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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺
86、逆恨み?
しおりを挟むイアさんは無言のまま、その答えを言う事はなかった。
それはつまりアンナは俺の名前、もしくは俺そのものがトラウマになっていると肯定しているようなものじゃないだろうか?
本当にそうなら、これはアンナへの復讐に使えるかもしれない。
そんな事を考えていたら、イアさんは話題を変えるように男たちの方を向きながら言ったのだ。
「それよりも、いい加減あの方々を放置し続けるのは良くありませんわよね? だから、このクズな男たちを早く倒してしまいますわよ」
「え……? イアさんがクズって言うなんて珍しいですね。確かに奴らがアンナにしていた事はクズですし、今も凄くうるさいですけど」
話を逸らされたのは気になるけど、でもそのおかげで俺の事も詳しく聞かれなくて済みそうだと、今は深く追及する事はやめておく。
そしてクズ発言の方が気になってしまった俺に、イアさんはすぐその理由を教えてくれたのだ。
「私がこの方々の事をクズと言ったのには理由がありますわ。ですがその前にアンナさんと男たちに何があったのか簡単に話をしますわね」
「もしかしてそれって、結構有名な話だったりするんですか?」
「まあ、それは当時の話ですけど……その噂の内容では、アンナさんがクエスト中にモンスターに襲われた男たちを置いて逃げたせいで、彼らは一生消えない傷を負った被害者だと言われていますの。でもそれは間違った情報なのですわ。そのせいであの時のアンナさんは、一人だけ悪者扱いされていて可哀想でしたわ……」
当時の事を思い出しているのか、眉を寄せたイアさんは少し怒っているように見えた。
「でもアンナなら実際やりそうな事なのに、本当は違うんですか?」
「確かに逃げたのは事実のようですが、それ以外は全く違いますわ。一応ここからの話はバンだからお教えしますけど、この男たちは一緒に逃げようと催促したアンナさんの言葉に、全く聞く耳を持たなかったようなのですわ。それなのに怪我をした事や、クエストが失敗した事を全てアンナさんに擦りつけて、ファミリーから追放したのですわ」
「えっ? それじゃあ被害者と加害者が逆になってるじゃないですか!」
「本当にその通りなのですわ。だから本当にこの男たちはただのクズなのですわよ」
流石にその話を聞いて、アンナが少し可哀想に思えてしまう。
だけどよく考えるんだ。もしかするとこれは、アンナに同情させる事で俺に復讐をやめさせようとしているイアさんの作戦かもしれない。
俺は流されないようにする為、まずは事実を確認する。
「あの、イアさんは何でそんな事を詳しく知っているんですか?」
「……それが、実はそのファミリーにアンナさんを紹介したのは私ですの。だからその経緯をアンナさんと、ファミリーの方それぞれに詳しく聞くことができたのですわ」
「という事は、本当にそのファミリーでアンナは何も悪いことをしてないって事ですか?」
「ええ、私が聞いた感じではそのように思えましたわ。しかしアンナさんは前のファミリーでの前科がありましたから、ファミリー内で意見が別れてしまったようでして、丸く納める為にはアンナさんを追放するしかなかったそうですわ」
わざわざファミリーの人に聞いたのなら、これが事実なのだろう。
それなら、尚更なんでこの男たちはアンナに復讐するとかいってんだ? こんなのただの逆恨みじゃないか。
寧ろコイツらを恨んで良いのは、アンナの方だと思うのに……。
気がつけば俺はまたアンナに同情してしまいそうになり、ここで流されてはいけないと首を振る。
そしてイアさんがコイツらをどうしたいのか、確認する事にした。
「それでイアさんは、アンナの仇でもとるつもりですか?」
「ええ、私はこの男たちを許せませんの。アンナさんの為にも懲らしめないと気がすみませんわ。だからバン、ここは私の一撃必勝魔法で倒してもいいですわよね?」
「え!?」
それに驚いたのは俺だった。
だって俺が知ってるイアさんの攻撃魔法って、対モンスター用しかなかったはずだ。
それも一撃で必ず仕留めるタイプの圧縮型高火力魔法だから、防御してなかったら一瞬で灰になると思う。しかも命中率が悪いので、運が悪いと俺にも被害がでるかもしれないのだ。
「何言ってるんですか、イアさんはサポート魔法以外は使っちゃ駄目ですよ。だって普通の人間に使ったら絶対に死んじゃいますから!」
「あら、そんな事はないと思うのですけど……でもバンがそこまで言うのでしたら仕方がありませんわね。バンがどうしてもと言うのですもの!」
「何ですかその言い方は、凄く嫌な予感がするんですけど?」
「ええ、わかっていますわ! ようするにバンは、私の代わりにアンナさんの無念を晴らしてくれるのですわよね?」
「え?」
ウィンクしながら言うイアさんに、俺は微妙な顔をした。
やはりイアさんは、俺に隙があればアンナへの復讐をやめるよう誘導するつもりなのだろう。
でも俺は絶対に復讐はやめないし、それに今回はアンナの為じゃない。俺はセシノに良いところを見せる為にやるだけだ!
ここにセシノがいなくてもこれはセシノの為なのだと、俺は自分に言い聞かせてイアさんに言った。
「いいですか、これはアンナの為じゃありませんよ。イアさんの代わりにやるだけですから」
「ふふ、そう言いながらもそれはアンナさんの為になるのですから、とてもいいと思いますわ」
「だからアンナの為じゃないですって! でもやるからには頑張ります」
コイツらに恨みはないが、他の奴らがアンナへ復讐してるのを見るのは正直面白くないし、しかもそれが逆恨みなんて尚更許せる訳がない。
だからこれ以上アンナにちょっかいを出さないように、コイツらをしっかり痛めつけないといけないよな……。
しかしそう思ったのはいいが、困った事に今回の俺は完全にノープランだった。
だってここは俺のダンジョンじゃないし、手伝ってくれるモンスター達も準備してある罠も何もないわけで……。
だけど何も考えてないと言ったら絶対にイアさんに怒られると思った俺は、思考するフリをしながら男たちの方を見た。
「おい、てめぇここからだしやがれ!!」
「俺たちの方が被害者なんだぜ! それなのになんで!?」
「お前は同じお面派じゃないのかよ!!」
コイツら逆恨みの癖に、被害者面してるのは凄くイラッとするな。
しかもこの男たち、お面派だったのか。それなら何か情報持ってないか後で脅してみるのもいいな。
そう思いながら俺は、急いで作戦を考え始めたのだった。
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