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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺
95、待機中
しおりを挟む何でアンナと二人なんだ。
そう思いながら頭を抱えている俺は今、アンナとギルドの屋上にいる。
どうやらここは休憩所になっているのか、椅子と机が置いてあり周りには落下防止用の柵がつけられていた。
そして俺はその椅子に座り、向かいに座るアンナを見ないようにしているところだった。
だってこんなのは俺からしたら最悪な状況なのに、この組み合わせにはちゃんとした理由があるというのだ。
どうやらアンナの魔法感知は非常に高く、他に適任者がいないらしい……。
そういうわけだから頑張ってと、ニコニコしながら去っていったイアさんを思い出して、俺はため息をついてしまう。
なるべく近づきたくないのにここで離れたら逆に怪しまれるし、今復讐するわけにもいかない。こんな状態で俺は一体どうしたらいいんだよ……。
そう思いながらアンナをチラリと見ると、本気で集中しているのか静かに目を瞑っていた。
今はそのおかげで会話せずに済んでるし、それに静かにしてれば見た目だけはいいんだけどな……。
そう思いじーっと見てしまった俺は、ハッとしてすぐにアンナから目を逸らす。
くそっ、こうなるからアンナを見たらダメなんだ。早く終わらせて、ダンジョンに帰るために俺も集中しないと。
俺は、先程イアさんに渡されたボトルタイプの魔力増幅薬に口をつけた。
一応イアさんには俺の魔力量がまだ限界値を超えたままだと教えてもらっている。だけど今回は俺のダンジョンよりも広いため、本気で魔力がもつかわからないから……念のためだ。
そう思いながら飲んでいたら、突然イアさんの声が聞こえて俺は吹き出しそうになってしまう。
『バン、聞こえますわよね?』
『っぐ! は、はい。あの、これって俺にだけ聞こえてますよね?』
何とか魔力増幅薬を飲み込んだ俺は、イアさんが俺の名前を言った事に少し驚いていた。だから俺はアンナに聞こえてないか気になってしまい、アンナの方をチラっと見てしまう。
因みにイアさんにもらった通信アイテムは耳に直接取り付けるタイプなので、その人にしか聞こえないし勿論声に出す必要もない。
流石、高級な通信アイテムなだけある。
『大丈夫、バンにしか聴こえてないですわ。今はいつ魔法が発動するかわかりませんから、アンナさんには集中したままでいてほしいですもの。ですが念のため、そちらの現状を教えてもらえると嬉しいですわ』
『えっと、今のところ動きはないですね……それに結界を張ったら多分このアイテムは使えなくなるので、そこは臨機応変によろしくお願いします』
『ええ、それは各自に伝えてありますから大丈夫ですわ』
『ありがとうございます。それでイアさんの方はどんな感じですか?』
『こちらは、ギルドに滞在していたファミリーの仲間たち、それとサバンを捕まえましたわ』
『サバン?』
なんでギルド職員であるサバンを連れてきたのかと、俺は首を傾げてしまう。
『ギルド職員は、お面派と通じてる可能性もあるんじゃ……』
『サバンは、お面派ではありませんわ』
『え、どうしてそう言い切れるのですか?』
俺だってサバンとは仲がいいから疑いたい訳じゃない。
だけど100%信用できるかといえは、俺には無理だと思う。
『彼は勝手にコルト派を名乗ってますもの』
『は? コルト派……』
その単語に俺は驚きを通り越して呆れてしまう。
コルトは東エリアの冒険者ギルド会長であり、確かにサバンの好きな相手だけど……アイツ、勝手に派閥名乗ってんのかよ。
『勿論、そんな事言ってるのはサバン一人だけしかいませんわ。ですからあの男が他の派閥に乗り換える事はまずありえませんわね』
『確かにアイツは馬鹿みたいにコルト一筋ですからね』
もしこれでサバンがお面派だったら、絶対誰かに脅されてるとしか思えない。だけどアイツを脅せるのは、コルトぐらいしか俺には思い浮かばないしな……。
そんなコルト自身も由緒正しき勇者パーティーの末裔なので、派閥とか以前の話になってしまう。
『だからサバンは大丈夫なのですわ。それにサバンには仲が良くても他の職員に、絶対漏らさないよう伝えてありますの。あの男、ああみえて口は堅いですものね』
『……本当、そうですよね』
俺はいつも、アイツの口が堅いところに助けられてる。
だからサバンがお面派じゃなくてよかったと、本気でホッとしてしまったのだ。
『そういうわけで現在、各部屋に人員を一人ずつ配置出来ていますわ。それでも上層部の部屋には流石に入れませんでしたが、サバンが言うには今のお偉いさんは全員勇者派だから、お面派につくのはあり得ないらしいですわ』
『それは凄い偏りですね。でもそっちが順調そうなのは良かったですし、この後もまだ大変だと思うので頑張って下さい』
『それを言うなら、バンもアンナさんと一緒に仲良く頑張ってくれると嬉しいですわ!』
そう言って、ブチッと通信は切れた。
俺に文句さえ言わせなてくれないなんて、なんて酷い人なんだ。
そう思った俺は一旦この荒んだ気持ちを落ち着かせたくて、セシノへ話しかける事にした。
『セシノ、聞こえるか?』
『バンさん? 今は集中してて忙しいんじゃ……』
『今はまだ大丈夫だと思う。それよりそっちが気になってな、どんな感じだ?』
『えっと、実はギルドを出てすぐに偶然シェイラさんと合流したんです。それにイアさんがつけてくれた護衛さんも、ギルドにたまたまいたシガンさんとミラさんだったので、とても安心して待機できてます』
セシノの話で四人の姿を思い浮かべた俺は、とてもほっこりしてしまう。
そのおかげで、だいぶ精神も落ち着いてきた気がする。
『それならよかった。それと既に聞いてるとは思うけど、念のため三人には突然魔法とスキルが使えなくなっても焦らないようにと、伝えておいてくれ』
『わかりました。あの、バンさん……無理だけはしないで下さいね』
『ああ、セシノも危ないと思ったらすぐに逃げるんだぞ?』
『は、はい! お互いに頑張りましょうね』
『おう、それじゃあまたな』
そう言って通信を切る。
目を瞑ったまま深呼吸した俺は、セシノの優しさを噛み締める。
絶対に早くダンジョンに戻って、セシノと今日の事を沢山話すぞ。
そう思い、やる気がみなぎってきた俺は本格的に集中する事にしたのだ。
そして暫くの間、俺たちの間にはただ沈黙が続いていた。
今も町のあちこちでパニックが起きているのか、至る所で悲鳴や叫び声が聞こえくる。
だけど一向に魔方陣が発動する気配を俺は感じ取れなかった。
しかしその異変は確実におきていたのだ。
「………っ」
アンナが突然ガタガタっと立ち上がり、ビクッと跳ねる体を抱きしめながら叫んだ。
「きた! だけど、何この嫌な魔力!! う、気持ち悪……」
アンナは魔力感知が敏感な為、その膨大な魔力に魔力酔いを起こし始めていた。
でも俺はそんな事を気にしていられない。
だからアンナが倒れてしまう前に、俺は全力で魔力を練り上げる。
「頼むから俺の魔力、もってくれよ!」
俺は両腕を左右に伸ばし、プロテクト・ゾーンを町全体に向けて展開した。
「ぐっ、いけぇぇええぇぇええええ!!!」
四角い結界が俺を中心として、街全体を覆うようにどんどん広がっていく。
だけどまだ全てを覆えていない為、結界の顕現が間に合わない。
結界が先か魔法陣が発動するのが先か……。
俺は全力で街全体を結界で覆うと、それを顕現させるために指をクロスさせたのだ。
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