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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺
97、幹部はどこ?(セシノ視点)
しおりを挟むここで、バンが結界を張ってすぐのセシノ視点が入ります。
ーー▼ーー▽ーー▼ーー▽ーー▼ーー
突然、イアさんとの通信が切れた。
そのおかげでバンさんが結界を張ったのが、私にもすぐにわかったのだ。
「どうやら、バンデットさんは成功したみたいですね」
シガンさんが魔法を展開しようとして、上手くいかない事を確認しながらそう呟いた。
その言葉で私はホッとするのと同時に、少し心配していた。
バンさん、無理してないといいけど……。
そんな私の横には今、シェイラさんとミラさんとシガンさんの三人が待機していた。
ミラさんはシガンさんの様子を見て勝ち誇ったように言う。
「私、バンデットさんの結界内に入った事があるので、シガンみたいに焦ってなんてないのですよ!」
「べ、別に僕は焦ってなんて……」
そう言いながら短剣を取り出すシガンさんに、シェイラさんが止めに入っていた。
「もう、すぐに死のうとしないの!」
「そうですよ、毎回止めてくれるシェイラさんが可哀想です!」
そんな三人の様子を見ている限り、とりあえずパニックになったりはしてないようだ。
「僕の事はお気になさらず。それより気になったんですけど、結界はギルド周りにも追加で張られているのでしょうか?」
シガンが指差した方を見ると、少し離れたところに人集りができていた。
どうやら見えない壁のせいで、そこから出入りがでにないと混乱しているようだ。
「これって、もしかして犯人を逃がさない為ってやつです?」
「確かにミラの言う通りかもしれないわね」
「でしたら、ここからは私たちが頑張る番です。この四人で怪しい人を探し出しましょうね!」
「セシノ、でもそれはバンテットさんのためなんでしょ?」
「は、はい。そうですけど……」
自分で言ってて恥ずかしくなった私はシェイラさんから顔を逸らすと、今はギルドを見るのに集中する事にした。
ギルドの出入口は基本的に一般の人が使う表口と、職員が出入りする裏口の二つしかない。
そして表は私たち、裏はイアさんの仲間の人たちが見てくれてるらしい。
でも出入口は今も人が殺到している為、外に出られる状態ではない。だから外を確認するなら窓から見るしかないと思う。
だからギルドの窓を隅から隅までジッと見ていると、シェイラさんが私の肩に手を置いたのだ。
「ねぇ、あれってバンデットさんじゃない?」
「え?」
シェイラさんに言われてギルドの屋上を見ると、確かにバンさんがいた。
しかも、何か凄い勢いで身振り手振りしてるけど……。
「あの、バン……テッドさんが何を言いたいのか、誰かわかります?」
「いや、わからないわ。でもあんなにも大袈裟に身振り手振りしてるし、もしかしたら何かビックリな情報があるのかもしれないわね」
「うぅ~、私には何ていってるかわからないです~!」
「でもそこまで難しいものでは無いような……もう少し観察してみましょう」
私たちは皆で首を傾げながら、バンさんをよく見る事にした。
バンさんはギルドを指差して次にお面を、そして偉そうなポーズをとってまた最後にギルドを指差す。先程からそのループを何度も繰り返していた。
そして、それをいち早く理解したのはシガンさんだった。
「もしかして、ギルドにお面派の偉い人がいるって事ではないですか?」
「偉い人って、幹部の事です?」
「それをわざわざ言うって事は……もしかして、ここに幹部が確実にいるって言いたいんじゃないかしら!?」
シェイラさんの言葉に、私たちは成る程と顔を見合わせていた。
「これってイアさんにも伝えないといけないですよね?」
「それならイアさんだけではなく仲間同士でも共有した方がいいと思います。だから仲間を全員把握している僕が伝えて来ます」
「シガンさん。すみませんが、よろしくお願いします」
私が頭を下げている間に、シガンさんは既にギルドに向けて走り出していた。
しかもまだ表は人がいっぱいなので、ギルドに入る為には再びダンジョン塔から遠周りしないといけなかった。
そんなシガンさんを見送った私たちは、バンさんにもう大丈夫だと伝えるために三人で頭の上に丸を作る。
ソレを見たバンさんはホッとして、手を振ってくれたのだ。
「それにしても結界が発動してから少し経ちましたけど、何もおきませんね」
「ギルド内で、何かおきてる感じもないです!」
「うーん、本当に怪しい人は出てくるのかしら?」
シェイラさんの言う通り、私もそこが一番不安だった。
「とにかく待つしかーー」
ない、と言おうとしたのに突然ミラさんが叫んだのだ。
「あっ、あそこ見てくだしゃい!」
焦ったのか噛んでしまったミラさんが指差したのは2階の窓で、そこから顔を出して外を見ている黒髪の男がいた。
「誰かいるわ!?」
「でもギルド職員じゃないですし……あの人お面の被ってませんか?」
「そんなあからさまに怪しい人いるのです!?」
でも何度見てもその人はギルド職員の格好はしていないし、何故かお面を被っているように見える。
「本当です……こんなときにギルド内で堂々とお面被ってる人がいるのです」
「いえ、もしかすると被ったばかりかもしれませんよ。だってあの人、お面の紐を結びながら外を見てませんか?」
「言われれば確かにそうね、それにしてもあの部屋は何処かしら……?」
そう話あってる間に男はお面の紐を結び終えたのか、突然窓から飛び降りたのだ。
そして綺麗に着地するとすぐに走り出していた。
私たちは頷き合いその男を追いかけようとして、すぐにギルド周辺に結界が張られていた事を思い出す。
そのせいで立ち止まった男は、いつのまにか銀髪ロングのお面をしている女性と合流していた。
しかも二人は、結界のせいで外に出られない事で何故か揉め出したのだ。
「貴方が来るのが遅すぎて、閉じ込められてしまったではないの!」
「えー、僕のせいなの?」
「そうよ。ただでさえ魔法が発動しなかったからイライラしてるのに、その理由も今の所全くわからないのよ。あれは私が数ヶ月間前からしっかり下準備した努力の結晶だったのに……」
「いや、発動しなかったのは僕のせいじゃないよねー?」
その会話は確実に大規模魔法の話をしていた。
だからこの人達がお面派の幹部だと確信した私たちは、まだ屋上で辺りを見回していたバンさんに向けて大きく手を振り合図した。
今は近くに二人がいるため声は出せない。
だけどその二人の声は、まだ私に聞こえていた。
「今回魔法が発動しなかった原因は、この結界のせいだと思うよー?」
「それがわかっているのなら、どうにか出来ないか少しぐらい考えてくれないと困るわよ……」
その会話に、私はドキッとしたのだ。
バンさんの結界を簡単に壊せるとは思えないけど、ここは早くどうにかしないと!
焦った私はバンさんに気付いてもらう為、先ほどよりも大きい動作で手を振った。
ーーバンさん、どうか気がついて!
そう願った瞬間。
二人の悲鳴が聞こえたのだ。
「何よこれ!?」
「えっ、え?」
振り返ると、二人の周りに小さな結界がまとわりついていた。
焦っている二人は身動きが取れないまま宙吊りにされ、バンさんのいる屋上へと運ばれて行くのを私たちは唖然と見送った。
そしてシェイラさんがポツリと呟いた。
「バンデットさんって凄いのね。でもこの見覚えのある結界……あれ?」
突然黙ってしまったシェイラさんに、私は何か嫌な予感がした。
「シェイラさん、どうしました?」
「……いえ、ごめんなさい。何でもないわ」
そうニコリと微笑むシェイラさんに、私は気のせいかとホッとため息をついたのだった。
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