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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺
101、帰ったらまずは…
しおりを挟む「ただいま、マリー」
「マリーさん、ただいま帰りました」
まだ1日も経っていないのに、何故かマリーに会うのが久しぶりに感じる。だから俺は嬉しくて、マリーの頭を撫でていた。
しかも当のマリーは中々俺から離れなくて、なんだか可愛く思えてしまったのだ。
「なんだ、一日離れてただけで寂しくなったのか?」
「いや、そんなわけないじゃろ? これは身体検査しているだけじゃ!」
「し、身体検査!?」
「マスターが無理していないか、ワシには確認する義務があるのじゃよ?」
心配してくれるのは嬉しいけど、そんな義務初めて聞いたんだが……?
しかもセシノまで、興味津々に俺のこと見ないで欲しい。
「ど、どうですか……バンさんにおかしい所はありませんでしたか?」
「ふむ、少し無理をした形跡はあるが……体は壊してないようじゃな」
「無理した……? バンさん、どういう事か詳しく教えてください!」
「え、いやその話は宿に帰ってからでいいだろ? マリー、俺たちは凄く疲れてるからとりあえず宿まで連れてってくれ」
「わかったのじゃ」
マリーはすぐに狼に変身すると、俺たちを乗せて走り出した。
しかし俺にしがみついてるセシノは、不審そうな顔でジーッと俺を見つめていた。
だけどそれに気が付かないフリをして、俺は宿がどうだったかマリーに確認する事にしたのだ。
「マリー、宿の方は人が少なくても大丈夫だったか?」
「いや、その事なんじゃが……マスターたちが町に出ている間に、そちらでは何かあったのじゃろ?」
「派閥同士の抗争があったけど、こっちにも何か影響があったのか?」
「それがじゃな……このダンジョンにいた全ての冒険者たちは町で何かあったと知るや否や、すぐにここからいなくなってしまったのじゃよ」
「あー、成る程。まあ確かにあの規模の争いがおきたら、ファミリーに呼び戻されるのは仕方がないか……」
「それじゃから今宿にいるのは、冒険者ではない一般の客じゃな。そ奴らは、町よりここのが安全そうだと連泊を決めた客が多かったかのぅ」
その話に俺は少し呆れてしまう。
確かに町よりは暫く安全かもしれないけど……ここは一応ダンジョンなんだぞ?
もう少し一般人には危機感を持って貰えるように、何か注意書きでもする必要があるかもしれないな。
「うーん。でもそうなると、一般客が詰め寄せる可能性も考えないといけないのか?」
「それは町の様子次第じゃろ?」
それもそうかと思ってる間に、俺たちは宿まで帰ってきていた。
行きと同じように屋根上に着いた俺たちは、梯子を使って室内へと降り立つ。
しかもそこには、俺たちを待ち構えるようにフォグとフラフの姿があったのだ。
「おう、マスターおかえりだぜ!」
「マスター、おかえり!」
「フォグさん、フラフちゃん! お出迎えありがとうございます」
セシノが嬉しそうに二人へ挨拶していたのに、俺は吸い込まれるようにフォグとフラフを無意識に抱きしめていた。
そのモフモフを見てしまったら、体が勝手に動くのは仕方がないんだ!
「はぁ……やっぱこれだよな。家に帰って来たって実感が凄く湧くよ」
「バンさん……」
「マスター……」
セシノとマリーに可哀想な瞳で見つめられてるけど、これは仕方がない事なんだ。
今の俺には癒しがとても必要なんだから!
「おう、マスターの元気が出るならいくらでもモフモフしてくれていいぜ!」
「僕も、もっとモフモフ、いいよ」
「二人ともありがとな、じゃあ遠慮なく!」
二人の許可も貰ったので、俺は遠慮なくそのモフモフをワシャワシャして堪能する。
ああ、全ての疲れが吹き飛ぶな……俺は今、最高に幸せだ!
しかし完全に幸せに浸っていた俺は、マリーの呆れた声で現実に引き戻されてしまったのだ。
「マスター楽しそうな所悪いのじゃが、それは後にしてもらえんかのぅ……」
「そうですよ、今日の話を皆さんと共有しないと」
「……あー、そうだよな」
こうして俺はマリーとセシノに急かされて、モフモフから引き剥がされたのだった。
◆ ◆ ◆
今、俺たちはいつものダイニングルームに集まっていた。
俺とセシノは隣同士で座り、俺の向かいにはマリーが、その隣にはフォグがいた。
そしてフラフは小さくなって俺に抱きしめられている。やはり今の俺にはモフモフが必要だから、これは仕方がない事なんだ。
因みにここにはいないアーゴは、玄関ホールで受付をしてくれてるらしい。
そして話し合いは、セシノが立ち上がり机を叩いた事で突如始まったのだ。
「と、言うわけで……まずはバンさんが無理した理由を教えて貰えますよね!?」
「え、いきなりその話からなのか? マリーたちにはそれより前から話す必要があると思うからさ、とりあえず順を追って話すよ」
「た、確かにそうですね……」
そう言いながらセシノは、少し恥ずかしそうに椅子に座り直していた。
そして俺はマリーに今日の事を掻い摘んで話し始めたのだ。
当初の目的であるアンナの好みを把握できた事、その後買い物をしていたら派閥争いに巻き込まれた事、そしてアンナと再会した事……。
「このお面効果のおかげなのか幸いな事に、アンナは俺に全く気がつかなかったよ」
「うむうむ、それはそうじゃろ。マスターの着けているお面は、ワシが作った特注品じゃからな」
もしかして、実はこのお面に認識阻害でもついてたりするのだろうか?
そう首を傾げていると、突然何かを思い出したのかセシノが声をあげたのだ。
「そうだ! 私、アンナさん事でバンさんに伝えておきたい事があるんですけど……?」
「ああ、そうか。セシノはアンナと話す機会が多かったもんな、何かいい情報でも手に入れたのか?」
「情報ではないですけど……実は私アンナさん本人だと知らずに、この温泉宿へ来てもらう許可を得てしまいました」
……え?
その唐突な話に俺は一瞬、何を言われたのか全く理解できなかったのだ。
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