78 / 168
第四章 ダンジョンを観光地化させる俺
78、布屋さんで(セシノ視点)
しおりを挟むここで、二人と分かれたセシノ側の視点が2話入ります。
ーー▼ーー▽ーー▼ーー▽ーー▼ーー
バンさんと別れた私は今、布屋さんに来ていた。
アンナさんが可愛い物が好きだと聞いて一番に思い付いたのが、可愛いオブジェクトを作る事と、お土産の名物キャラを作り出す事だったのだ。
そして『温泉宿トラパラ』での看板といえば、きっと狼のイメージが強いはず。
玄関を開けるとフォグさんが、それに狼のお面を被ったバンさんもいるのだ。ここは狼で攻めるしか無いのだけど……可愛い狼ってどんなのだろう?
そんな事を悩んでいる私が今、ここで布を見ているのはお土産に服とか鞄などの布製品を作ろうと思ったからだ。そこにはもちろんキャラクターの刺繍も入れるつもりだ。
悩みに悩んでどの布を買うか決めた私がレジに向うと、そこには店員と揉めている女性がいた。
「私はどうしてもこのアザレア柄が入った布がいいのに、何で切らしてるのよ!?」
「申し訳ありません。先程もお伝えしましたが、そちらはもう製造されてないものでして……」
「どうにかならないの?」
「申し訳ないのですが……こちらは製造中止になって1年以上経っているようで、もう取り扱ってるお店もないと思います」
「そんな……この布は今作ってる服にどうしても必要だったのに、どうしよう……」
女性はレジから離れると、持っている布端を見てため息をついていた。
なんだろう。あの人、何処かで見た記憶があるような……。
そう思ってよく見ると、それは以前ギルドの前でぶつかってしまった赤髪のお姉さんだった。
声をかけるか迷った私はそのお姉さんが持っている布端を見て、そういえば前に買ったけど使ってないのが残っていた事を思い出す。
それならと、私はお姉さんに話しかける事を決めたのだった。
「あの、お姉さん」
「何よ! って、あなたこの間の……私に何の用よ? 今の私は機嫌が悪いから話しかけない方がいいわよ」
キッと睨みつけられてしまったけど、私は怯まずにその瞳を見つめ返す。
「えっと、そのアザレア柄の布でしたら前に買って使わなかった分があるので、お姉さんが必要な分あるかはわかりませんが、よければいりませんか?」
「えっ!? いいの!!?」
目を丸く見開いたお姉さんは私の肩を激しく揺らすので、私は必死に首を縦に振っていた。
「だ、大丈夫ですから。揺らさないでください!」
「本当に、本当でしょうね!?」
「本当に、お渡ししますから!!」
「絶対よ……」
私の言葉をようやく理解してくれたのか、お姉さんはハッとして私から手を離したのだった。
「わ、悪かったわね。私ってどうも馬鹿力みたいだから、怪我とかしてない?」
「ええ、大丈夫です。布は持っていた筈なので後でお渡ししますから、少し待っていてもらえますか?」
「もってる……? でもあなた、今ポーチ一つしか持って来てないじゃない」
その疑問は仕方がないと思う。だって傍から見ると布なんて大きい荷物を持っているようには見えないのだから。
でも私には収納ボックスがある。
確かこのポーチは素材系がメインで入っているはずなので、お目当ての布もしっかり収納されているはずなのだ。
「大丈夫です。ちゃんと持ってきてますから、出口で待ってて下さいね!」
そう言って私はレジに向かい、店員さんにお願いして布数枚を必要な長さに裁断してもらった。
そしてお会計を済ませると、急いでお姉さんの待っている出口へと向かったのだ。
「おまたせしました!」
「別にそんなに待ってないけど……買った荷物もないわね。と言う事は、そのポーチ収納魔法系の何かなのね?」
「はい、そうなんです。だからここにお姉さんの必要な布があるはずなのですけど、此処で出します?」
「何言ってるのよ、ここだと邪魔になるじゃない。そうね、私が借りてる宿屋が近いからそこに行くわよ」
お姉さんは私の了承も得ずに勝手にそう決めると、先に歩いて行ってしまった。だから私は慌てて後を追いかける。
なんとか横に並んだ私は、お姉さんがアザレア柄の布を何に使うのか気になっていた。
服に使うと言っていたけど、結構派手目の布だから自分の服にするとは思えないのだけど……。
その好奇心に負けた私はつい、聞いてしまったのだ。
「あ、あの……布が無くて凄く困ってましたけど、アザレア柄の布を何に使うのですか?」
「…………人形の服に使うのよ」
少し恥ずかしそうにそっぽを向いて言うその姿に、可愛い物が好きなのだろうと微笑んでしまった。
「人形なんて、似合わないと思ったでしょ!?」
「そんな事ありませんよ、私も可愛物好きですから是非ともその人形を見せて下さい。もしかして手作りなんですか?」
「え、ええ……そうよ! 私のお手製で…………」
話している最中で、お姉さんが突然立ち止まったのだ。
何だろうかと私も立ち止まり、お姉さんを見上げる。
「おかしいわね。こんな町中なのに魔法の残滓を感じるんだけど……しかもすぐ近くだし、これってまだ使われてない魔法陣じゃないの……」
私には全くわからないけど、お姉さんは魔法陣の位置を確認する為に辺りを見回しているようだった。
「……魔法陣がこんな町中で、ですか?」
「しかも凄い勢いで魔力値が上がって……!? このままだと起動するじゃない! 伏せるわよ!!」
「え、え、え??」
混乱している私は気がつけばお姉さんに地面に押し倒されていた。
そして次の瞬間、凄く近くで爆発音がしたのだ。
それはここだけではなく、連続的に町のあちこちでその爆発は起きたのだった。
0
お気に入りに追加
641
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
料理を作って異世界改革
高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」
目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。
「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」
記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。
いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか?
まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。
そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。
善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。
神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。
しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。
現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。
刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。
木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。
その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。
本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。
リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。
しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。
なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。
竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる