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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺
91、情報を聞き出せ
しおりを挟むお面派が町を占拠しようとしている事に確かに驚いた。だけど俺にはそれをする理由が、正直よくわからなかった。
だってこの町は、東エリアの冒険者ギルドが有名なだけで占拠しても旨味がないどころか、そのうち国から報復を受けるだけで損な気がするのだ。
しかしそれを考えたところで答えがでるわけもないし、それに今は大規模魔法を止めるために必要な情報を聞きだす方が大事だ。
そう思って男を見ると、まだブツブツと文句を言っていた。
「……お面派が町を占領したところでリーダーを脅せば、俺たちがこの町の頂点になれると思ったんだけどな……それなのにお前のせいで、お前のせいで」
「はぁ……それ以上言うと更に縮めるけど?」
「ひぃぃ、悪かった! 少し調子こいただけだからこれ以上はやめろ!!」
結界の中でギュウギュウ動けない体を必死に抱え込み、男は首を振っていた。
「それなら、もう一度俺の質問に答えてもらう。さっきお前は攻撃範囲が町全体と知っていたのに、自分たちには害がないと言ってたよな。それはどういう事なんだ?」
「……俺はな、魔法が発動しない安全地帯を知ってんだよ」
「は? 何のためにそんな場所を?」
よくわからなくて俺は首を傾げてしまう。
それは発動できない場所なのか、発動させたくない場所なのか、それだけでだいぶ意味が変わってくるけど……。
「確かにおかしいとは思うよな。だけどリーダーたちの話では、大規模魔法を行う魔法陣の形式的に発動範囲に穴があるとか。それで魔法が発動しない場所を敢えて選んで、魔法陣を配置するって話を俺は聞いてたわけだ。でもその途中で流石にバレそうになって逃げ出したから、一箇所しか聞けなかったんだけどな……」
「攻撃範囲に穴か……それだと故意なのかよくわからないな。それで、その安全地帯は何処なんだ?」
「俺が唯一覚えてる場所は、冒険者ギルドだぜ」
「……は?」
なんで冒険者ギルド……?
全く思いもしなかった場所に俺は更に首を傾げる。
もしかしてギルド職員にお面派の幹部でもいるのか??
でもギルドって勇者派の巣窟だし……もしかすると勇者派を犯人に仕立て上げる為に、敢えてそこにしたのかもしれない。
特に今日は勇者派の集会があるから、ギルドには勇者派も少なかった筈だし丁度良かったとか?
「うーん、考えてもよくわからないな。他の安全地帯がわかれば……」
「い、言っておくが俺はそこ以外の場所は本当に知らないからな。頼むからこれ以上は聞かないでくれよ……」
顔を真っ青にして首を振る男は、本当にこれ以上知らなさそうだった。
まあ、一箇所だけでもわかったからいいか。
そう納得した俺だけど、今の話で男たちが勇者派の集会場に向かわなかった理由を、なんとなく察してしまったのだ。
「情報はありがたくもらう。そんで思ったんだけど、お前らがお面派の作戦を無視したのってそれを知っていたからだよな?」
「……ああ、それもある。確かに魔法が発動されるまでにギルドへ行けばいいって思ってたのは事実だ。だが俺たちは、ただ混乱に乗じてひと暴れしたかっただけだぜ?」
「……あー、そうだったよな。やっぱりお前らはただの糞野郎だ!」
流石に怒りが我慢できなくなった俺は、無意識に結界を縮めていた。
そのせいで男からバキンッという音と同時に、悲鳴が聞こえてきたのだ。
「ひぎぃぁっ!!! 痛い痛いぃぃ、背中の何処か折れた!!死ぬぅうぅううっ」
「悪いな、あまりにも頭にきたからな。でもこれでお面派の事はよくわかったよ」
「ぐぅっ……それなら、ここからだせよ!!」
「残念だけど、それはまだ駄目だ。だってお前たちには、アンナとはもう二度と会わないと約束してもらわないといけないからな」
そう言いながら残りの二人を見ると、もう叫ぶ元気もないのかぐったりとしていた。
もしかしたら直接結界に触れていたせいで魔力切れが近いのかもしれない。それならこいつらが気絶する前に終わらせないと、そう思った俺は急いで三人の男たちを近くまで連れて来る事にした。
そして三人を横に並べた俺は、結界越しに改めて問いただす。
「お前らにもう一度聞く。この結界から出たいなら、もう二度とアンナには会わないと約束してくれるよな?」
「ひぃ……もう、アンナになんて会わねぇよ!! こんな目にあったのも、全部あのクソ女に関わったせいに違いねぇんだ。このクソが、くそぉっ……」
「もちろん約束する! あの女にはもうコリゴリだ……それにお前にだって二度と会いたくない」
「お、俺も二人と同じだぜ。どうせ俺たちは何もかもおしまいだからな……俺が秘密をバラしたってバレたらお面派にもいれなくなるし、消される前にこの町から出て行くぜ。だから二度とアンナにも会わないだろうな……」
三人とも恐怖に顔を歪ませて叫んだりブツブツ呟いたりと、だいぶ精神的におかしくなっていた。
どうやら程よくトラウマを植え付ける事ができたようだ。
これなら自分からアンナに近づこうとする奴は、もういないだろう。
しかし問題なのは、先にアンナに倒されたやつらだけど……多分コイツらのこの状態を見ればすぐ手のひらを返すに違いない。どうせコイツらの仲間も意思は弱そうだからな……。
そう思った俺は、とりあえず男たちの結界を解除したのだ。
「わかってると思うけど、約束を破った奴は次もその姿を保てると思ってないよな?」
「わ、わかった、わかってるから!」
「もう動けねぇから、頼むからこれ以上こっちに近寄るなよ!!」
「ああ……もうダメだ、もうダメだ……」
どうやら男たちは魔力不足でその場から動く事も出来ないようだった。
とにかくひと段落したなと、ホッとした俺はイアさんにお願いして骨が折れた男を治してもらい、これからどうやってお面派の大規模魔法を防ぐか考えていた。
それなのに俺の一番会いたくない女が、空気を読まずに戻ってきてしまったのだ。
「ふっふっふ! 待たせたわね、ようやくここまで戻ってこれたんだから!!」
「は、早いですよー。待ってくださーい!」
そしてアンナの後ろには、息を切らしながら走るセシノの姿も見えていた。
何故だろうアンナがこちらへ走って来るのを見て、嫌な予感しかしないのだけど?
確かにアンナは男たちが動けないなんて知らないけど、まさかいきなり倒すなんて事は……。
「あんたたち、今度こそ私に倒される準備はできてるんでしょうね!!」
「げぇ! あ、アンナ!?」
「く、動けねぇってのに……」
そのまま男たちに向かって走るアンナに、コイツマジで倒すつもりだと悟った俺はアンナを止めるために声をかけた。
「まった、まった!」
「うるさいわね、トドメは私がするって決めてたんだから邪魔しないでよね!!」
そう言ってアンナは剣を撫でると、そのまま男たちに向けてスキルを放ったのだ。
「吹き飛びなさい、スピリットブラスト!!!」
「「「ぐぅぁぁぁぁあぁあ!!!!」」」
抵抗できない三人は、突風に弾き飛ばされるとそのまま意識を手放した。
そしてそれを見届けたアンナはとても満足そうに剣を納めると、腰に手を当てフフンとこちらに振り返った。
その何も考えてなさそうなアンナ姿に呆れた俺は、額に手を当てため息をついてしまったのだ。
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