をすっかり忘れていた。
だからディーネを鎮める為の対策をすぐに考えないといけなかった。
だってディーネを客に見られたら最後だ。きっと客が二度と来なくなるだけじゃなく、変な噂が広まって宿のイメージダウンになるに決まってる。
「とりあえず俺の小結界でディーネを押さえ込んでみる」
俺は小結界を展開しようと、幾つもの立方体をディーネの体に触れるように生成した。
「……なんぞコレは? 動きにくいでないか、妾の邪魔をするでない!!」
しかしディーネは完全に結界が展開する前に小結界を察知すると、立方体を力技で破壊したのだ。
「嘘だろ、何でそんな簡単に壊れたんだ!?」
「マスター、ワシが見た感じじゃと小結界は物理攻撃の耐性が少し低いようじゃ」
と、いう事は俺の結界を壊した奴は物理力が異常に高いって事か?
「でも待ってくれ、ディーネって魔法攻撃特化なんじゃ……!?」
「いやディーネは魔法も確かに強いのじゃが、あの魔法速度と瞬間移動並の素早さは物理力による賜物じゃからな……力だけならメインボスの中では一番強い可能性もあるのじゃよ」
「そんなチートみたいなモンスターがいてたまるか!?」
ようするにマリーの話から、俺の小結界ではディーネを抑える事は不可能という事だ。
もうこうなったら残る手段は、ディーネのご機嫌をとるしかない。
そう思った俺はとにかく頭を下げて謝っていた。
「ごめんディーネ、俺がわるかった。だからこれ以上は暴れないでくれ! 俺にはお前の望みが何なのかわからないけど、俺が出来る事なら何でも聞いてやるからさ」
「…………何でも、とな?」
俺の言葉に、ディーネは尻尾を振り回すのをピタリとやめた。
「あ、ああ。俺に叶えられる事ならなんでもいい」
「その約束は、本当の本当であろうな?」
「勿論だ。もし約束を破ったら、お前の望み通り俺を湖に沈めてくれても構わない」
まあ本当にそうなったら、水の中で生きられない俺には死しか待っていないんだけどな……。
そう思いながら答えを待っていると、何故かディーネは少し恥ずかしそうに尻尾を振り、口元に手を当てて可愛いく俺に言ったのだ。
「それなら妾も……湖エリアのメインボスを辞める事を認めてくれるのであれば、ここで暴れるのを止めてやってもよいのであるぞ?」
「…………ん?」
メインボスを辞める??
そう疑問に思った俺は、本当にそれだけでいいのかともう一度ディーネに聞き返していたのだ。
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