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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺

92、空気の読めない女

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 流石アンナ……いきなり現れた挙句空気も読まずに攻撃するとか、本当に人の話を聞かないクソ女だな。
 でも倒してしまったものは仕方がないし、男たちはもうアンナに近づくつもりはないと思うから、多分大丈夫だろう……。いやいや、なんで俺がこんなクソ女の心配をしないといけないんだよ。
 それなのに当のアンナといえば、俺の苦労も知らずにニッコニコの笑顔で勝ち誇っているせいで、余計にイラッとしてしまう。

「なんだか味気ないけど勝ちは勝ち、私の大勝利よね!」
「いや……」
「何よ文句あるの!?」
「な、ナンデモナイデス」

 これ以上アンナと話していたら、時間が無駄になる。そう思いながら俺はアンナから顔を逸らして、そのままセシノを見た。
 どうやらセシノは、アンナに合わせて走ったせいで息を切らしているようだった。
 だから俺は、アンナと二人にさせて悪かったという気持ちも込めて、お礼を言おうとセシノに近づいたのだ。

「セシノ」
「あ、バ……」
「……バ?」
「いえ、なんでもないです。あの、何かありましたか……?」
「お礼をと思ってな、わざわざこっちに戻ってきてくれてありがとな」
「いえ……私は、その……」

 なんだか凄く歯切れの悪いセシノを見て、俺は首を傾げる。
 さっき俺の名前を言おうとしてやめたように聞こえたし……もしかして、アンナの事に気がついたのか?
 そう思った俺は、セシノにコソッと小声で聞いてみる事にした。

「セシノ、もしかしてお姉さんの名前聞いた?」
「え、あの……やっぱり、わかっちゃいますよね。ごめんなさい……私、知らず知らずのうちに邪魔していたみたいで……」
「セシノ、そんな事は気にしなくていいんだぞ。どちらかといえば今回は、大手柄だと褒めたいところだからな」
「……え?」
「だって、セシノがいなかったら俺はアンナに会えなかったかもしれないんだ」
「……そんな、すみません」

 少し涙目になってしまったセシノの頭を俺は撫でてやる。
 きっとこの感じなら、セシノは俺の復讐を止めるつもりはないだろう。その事に思った以上にホッとしている俺がいて、少し驚いてしまった。
 それ程に、俺の中でセシノの存在が大きくなっていたんだな……。

「まだまだセシノの事、沢山頼りにさせて貰うからな」
「が、がんばります」

 やはり、セシノは俺の癒しだ。
 そんなほっこりしている俺の気分を壊すように、気がつけば横にアンナが立っていた。

「ちょっと、何内緒話してんのよ!」
「え!? いつのまに横に?」
「今よ。それに、そんなに驚かなくてもいいじゃない」

 アンナがいた事に驚いていた俺は、どうにか誤魔化そうとしたのに上手く言葉が出てきてくれなくて、モゴモゴしてしまう。

「いや、別に対した話じゃないから……」
「何よそれ、逆に気になるじゃない!」
「えっと……」
「すみません、どうやらアンナさんが心配だったみたいでその事を聞かれただけです」

 セシノ、ナイスフォローだ。でも俺はアンナの心配なんてほんの少しもしてないけどな。
 それなのにアンナは、何故か恥ずかしそうにチラチラと俺を見てきたのだ。

「そ、そうなの? それなら私に聞いてくれたらいいのに」
「いや、女性に直接聞くのはどうかと思ってな。ははは……」
「じょ、女性……」

 少し顔が赤くなったアンナを見た俺は、お面で顔が見えないのを良い事に凄く変な顔をしていた。
 なんだろう、もしかしてアンナの事だから女性として扱われるのは嫌とかじゃないよな?
 そう思ってじっと見ていたら、アンナの顔はどんどん赤くなっていく。
 その顔はマジで何なのかと思っていたら、先程吹き飛ばされた男たちの様子を見ていたイアさんが、こちらに戻ってきて言ったのだ。

「あらあら、なんだか面白い事になっていますわね」
「え? どこが面白いのかわからないんですけど」

 そう言った瞬間、イアさんがこちらを見て盛大にため息をついた。

「あの、俺おかしな事いいましたか!?」
「貴方には女心というものを教えたいところですが、今は時間がありませんわ」
「……俺も、今は急いだ方がいいと思います」

 別にイアさんの説教を受けたくないから同調したわけじゃ無い。本当に急いだ方が良いと思っただけだ。
 そんな俺の心を読んだのかイアさんは再びため息をつくと、今度はアンナの方を見たのだ。

「それと、これはアンナさんにも手伝って貰いますわよ?」
「い、イア……」

 突然イアに見つめられたアンナは、とても動揺して目を泳がせていた。

「アンナさん、今は昔の事を気にしている場合ではありませんの。だから普通に接してくれると嬉しいですわ」
「そ、そんな事言われたら断れないじゃない……でも参加するかは話を聞いてからにするんだから」
「それは別にいいですけど、話を聞いても聞かなくてもどちらにせよアンナさんは参加すると思いますわよ?」
「それは、どういうことよ!」
「今、その話をする時間はありませんわね」
「ちょ、ちょっと!?」

 怒り気味のアンナを無視して、イアさんは何故かまた俺の方を見るとわざとらしく言ったのだ。

「実のところ先程まで、ここからどうするべきか私は凄く悩みましたの……でもその結果、素晴らしい案を閃きましたわ」
「あの、なんで俺を見ながらいうんですか。凄く嫌な予感がするんですけど……?」
「たまたま目の間に貴方がいただけですの、完全に気のせいですわね。とりあえずここから私たちがする事は大規模魔法を止める事、この一つだけですわ!」

 いきなり話を進め出したイアさんに、アンナは首を傾げながら言った。

「いや待ってよ、まず大規模魔法って何よ? まだ詳しい話も聞いてないんだけど!」
「細かい話は後でしますから今は簡潔に言いますと、近々この町全体を大規模魔法が襲う予定ですわ」
「何よそれ……しかも止めるってどうすんのよ、その魔法を使う奴でも倒しにでも行くわけ?」
「それは半分正解ですわね」

 半分? その言葉に俺たちは皆で首を傾げる。

「魔法使いではなく、魔法その物を消しされば良いのですわ」
「魔法を消し去るって、そんな簡単にできるわけないじゃない?」
「いえ、それができる人間がここにいますわ」
「「「ここに?」」」

 俺たちは、その人物が何処にいるのかと周りを見回してしまう。
 だけどどう見ても、俺たち以外は倒れてる人しかいない。

「ええ、しっかり目の前にいますわ。だから、ここからは貴方に頑張ってもらいますわよ!」

 そう言ってイアさんは、俺に向けてしっかり指を差したのだ。
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