上 下
95 / 168
第四章 ダンジョンを観光地化させる俺

95、待機中

しおりを挟む

 何でアンナと二人なんだ。
 そう思いながら頭を抱えている俺は今、アンナとギルドの屋上にいる。
 どうやらここは休憩所になっているのか、椅子と机が置いてあり周りには落下防止用の柵がつけられていた。
 そして俺はその椅子に座り、向かいに座るアンナを見ないようにしているところだった。

 だってこんなのは俺からしたら最悪な状況なのに、この組み合わせにはちゃんとした理由があるというのだ。
 どうやらアンナの魔法感知は非常に高く、他に適任者がいないらしい……。
 そういうわけだから頑張ってと、ニコニコしながら去っていったイアさんを思い出して、俺はため息をついてしまう。

 なるべく近づきたくないのにここで離れたら逆に怪しまれるし、今復讐するわけにもいかない。こんな状態で俺は一体どうしたらいいんだよ……。
 そう思いながらアンナをチラリと見ると、本気で集中しているのか静かに目を瞑っていた。
 今はそのおかげで会話せずに済んでるし、それに静かにしてれば見た目だけはいいんだけどな……。
 そう思いじーっと見てしまった俺は、ハッとしてすぐにアンナから目を逸らす。
 くそっ、こうなるからアンナを見たらダメなんだ。早く終わらせて、ダンジョンに帰るために俺も集中しないと。

 俺は、先程イアさんに渡されたボトルタイプの魔力増幅薬に口をつけた。
 一応イアさんには俺の魔力量がまだ限界値を超えたままだと教えてもらっている。だけど今回は俺のダンジョンよりも広いため、本気で魔力がもつかわからないから……念のためだ。
 そう思いながら飲んでいたら、突然イアさんの声が聞こえて俺は吹き出しそうになってしまう。

『バン、聞こえますわよね?』
『っぐ! は、はい。あの、これって俺にだけ聞こえてますよね?』

 何とか魔力増幅薬を飲み込んだ俺は、イアさんが俺の名前を言った事に少し驚いていた。だから俺はアンナに聞こえてないか気になってしまい、アンナの方をチラっと見てしまう。
 因みにイアさんにもらった通信アイテムは耳に直接取り付けるタイプなので、その人にしか聞こえないし勿論声に出す必要もない。
 流石、高級な通信アイテムなだけある。

『大丈夫、バンにしか聴こえてないですわ。今はいつ魔法が発動するかわかりませんから、アンナさんには集中したままでいてほしいですもの。ですが念のため、そちらの現状を教えてもらえると嬉しいですわ』
『えっと、今のところ動きはないですね……それに結界を張ったら多分このアイテムは使えなくなるので、そこは臨機応変によろしくお願いします』
『ええ、それは各自に伝えてありますから大丈夫ですわ』
『ありがとうございます。それでイアさんの方はどんな感じですか?』
『こちらは、ギルドに滞在していたファミリーの仲間たち、それとサバンを捕まえましたわ』
『サバン?』

 なんでギルド職員であるサバンを連れてきたのかと、俺は首を傾げてしまう。

『ギルド職員は、お面派と通じてる可能性もあるんじゃ……』
『サバンは、お面派ではありませんわ』
『え、どうしてそう言い切れるのですか?』

 俺だってサバンとは仲がいいから疑いたい訳じゃない。
 だけど100%信用できるかといえは、俺には無理だと思う。

『彼は勝手にコルト派を名乗ってますもの』
『は? コルト派……』

 その単語に俺は驚きを通り越して呆れてしまう。
 コルトは東エリアの冒険者ギルド会長であり、確かにサバンの好きな相手だけど……アイツ、勝手に派閥名乗ってんのかよ。

『勿論、そんな事言ってるのはサバン一人だけしかいませんわ。ですからあの男が他の派閥に乗り換える事はまずありえませんわね』
『確かにアイツは馬鹿みたいにコルト一筋ですからね』

 もしこれでサバンがお面派だったら、絶対誰かに脅されてるとしか思えない。だけどアイツを脅せるのは、コルトぐらいしか俺には思い浮かばないしな……。
 そんなコルト自身も由緒正しき勇者パーティーの末裔なので、派閥とか以前の話になってしまう。

『だからサバンは大丈夫なのですわ。それにサバンには仲が良くても他の職員に、絶対漏らさないよう伝えてありますの。あの男、ああみえて口は堅いですものね』
『……本当、そうですよね』

 俺はいつも、アイツの口が堅いところに助けられてる。
 だからサバンがお面派じゃなくてよかったと、本気でホッとしてしまったのだ。

『そういうわけで現在、各部屋に人員を一人ずつ配置出来ていますわ。それでも上層部の部屋には流石に入れませんでしたが、サバンが言うには今のお偉いさんは全員勇者派だから、お面派につくのはあり得ないらしいですわ』
『それは凄い偏りですね。でもそっちが順調そうなのは良かったですし、この後もまだ大変だと思うので頑張って下さい』
『それを言うなら、バンもアンナさんと一緒に仲良く頑張ってくれると嬉しいですわ!』

 そう言って、ブチッと通信は切れた。
 俺に文句さえ言わせなてくれないなんて、なんて酷い人なんだ。
 そう思った俺は一旦この荒んだ気持ちを落ち着かせたくて、セシノへ話しかける事にした。

『セシノ、聞こえるか?』
『バンさん? 今は集中してて忙しいんじゃ……』
『今はまだ大丈夫だと思う。それよりそっちが気になってな、どんな感じだ?』
『えっと、実はギルドを出てすぐに偶然シェイラさんと合流したんです。それにイアさんがつけてくれた護衛さんも、ギルドにたまたまいたシガンさんとミラさんだったので、とても安心して待機できてます』

 セシノの話で四人の姿を思い浮かべた俺は、とてもほっこりしてしまう。
 そのおかげで、だいぶ精神も落ち着いてきた気がする。

『それならよかった。それと既に聞いてるとは思うけど、念のため三人には突然魔法とスキルが使えなくなっても焦らないようにと、伝えておいてくれ』
『わかりました。あの、バンさん……無理だけはしないで下さいね』
『ああ、セシノも危ないと思ったらすぐに逃げるんだぞ?』
『は、はい! お互いに頑張りましょうね』
『おう、それじゃあまたな』

 そう言って通信を切る。
 目を瞑ったまま深呼吸した俺は、セシノの優しさを噛み締める。
 絶対に早くダンジョンに戻って、セシノと今日の事を沢山話すぞ。
 そう思い、やる気がみなぎってきた俺は本格的に集中する事にしたのだ。

 そして暫くの間、俺たちの間にはただ沈黙が続いていた。
 今も町のあちこちでパニックが起きているのか、至る所で悲鳴や叫び声が聞こえくる。
 だけど一向に魔方陣が発動する気配を俺は感じ取れなかった。
 しかしその異変は確実におきていたのだ。

「………っ」

  アンナが突然ガタガタっと立ち上がり、ビクッと跳ねる体を抱きしめながら叫んだ。

「きた! だけど、何この嫌な魔力!! う、気持ち悪……」

 アンナは魔力感知が敏感な為、その膨大な魔力に魔力酔いを起こし始めていた。
 でも俺はそんな事を気にしていられない。
 だからアンナが倒れてしまう前に、俺は全力で魔力を練り上げる。

「頼むから俺の魔力、もってくれよ!」

 俺は両腕を左右に伸ばし、プロテクト・ゾーンを町全体に向けて展開した。

「ぐっ、いけぇぇええぇぇええええ!!!」

 四角い結界が俺を中心として、街全体を覆うようにどんどん広がっていく。
 だけどまだ全てを覆えていない為、結界の顕現が間に合わない。
 結界が先か魔法陣が発動するのが先か……。
 俺は全力で街全体を結界で覆うと、それを顕現させるために指をクロスさせたのだ。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

“金しか生めない”錬金術師は果たして凄いのだろうか

まにぃ
ファンタジー
錬金術師の名家の生まれにして、最も成功したであろう人。 しかし、彼は”金以外は生み出せない”と言う特異性を持っていた。 〔成功者〕なのか、〔失敗者〕なのか。 その周りで起こる出来事が、彼を変えて行く。

美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました

葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。 前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ! だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます! 「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」 ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?  私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー! ※約六万字で完結するので、長編というより中編です。 ※他サイトにも投稿しています。

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました

夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、 そなたとサミュエルは離縁をし サミュエルは新しい妃を迎えて 世継ぎを作ることとする。」 陛下が夫に出すという条件を 事前に聞かされた事により わたくしの心は粉々に砕けました。 わたくしを愛していないあなたに対して わたくしが出来ることは〇〇だけです…

処理中です...