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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺

78、布屋さんで(セシノ視点)

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ここで、二人と分かれたセシノ側の視点が2話入ります。

ーー▼ーー▽ーー▼ーー▽ーー▼ーー





















 バンさんと別れた私は今、布屋さんに来ていた。
 アンナさんが可愛い物が好きだと聞いて一番に思い付いたのが、可愛いオブジェクトを作る事と、お土産の名物キャラを作り出す事だったのだ。
 そして『温泉宿トラパラ』での看板といえば、きっと狼のイメージが強いはず。
 玄関を開けるとフォグさんが、それに狼のお面を被ったバンさんもいるのだ。ここは狼で攻めるしか無いのだけど……可愛い狼ってどんなのだろう?
 そんな事を悩んでいる私が今、ここで布を見ているのはお土産に服とか鞄などの布製品を作ろうと思ったからだ。そこにはもちろんキャラクターの刺繍も入れるつもりだ。
 悩みに悩んでどの布を買うか決めた私がレジに向うと、そこには店員と揉めている女性がいた。

「私はどうしてもこのアザレア柄が入った布がいいのに、何で切らしてるのよ!?」
「申し訳ありません。先程もお伝えしましたが、そちらはもう製造されてないものでして……」
「どうにかならないの?」
「申し訳ないのですが……こちらは製造中止になって1年以上経っているようで、もう取り扱ってるお店もないと思います」
「そんな……この布は今作ってる服にどうしても必要だったのに、どうしよう……」

 女性はレジから離れると、持っている布端を見てため息をついていた。
 なんだろう。あの人、何処かで見た記憶があるような……。
 そう思ってよく見ると、それは以前ギルドの前でぶつかってしまった赤髪のお姉さんだった。
 声をかけるか迷った私はそのお姉さんが持っている布端を見て、そういえば前に買ったけど使ってないのが残っていた事を思い出す。
 それならと、私はお姉さんに話しかける事を決めたのだった。

「あの、お姉さん」
「何よ! って、あなたこの間の……私に何の用よ? 今の私は機嫌が悪いから話しかけない方がいいわよ」

 キッと睨みつけられてしまったけど、私は怯まずにその瞳を見つめ返す。

「えっと、そのアザレア柄の布でしたら前に買って使わなかった分があるので、お姉さんが必要な分あるかはわかりませんが、よければいりませんか?」
「えっ!? いいの!!?」

 目を丸く見開いたお姉さんは私の肩を激しく揺らすので、私は必死に首を縦に振っていた。

「だ、大丈夫ですから。揺らさないでください!」
「本当に、本当でしょうね!?」
「本当に、お渡ししますから!!」
「絶対よ……」

 私の言葉をようやく理解してくれたのか、お姉さんはハッとして私から手を離したのだった。

「わ、悪かったわね。私ってどうも馬鹿力みたいだから、怪我とかしてない?」
「ええ、大丈夫です。布は持っていた筈なので後でお渡ししますから、少し待っていてもらえますか?」
「もってる……? でもあなた、今ポーチ一つしか持って来てないじゃない」

 その疑問は仕方がないと思う。だって傍から見ると布なんて大きい荷物を持っているようには見えないのだから。
 でも私には収納ボックスがある。
 確かこのポーチは素材系がメインで入っているはずなので、お目当ての布もしっかり収納されているはずなのだ。

「大丈夫です。ちゃんと持ってきてますから、出口で待ってて下さいね!」

 そう言って私はレジに向かい、店員さんにお願いして布数枚を必要な長さに裁断してもらった。
 そしてお会計を済ませると、急いでお姉さんの待っている出口へと向かったのだ。

「おまたせしました!」
「別にそんなに待ってないけど……買った荷物もないわね。と言う事は、そのポーチ収納魔法系の何かなのね?」
「はい、そうなんです。だからここにお姉さんの必要な布があるはずなのですけど、此処で出します?」
「何言ってるのよ、ここだと邪魔になるじゃない。そうね、私が借りてる宿屋が近いからそこに行くわよ」

 お姉さんは私の了承も得ずに勝手にそう決めると、先に歩いて行ってしまった。だから私は慌てて後を追いかける。
 なんとか横に並んだ私は、お姉さんがアザレア柄の布を何に使うのか気になっていた。
 服に使うと言っていたけど、結構派手目の布だから自分の服にするとは思えないのだけど……。
 その好奇心に負けた私はつい、聞いてしまったのだ。

「あ、あの……布が無くて凄く困ってましたけど、アザレア柄の布を何に使うのですか?」
「…………人形の服に使うのよ」

 少し恥ずかしそうにそっぽを向いて言うその姿に、可愛い物が好きなのだろうと微笑んでしまった。

「人形なんて、似合わないと思ったでしょ!?」
「そんな事ありませんよ、私も可愛物好きですから是非ともその人形を見せて下さい。もしかして手作りなんですか?」
「え、ええ……そうよ! 私のお手製で…………」

 話している最中で、お姉さんが突然立ち止まったのだ。
 何だろうかと私も立ち止まり、お姉さんを見上げる。

「おかしいわね。こんな町中なのに魔法の残滓を感じるんだけど……しかもすぐ近くだし、これってまだ使われてない魔法陣じゃないの……」

 私には全くわからないけど、お姉さんは魔法陣の位置を確認する為に辺りを見回しているようだった。

「……魔法陣がこんな町中で、ですか?」
「しかも凄い勢いで魔力値が上がって……!? このままだと起動するじゃない! 伏せるわよ!!」
「え、え、え??」

 混乱している私は気がつけばお姉さんに地面に押し倒されていた。
 そして次の瞬間、凄く近くで爆発音がしたのだ。
 それはここだけではなく、連続的に町のあちこちでその爆発は起きたのだった。
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