87 / 168
第四章 ダンジョンを観光地化させる俺
87、確認
しおりを挟む考えた結果、俺がこの男たちを脅す為に出来ることは限られていた。
まず俺は攻撃スキルなんて使えない。俺が使えるのは『プロテクト・ゾーン』と、物理防御を上げる『ディフェンスアップ』の二つだけだ。
だからここはプロテクト・ゾーンでどうにかするしかないかと悩んでいると、イアさんが思い出したように言った。
「そういえば、バンは攻撃スキルを持っていなかった気がしますけど、もしかしてこの結界しか使えませんの?」
「……その通りですけど、でもこの『プロテクト・ゾーン』があれば多分どうにかなりますから大丈夫ですよ」
「バンのその自信はどこからくるのかよくわかりませんけど、この結界内だと味方も魔法が使えないのは変わっていませんわよね?」
「確かにそうなんですけど……使えないスキルのままですみません」
そう言って、癖のように俺は頭を下げていた。
どれほどプロテクト・ゾーンの使い方が上手くなっても、何故かそこだけはどうにもできなかったのだ。
しかし最近、俺はその理由になんとなく気がついていた。そして思ったのだ、もしかしてそれを解明出来れば今の俺は凄い事ができるかもしれないと。
それにここにはイアさんがいるから、マリーみたいに誤魔化さずに正しく鑑定結果を教えてくれるはずだ。
そう思いながら顔を上げると、何故かクスクスと笑っているイアさんと目があった。
「ふふ、バンはそういうところも全く変わりませんわね、でもそんな落ち込む事ありませんわ。動きながら使えるようになっただけでも大進歩だと思いますわよ」
「イアさん……」
まさかイアさんが褒めてくれるとは思っていなくて、俺の8年かけた努力は無駄じゃなかったのだと少し嬉しくなる。
「ですが、このままでは相手の体力切れを待つだけの時間稼ぎになってしまいますわ。勿論バンには何か考えがあるのですわよね?」
「えーっと、あるにはあるんですけど……」
確かに俺がやりたい事はもう決まっていた。
だけどそれには結構魔力を使う為、まず先に俺の ステータスを確認しておきたかったのだ。
だから俺は先程決めたとおりイアさんに鑑定を頼む事にした。
「確かイアさんって鑑定を使えましたよね?」
「使えますけど……一体何を鑑定するつもりですの?」
「できれば俺に鑑定を使ってもらえますか?」
「……どうしてバンに?」
「気になる事があってですね、これを確認しないと上手くいくかわからなくて……」
「仕方ありませんわね。作戦に関係あるのでしたらそれぐらいは手伝いますわ」
作戦に直接関係があるわけではないけど、その結果次第では結界の使い方を変えなくてはならないからな。
そう思っていると、目の前でイアさんが四角を描くように魔法を展開していた。俺には見えていないが多分その四角の中に、ステータスが出ているのだと思う。
それを見ていたイアさんが首を傾げたのだ。
「……あら? バンのステータスカウンター、壊れてますわ」
「え、どう言う事ですか?」
「それが、どう見てもバンの魔力量は既に上限を超えていますのに、何故かずっと増え続けているのですわ」
「魔力量が増え続けている、か……」
それは、俺の思った通りの結果だった。
俺のスキル『プロテクト・ゾーン』には魔力を通さないという効果がある。しかしどうやら正しくは魔力を通していない訳じゃない、魔力を吸収していたようなのだ。
そしてこれこそ、8年前に俺が10日間魔力切れを起こさなかった理由という訳だ。
「イアさんすみません。今度はあの男たち誰でもいいので、鑑定を使ってもらえますか?」
「え、ええ。いいですわよ」
イアさんは不思議そうな顔をしたまま、今度は男たちの一人へ鑑定を使った。
そして再び首を傾げたのだ。
「……これは?」
「イアさん、どうなってるか教えてもらってもいいですか?」
「ええ。あの男は魔法もスキルも使っていない筈ですのに、魔力量が少しずつ減っていますわ……」
これも思った通りだ……。
どうやらこの結界は中にいるだけで魔力を吸い取り、ゆっくりと相手を弱らせていくみたいだ。
多分味方がスキルや魔法を撃てないのもその効果が原因なのだと思う。
だからきっと、このスキルは本来敵に対して使う物なのだ。それなのに俺はいつも自分に使い続けていた。
そもそも、それが間違いだったんだ。
「イアさん、ありがとうございます。それがわかれば充分です。これで俺も遠慮なくスキルを使う事が出来ますよ!」
「つまり私の鑑定がおかしい訳ではないという事ですわよね……?」
「イアさんの鑑定は正しいですよ、安心して下さい」
俺としても、魔力量が最大値を超えてたのは予想外でしたけどね。
そんな結果に満足している俺とは違い、イアさんは頬に手を当てるとため息をついていた。
「鑑定が間違っていないのなら、これはどういう事なのか教えてもらえますわよね?」
「えーっとですね……実は俺のプロテクト・ゾーンには、どうやら相手の魔力を奪う力があったみたいです」
「……成る程、今のはそういう事でしたの。それなら結界内で魔法が使えないのもある程度納得できますわね。しかし少し恐ろしいのはこのスキルに閉じ込められてしまうと、魔力切れでいつか倒れてしまう可能性があるという訳ですわよね」
流石イアさんだ、それだけで全てを理解してしまうなんて。
「その通りですね。だから時間稼ぎしていればコイツらは勝手に弱ってくれるわけです。でも思ったより吸収速度は遅いので、倒れるのを待ってたら数日かかりそうですけどね」
「それでも充分ですわよ……。全く、本当に貴方のスキルはキングの思っていた通りだったのかもしれませんわね」
「……キングが?」
「キングは最初の頃から貴方のスキルには可能性があると見抜いていたのですわ。だから、貴方がファミリーからいなくなってしまった事は、私たちにとって大きな損失だったという事ですわね……」
イアさんは過去の事を思い出しているのか、悔しそうに言った。
だけど俺はもうファミリーに戻るつもりはない。
だって俺の居場所はここじゃないから。
そう思いイアさんから顔を背けた俺は、改めて放置していた男たちを見て言い放った。
「よーし、待たせたな! 準備に手間取ったせいで、お前らの事をすっかり忘れそうだったよ」
ようやくコイツらを脅すための準備は整った。
今から俺は男たちから奪った潤沢な魔力で、プロテクト・ゾーンを多重に展開するつもりなのだ。
「あ? ふざけんなよてめぇ、早くここから出しやがれ!!」
「本当に俺たちは悪くない! 悪いのはあの女なんだぞ!!」
「そうだ、そうだ!! まさかと思うがお前はアイツが誰か知らないのかよ!?」
その一言に、俺はカチンときたのだ。
だってアンナの事は、コイツらよりも俺の方がよくわかってる筈だ。だからこんな奴らに、アンナの事をとやかく言われたくない。
「アンナの事なら俺は憎いほど知ってるさ。だけどお前らみたいなのにアンナへの復讐は任せられないんだよな」
「は? コイツ何言ってやがる……!」
俺はゆっくり結界に近づくと男たちに向けてニヤリと笑う。
「今からお前たちに、本当の恐怖を見せてやるよ」
俺は中指と人差し指をクロスさせ、プロテクト・ゾーンを多重に発動した。
突然現れた無数の結界の線に、男たちは驚きのあまり悲鳴をあげたのだ。
0
お気に入りに追加
643
あなたにおすすめの小説
虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~
すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》
猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。
不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。
何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。
ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。
人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。
そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。
男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。
そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。
(
転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】
ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。
転生はデフォです。
でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。
リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。
しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。
この話は第一部ということでそこまでは完結しています。
第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。
そして…
リウ君のかっこいい活躍を見てください。
王都交通整理隊第19班~王城前の激混み大通りは、平民ばかりの“落ちこぼれ”第19班に任せろ!~
柳生潤兵衛
ファンタジー
ボウイング王国の王都エ―バスには、都内を守護する騎士の他に多くの衛視隊がいる。
騎士を含む彼らは、貴族平民問わず魔力の保有者の中から選抜され、その能力によって各隊に配属されていた。
王都交通整理隊は、都内の大通りの馬車や荷台の往来を担っているが、衛視の中では最下層の職種とされている。
その中でも最も立場が弱いのが、平民班長のマーティンが率いる第19班。班員も全員平民で個性もそれぞれ。
大きな待遇差もある。
ある日、そんな王都交通整理隊第19班に、国王主催の夜会の交通整理という大きな仕事が舞い込む。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。
さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。
魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。
神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。
その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる