81 / 168
第四章 ダンジョンを観光地化させる俺
81、助けに向かいながら
しおりを挟むセシノから突然の救援要請に俺は混乱していた。
「いや、待ってくれセシノ。いきなり助けて欲しいって言われても……それにお姉さんて誰!?」
「お姉さんはお姉さんなんですけど、どこから話したらいいのでしょうか……えーっと?」
「二人とも、少し落ち着くのですわ」
気がつけばイアさんが俺たちの間にいた。
「とりあえずセシノさんは、そのお姉さんのところまでの案内をお願いしますわよ」
「は、はい。わかりました!」
「それから勇者派については時間がありませんので、走りながら話をしますわ」
「お、お願いします」
そう言いったのはいいけど俺の体力は結構限界に近かった。だけど途中でへばるわけにはいかないので、俺は気合を入れ直す。
そして俺は先を走るセシノを追いかけながら、イアさんの話を聞き始めたのだ。
「私は先程まで勇者派にいましたが、どうやらあの爆発を引き起こしたのはお面派で間違いなさそうですわよ?」
「……え!?」
その話に俺は驚いてしまう。
何故なら先程お面派で聞いてきた話と真逆の話だったからだ。
「待ってください! 確かにお面派が魔法を仕掛けたのは間違いないようですが、あの爆発の威力は勇者派が細工したせいだとお面派では言われてましたよ?」
俺に話をしてくれたあの人たちが嘘を言ってるようには見えなかった。
そんな俺の話にイアさんは眉を寄せながら言った。
「それはおかしいですわ。もしかするとどちらかの派閥が嘘を言っているか、両者を争わせるために誰かが細工をした……という可能性もありますわね」
「前者はまだわかるんですけど、後者はそれで誰か得をするんですかね?」
「それはわかりませんが、きっとこの戦いで負けた方は確実に責任を押し付けられるのは間違いないと思いますわよ」
それはつまり、負けた方は爆発を含めたこの戦い全ての責任を負う事になる。そうなれば多くの市民から糾弾され、この町にはいられなくなる可能性が高いだろう。
「なんかもう、何がしたいのかよくわかりませんね……」
「もしかすると、どうしてもどちらかの派閥を潰したい人がいるのかもしれませんわね。ですが私にはどちらが勝つかなんて全く読めませんわ」
「でも、こんな派閥争いをわざわざ始めた奴がいるって事は、争いに終止符を打つ大規模な罠も仕掛けているかもしれませんよね。ここからはなるべく気をつけて行きましょう」
「ええ、そうですわね。ですが……その前にバンは、体力をどうにかしたほうがいいですわよ?」
「うぐっ……!」
どうやらイアさんには、俺の息が少しずつあがっている事がバレていたようだ。
俺は何かを言われる前に咄嗟に目を逸らし、セシノの方を見る。するといつからこちらを見ていたのか、セシノと目があったのだ。
「……セシノ、どうした?」
「あの、そろそろ私がお姉さんと別れた場所ですけど、まだお話の途中でしたか?」
「いや大丈夫だ。それにもう着くならそっちを優先しますよね、イアさん?」
俺は先程の話を掘り返されないように言うと、イアさんはため息をついていた。
「まあ、確かにそうですわね。それで、その方がいらっしゃるのはどちらですの?」
「えっと……」
セシノは前を向くと、少し辺りを見回してから指を差して言ったのだ。
「私が別れたのはあそこです! あれ、でも誰もいない……どうして? 私があそこで別れたのは間違いないのですけど、お姉さんは何処に行っちゃったのでしょうか!?」
「セシノさん、少し落ち着いた方がいいですわよ。それに戦っているのならそんなすぐに移動するとは思えませんし、きっとまだ近くにいるはずですわ。せっかくここまで来た事ですし、私が探してあげますわね」
「イアさん、すみません。私が呼んだのにご迷惑おかけしてしまって……」
「セシノ、そんなに気にしなくても大丈夫だって。それにイアさんは索敵も凄く得意だからすぐに見つかるはずだ」
二人でイアさんを見ると、すでに目を閉じて、集中していた。
俺が覚えているままなら、イアさんの索敵は聴覚によって足音を聞くタイプだったはずだ。
だからなるべく音を立てないように俺はじっとイアさんを見つめて待っていた。
そして目をカッと開いたイアさんは言ったのだ。
「見つけましたわよ! 近くで戦闘音が聞こえましたが、どうやらこの辺で戦闘しているのはそこだけでしたわ」
「じゃあ、間違いなくそこだな」
「ええ、すぐに行きますわよ!」
「はい!」
「ああ!」
俺たちはイアさんに案内されて路地裏へと入って行く。
そして俺たちにもようやく戦闘音が聞こえてきた頃、女性の怒鳴り声がした。
俺はその声をどこかで聞いた事があるような気がして、何故かこの先へ行きたくないという気持ちに躊躇いながら走っていた。
「あんたらねぇ! 糞みたいな趣味してるんじゃないわよ!!!」
ようやくはっきりと聞こえるまでになったその声に、俺たちは次の道を曲がる。するとそこでは、三人の男が一人の女性を囲むように戦っているのが見えた。
女性の足元には既に男が二人倒れている。しかし残りの男たちに翻弄されている女性は、服が裂けて中々目線のやり場に困る姿になっていた。
よく見ると男たちは顔に酷い傷があり、そいつらは下卑た笑いをしながら女性の攻撃を交わし、わざと軽く剣を振り服だけ破いているのがよくわかる。
「ほらほら、ちゃんと避けないと裸になっちゃうぜ!!」
「さっきから何なのよ!? 真面目に戦いなさいよ!」
「真面目に戦ったら勝てないからな。それにこれは復讐なんだ………だから俺たちをもっと楽しませてくれないと困るんだよ!」
「いやまさかあのクソガキがこんな良い体になってるなんてなぁ……これは仕方がねぇよな!!」
そう言うと男たちは再び女性を蹂躙しようと剣を振り上げる。俺はそれに耐えきれなくてすぐにスキルを発動していた。
プロテクト・ゾーン発動! 指定するのは男たちの方だ!!
結界が男たちを囲うように展開された瞬間に剣がガキンっと、弾かれたのがわかった。
「な、なんだ!?」
戸惑う男たちを無視して、俺たちは一気に女性のもとまで駆け寄った。
「お姉さん!!」
セシノの声にその女性は振り向く。
裂かれた服のせいでその姿を直視できなくて、俺は顔を背けていた。
「あんた! まさか戻ってきたの!?」
「お姉さんが心配で、助っ人を呼んできたんです」
俺は今もまだ混乱している男たちを眺めながら女性に近づき、なるべく体をみないように上着をかけてやる。
「それ、着た方がいいぞ」
「なによあんた、でも今は仕方がないから着てあげるわ……ふん、ありがとう」
なんだかその話し方と声に俺は眩暈がする程の既視感を覚えて、ついその顔をみてしまった。
「っ!?」
叫びそうになった俺は、すぐに口を閉じてソッポを向く。
確かに大人になって見た目が結構変わっていた。
だけど俺が間違えるわけがない。
今、ここには俺を置き去りにした張本人ーー。
俺が8年間ずっと待ち続けた相手である、アンナがいたのだ。
0
お気に入りに追加
640
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
冥界帰りの劣等冒険者 ~冥界の女王に気に入られた僕は死神の力を手に入れました。さっそくですが僕を裏切った悪い魂を刈り取りに行きます~
日之影ソラ
ファンタジー
傷ついたフクロウを助けた心優しい冒険者ウェズ。
他人の魂が見える『霊視』というスキルしか持たず、これといった才能もないウェズは、パーティー内で雑用係を務めていた。
パーティー内では落ちこぼれと罵られ、散々な扱いを受けつつも、一人では冒険者としてやっていけないことを理解し、仲間からの罵声に耐える日々を送る。
ある日、新しく発見されたダンジョンに潜った一行は、まだ誰も見つけていない隠し通路を見つける。一気に最下層までたどり着き、お宝の山に興奮する一行だったが、宝を守る強力なモンスターに襲われ絶体絶命のピンチに陥った。
仲間に脅される形で囮になったウェズは、そのまま見捨てられ、モンスターの前に置き去りにされてしまう。
死を覚悟した彼を救ったのは、冥界から来た死神の少女イルカルラだった。
彼女に連れられ冥界にやってきたウェズは、自分に死神の才能があると知り、冥王から力を授かって死神代行となる。
罪人の魂は赤い。
赤い魂は地獄へ落ちる。
自分を裏切った彼らの魂が、赤く染まる光景を思い出したウェズ。
さて、お仕事を始めようか?
赤い罪人の魂を刈り取りにいくとしよう。
小説家になろうにて先行連載中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる