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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺
102、心配してくれる人
しおりを挟む目を丸くして驚く俺に、セシノは何故か頭を下げていた。
「ごめんなさい。バンさんに確認もせず、私ったら勝手にアンナさんを誘うなんて……」
「いや、ちょっと待ってくれ!? 理解する為に一旦落ち着かせてくれ!」
俺は混乱する頭を整理する為、一度大きく深呼吸する。
「……えーっと改めて確認させてもらうけど、つまりセシノの話だと近々アンナがここへ来るって事でいいんだよな?」
「はい、そうです。あっ、でも近々ではないかもしれません。アンナさんはここの観光地計画が進んだらって話だったので……。なんだか期待させてしまってすみません」
すぐではなくとも、いつかアンナはここへ来る。
それだけで俺は、今日の頑張りが無駄じゃなかったと思えたのだ。
「いや、謝らないでくれ。寧ろセシノのおかげでアンナはここに来るんだ。それなら俺たちは早く観光地計画を進めないとな!」
俺は、はやる気持ちが抑えられずに立ち上がる。
しかしそんな俺に釘を刺したのはマリーだった。
「マスター、今すぐ実行したい気持ちはわかるのじゃが……今はまだ話の途中じゃよ?」
「わ、わかってるって。少し気持ちが先走っただけだから……」
そう言って俺は再び椅子へと座り直す。
すると今度は横にいるセシノが俺に詰め寄ってきたのだ。
「それでバンさんとギルドで別れた後、一体何があったのか教えて下さい!」
「わかった、わかったから! セシノ顔が近いって!?」
「あっ……!? す、すみません……」
凄く恥ずかしそうにセシノが離れたのを確認してから、俺はギルドの屋上での事を話始めたのだ。
その結果、当たり前だけど俺が限界を超えて魔力を使い結界を発動させた事にセシノは怒った。
「バンさん、無理はしないでって言ったのにどうして死ぬかもしれない事をするんですか!」
「いや、それは……」
「全く、セシノの言う通りじゃぞ。魔力が足りなければ生命力を消耗すると、マスターもわかっておるのじゃろ?」
「わかってるけどさ……あの時の俺は、イアさんの期待を裏切りたくなかったんだよ」
俺の根本には、もう二度と役立たずなんて言われたくない。その気持ちが強く残っている。
だから少しぐらい無理してでもと思うのは、仕方がない事だった。
「それなら次からは、魔力が足りない事があれば先に言ってください。私は何もできませんけど魔力量だけは結構ある方なんです。だから私でもバンさんに魔力を分ける事ぐらいならできますから……」
そう言いながら俺の服を掴んだセシノを見て、俺はハッとした。
その瞳にはすでに溢れそうなほど涙が溜まっていたのだ。驚いた俺は勢いよくセシノに謝っていた。
「ごめん! 俺が悪かったから、頼むからそんな泣きそうな顔しないでくれ……」
「……っ!?」
俺は泣かないで欲しくて頭に手を置いたのに、その反動でセシノの瞳からは大粒の涙が溢れてしまったのだ。
セシノはすぐに両手で顔を覆うと俺に言った。
「バンさんのバカ……無理しないで下さいって言ったのに、いつも一人で頑張ってばっかで……」
「……ああ、ごめんな」
そして俺はセシノに相槌をしながら考えてしまったのだ。
俺はここに来てからずっと一人で生きていた。確かにマリーたちはいたけど、モンスターであるアイツらは気まぐれだ。だから俺は全て一人で出来るようにならないといけなかった。
それに今までは無理をしてもマリーに小言を言われるだけだったからな……それなのに、今の俺にはこうやって心配して泣いてくれる人がいる。
セシノには申し訳ないけど、今の俺はそれが凄く嬉しかった。
きっとこんな俺はセシノの保護者として最低な人間だと思う。だからこれからは、セシノが安心できるようにもっとしっかりしないと駄目だよなと、俺は深く反省をしたのだった。
それから俺はセシノが落ち着くまで、暫く頭を撫で続けた。
そしてようやく泣き止んだセシノは、恥ずかしそうに後ろを向いていた。
そんなセシノへ俺は言う。
「これからは困った事があれば、まず最初にセシノへと相談するから。それに俺の魔力が足りなくなりそうだったら魔力提供もお願いするよ」
「……約束、して下さいよ?」
「ああ、わかった。約束だ……」
そう言って俺はセシノの手を握ると、セシノは驚いてこちらを振り向いたのだ。
確かにその顔は少し赤かったけど、僅かに微笑んでいた。
その表情にどうやらもう怒っていないようだと、俺はホッとしたのだった。
その後、セシノが完全に落ち着いてから俺は話の続きを始めた。そして最後に俺の結界を壊したあの男の事を伝えたのだ。
その話に即座に反応したのはマリーだった。
「成る程のぅ……マスターの結界を簡単に壊したうえに、マスターの本名と8年前の事まで匂わせてくるとは、本当に怪しい男じゃ」
「もしかしてバンさんが置き去りにされたのも、仕組まれた事だったりとか……?」
「流石にそれはない。8年前の事はアンナが悪いとしか思えないからな」
それに今更、これは計画的犯行でしたとか言われてもな……。
「でもそれはアンナさんの性格を知ったうえで、上手く誘導した可能性はありませんか?」
「そうだとしても俺を最終的に蹴り落としたのはアンナだ。それなら誘導されたとしても、それに乗ったアンナが悪いと思うのは当然だろ?」
「で、でもそれだとアンナさんが……」
「でもな。アンナと俺を嵌めたやつが本当にいるなら、俺はソイツだって許すつもりはないからな」
「バンさん……」
でもそれを考えるのはアンナに復讐してからだ。
それにあの男はすぐ会えると言ってたし、どうせそのうちわかるだろう。
「マスター、今後もその男を警戒するのはわかったのじゃが、結界についてはどうするのじゃ?」
「それは、他にも俺の結界を壊せる奴がいるのか遭遇してみないとわからない」
「うーむ、ワシもその場におれば何かわかったかも知れぬのじゃが……。とりあえず明日からは時間を作って、特訓を再開するかのぅ」
その言葉に俺は嫌な顔をしてしまう。
そして何も知らないセシノは首を傾げて俺を見たのだ。
「特訓、ですか?」
「……実はな、俺がこのスキルを使いこなせるようになったのはマリーの特訓のおかげなんだ。でもそれは凄くキツくて……」
「何を言うておるのじゃ……あんなのたいした事ないのじゃ」
いやいや、あの時俺は何度気を失ったと思っているんだ……。
それなのに何も知らないセシノは真剣な顔で言ったのだ。
「あのマリーさん、できれば私も特訓してくれませんか?」
「いや、セシノはやめておいた方が……」
「いいえ、私は今回の事でよく分かりました。このまま戦えないとバンさんのお荷物になってしまいます。それなら特訓して、少しでもバンさんを助けたい……」
もしかしてセシノは今回、俺とバラバラになった事を気にしてるのか?
そう思って見ていたら、何故かセシノの顔が少しずつ赤くなったので俺は心配になってしまう。
「せ、セシノ……顔赤くなってるけど大丈夫か?」
「……だ、大丈夫です。それに私が言いたいのは、次はアンナさんじゃなくて……わ、私がバンさんの横でお役に立てたらな、なんて……」
「なんといい話じゃ! セシノのその意気込み、ワシには響いたのじゃ……。では二人とも明日から時間がある時に特訓するのじゃ!」
「が、頑張ります!」
「いや、その前に観光地計画……」
「もちろん、そっちも頑張ります!」
やる気に溢れているセシノを見て、本当に大丈夫だろうかと俺は不安になってしまったのだった。
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