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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺
85、動揺して
しおりを挟む時は少し戻り、アンナ達を見送ってからのバンとイアは呑気に会話をしていた……?
ーー▼ーー▽ーー▼ーー▽ーー▼ーー
ついにアンナに会えたと言うのに、今の俺は最悪の気分だった。
何故ならアンナを見た瞬間に頭を強く殴られたような衝撃が走り、動揺した俺はその姿をすぐに視界から追払いたかった。だから追い立てるように、俺はアンナとセシノを逃していた。
そしてようやく見えなくなった二人を見て、俺はようやく肩の力を抜くことができたのだ。
そんな俺の後ろには、結界内に閉じ込めた男達が今も喚いている。凄くうるさいのだけど俺はコイツらをどうにかする前に、まずは動揺した心を落ち着かせたくてイアさんに話しかける事にした。
「いや、まさかセシノの言うお姉さんがアンナの事だとは思わなくて驚きましたね」
「本当にその通りですわ。ですがバン、貴方本当はアンナさんに手を出しそうになっていたのではありませんわよね?」
「え、何言ってるんですか。流石にこんなところで復讐するつもりはないですから安心してください」
だって俺が復讐する場所は『カルテットリバーサイド』と決めている。
そうでなくては8年間頑張った意味がなくなってしまう。
「それに、セシノがいる前でそんな事出来ると思いますか?」
しかも今回はそれだけじゃなくて、セシノの事も考えなくてはいけなかった。
多分だけどセシノは、あれがアンナだと気がついていない。というか俺は特徴も何も伝えていないのだから、セシノが気がつかなくても仕方がない事だ。
それに二人がいつの間に知り合いになったのかわからないけど、もし俺が突然アンナに攻撃を仕掛けていたらセシノはショックを受けていただろう。
「今回はセシノさんがいてくれて良かったですわ。でもバンは、今後もセシノさんがアンナさんと仲良くすると言ったらどうするつもりですの?」
「……正直、凄く困ってます。もしそれでセシノが復讐をやめてくれと言うのなら、きっとセシノとは一緒に宿屋を続けられませんよ」
だからこそ、セシノがこれ以上アンナに関わるのはやめてほしかった。でもそれを決めるのはセシノ自身だ。
だって俺がセシノを縛り付けるわけにはいかないからな……。
「私としては、バンにはこのまま復讐を諦めて欲しいものですわ」
「……イアさん、すみません。何度言われても、それだけは絶対に諦められません」
アンナがどれだけ酷い目にあっていたとしても、それで俺の気持ちが晴れる訳じゃない。
なによりアンナと久しぶりに再会したというのに、俺の復讐心は全く揺らいでいなかった。やはりこの8年の思いは、そう簡単に鎮火する事はないのだろう。
しかし今回、突然再会した事で俺の心に一つだけイレギュラーが発生していた。それは俺が今も動揺している理由であり、絶対に誰にも知られたくない事だった……。
そう思っていたのに、イアさんはそれを簡単に抉ってきたのだ。
「私は気がついたのですが、大人になったアンナさんってバン好みの女性ですわよね?」
「ぶっ!!! イアさん何てこと言うんですか、例えタイプだったとしてもアンナは人間としてありえませんから!!」
俺は昔、酔った勢いで自分のタイプをイアさんに話してしまった事があるのだけど、今すぐにでもその時の俺を呪い殺したい気分である。
しかもなんでイアさんも、そんなどうでもいい事ばかり覚えているのだろうか……。
そしてイアさんは、凄く残念そうに更にありえない事を言い出したのだ。
「でもバンがアンナさんと恋人になれば、復讐をやめてくれますわよね? それにアンナさんも少しは落ち着くかもしれませんし、一石二鳥でとてもいいと思ったのですけど……」
「なんて恐ろしい事いうんですか! あと人を丁度いい物件みたいに言わないでもらえます? それからアイツは恋人ができたぐらいで落ち着くわけないですから、絶対に!!」
「はぁ……私としてはとても良い案だと思ったのに、残念ですわ」
ため息をつくイアさんに、俺は何とか誤魔化せたと冷や汗をかいていた。
何故なら俺の心情は、悔しい事にイアさんが言った通りだったから……。
だってアンナは、本当に俺の好きなタイプである大人の女性になっていたのだ。
だけども! どれ程タイプだったとしても、性格が無理だから絶対に好きになる事はありえないし、アイツを好きになる奴がいたら、マゾだろ? って思うレベルでない。死んでもない。
そのせいで俺はアンナを見て余計にイラッとしてしまい、早くここから立ち去って欲しくてすぐに追い出したというのが、ここから逃した本当の理由だった。
そんなわけで俺が動揺しているのも最悪な気分なのも、全部アンナのせいなのだ。
だからイアさんにこれ以上余計な事を聞かれる前に、俺は話を変える事にした。
「もうその話は終わりにしましょう。それに俺、ずっと気になってた事があって……イアさんは俺の名前をアンナの前で呼ばないようにしてくれましたよね? 確かにそれは凄く助かりました。だけどどうして、俺の事を秘密にしてくれたんですか?」
「ああ、それは……別にバンのためじゃないですわよ? あそこで貴方の名前を出したら、アンナさんが発狂するかもしれないと思ったからですわ」
「……え? 発狂って何ですかそれ。まさかアンナにとって俺の名前は、トラウマレベルの物なのですか?」
「………………」
無表情でじっとこちらを見てくるその瞳からは、肯定なのか否定なのか俺には全く読み取る事はできなかった。
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