86 / 168
第四章 ダンジョンを観光地化させる俺
86、逆恨み?
しおりを挟むイアさんは無言のまま、その答えを言う事はなかった。
それはつまりアンナは俺の名前、もしくは俺そのものがトラウマになっていると肯定しているようなものじゃないだろうか?
本当にそうなら、これはアンナへの復讐に使えるかもしれない。
そんな事を考えていたら、イアさんは話題を変えるように男たちの方を向きながら言ったのだ。
「それよりも、いい加減あの方々を放置し続けるのは良くありませんわよね? だから、このクズな男たちを早く倒してしまいますわよ」
「え……? イアさんがクズって言うなんて珍しいですね。確かに奴らがアンナにしていた事はクズですし、今も凄くうるさいですけど」
話を逸らされたのは気になるけど、でもそのおかげで俺の事も詳しく聞かれなくて済みそうだと、今は深く追及する事はやめておく。
そしてクズ発言の方が気になってしまった俺に、イアさんはすぐその理由を教えてくれたのだ。
「私がこの方々の事をクズと言ったのには理由がありますわ。ですがその前にアンナさんと男たちに何があったのか簡単に話をしますわね」
「もしかしてそれって、結構有名な話だったりするんですか?」
「まあ、それは当時の話ですけど……その噂の内容では、アンナさんがクエスト中にモンスターに襲われた男たちを置いて逃げたせいで、彼らは一生消えない傷を負った被害者だと言われていますの。でもそれは間違った情報なのですわ。そのせいであの時のアンナさんは、一人だけ悪者扱いされていて可哀想でしたわ……」
当時の事を思い出しているのか、眉を寄せたイアさんは少し怒っているように見えた。
「でもアンナなら実際やりそうな事なのに、本当は違うんですか?」
「確かに逃げたのは事実のようですが、それ以外は全く違いますわ。一応ここからの話はバンだからお教えしますけど、この男たちは一緒に逃げようと催促したアンナさんの言葉に、全く聞く耳を持たなかったようなのですわ。それなのに怪我をした事や、クエストが失敗した事を全てアンナさんに擦りつけて、ファミリーから追放したのですわ」
「えっ? それじゃあ被害者と加害者が逆になってるじゃないですか!」
「本当にその通りなのですわ。だから本当にこの男たちはただのクズなのですわよ」
流石にその話を聞いて、アンナが少し可哀想に思えてしまう。
だけどよく考えるんだ。もしかするとこれは、アンナに同情させる事で俺に復讐をやめさせようとしているイアさんの作戦かもしれない。
俺は流されないようにする為、まずは事実を確認する。
「あの、イアさんは何でそんな事を詳しく知っているんですか?」
「……それが、実はそのファミリーにアンナさんを紹介したのは私ですの。だからその経緯をアンナさんと、ファミリーの方それぞれに詳しく聞くことができたのですわ」
「という事は、本当にそのファミリーでアンナは何も悪いことをしてないって事ですか?」
「ええ、私が聞いた感じではそのように思えましたわ。しかしアンナさんは前のファミリーでの前科がありましたから、ファミリー内で意見が別れてしまったようでして、丸く納める為にはアンナさんを追放するしかなかったそうですわ」
わざわざファミリーの人に聞いたのなら、これが事実なのだろう。
それなら、尚更なんでこの男たちはアンナに復讐するとかいってんだ? こんなのただの逆恨みじゃないか。
寧ろコイツらを恨んで良いのは、アンナの方だと思うのに……。
気がつけば俺はまたアンナに同情してしまいそうになり、ここで流されてはいけないと首を振る。
そしてイアさんがコイツらをどうしたいのか、確認する事にした。
「それでイアさんは、アンナの仇でもとるつもりですか?」
「ええ、私はこの男たちを許せませんの。アンナさんの為にも懲らしめないと気がすみませんわ。だからバン、ここは私の一撃必勝魔法で倒してもいいですわよね?」
「え!?」
それに驚いたのは俺だった。
だって俺が知ってるイアさんの攻撃魔法って、対モンスター用しかなかったはずだ。
それも一撃で必ず仕留めるタイプの圧縮型高火力魔法だから、防御してなかったら一瞬で灰になると思う。しかも命中率が悪いので、運が悪いと俺にも被害がでるかもしれないのだ。
「何言ってるんですか、イアさんはサポート魔法以外は使っちゃ駄目ですよ。だって普通の人間に使ったら絶対に死んじゃいますから!」
「あら、そんな事はないと思うのですけど……でもバンがそこまで言うのでしたら仕方がありませんわね。バンがどうしてもと言うのですもの!」
「何ですかその言い方は、凄く嫌な予感がするんですけど?」
「ええ、わかっていますわ! ようするにバンは、私の代わりにアンナさんの無念を晴らしてくれるのですわよね?」
「え?」
ウィンクしながら言うイアさんに、俺は微妙な顔をした。
やはりイアさんは、俺に隙があればアンナへの復讐をやめるよう誘導するつもりなのだろう。
でも俺は絶対に復讐はやめないし、それに今回はアンナの為じゃない。俺はセシノに良いところを見せる為にやるだけだ!
ここにセシノがいなくてもこれはセシノの為なのだと、俺は自分に言い聞かせてイアさんに言った。
「いいですか、これはアンナの為じゃありませんよ。イアさんの代わりにやるだけですから」
「ふふ、そう言いながらもそれはアンナさんの為になるのですから、とてもいいと思いますわ」
「だからアンナの為じゃないですって! でもやるからには頑張ります」
コイツらに恨みはないが、他の奴らがアンナへ復讐してるのを見るのは正直面白くないし、しかもそれが逆恨みなんて尚更許せる訳がない。
だからこれ以上アンナにちょっかいを出さないように、コイツらをしっかり痛めつけないといけないよな……。
しかしそう思ったのはいいが、困った事に今回の俺は完全にノープランだった。
だってここは俺のダンジョンじゃないし、手伝ってくれるモンスター達も準備してある罠も何もないわけで……。
だけど何も考えてないと言ったら絶対にイアさんに怒られると思った俺は、思考するフリをしながら男たちの方を見た。
「おい、てめぇここからだしやがれ!!」
「俺たちの方が被害者なんだぜ! それなのになんで!?」
「お前は同じお面派じゃないのかよ!!」
コイツら逆恨みの癖に、被害者面してるのは凄くイラッとするな。
しかもこの男たち、お面派だったのか。それなら何か情報持ってないか後で脅してみるのもいいな。
そう思いながら俺は、急いで作戦を考え始めたのだった。
0
お気に入りに追加
639
あなたにおすすめの小説

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。


愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる