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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺
76、新しい計画
しおりを挟む昨日、散々悩んだあげくアンナの事を相談しに行った俺は、セシノにスパッと言われてしまったのだ。
「良いですか、例えアンナさんがすでに報復を受けていたとしても、それでバンさんの気持ちが晴れていないのなら意味がないと思うんです。だからとりあえずアンナさんをここに誘き出して、バンさんがアンナさんを見てどう思ったかで考えましょう。そのために皆で作戦会議です!」
と言うわけで、今ここのダイニングルームには俺とセシノの他にマリー、フォグがいた。そしてアーゴは念のために受付で待機してもらっている為ここにはいない。
因みにフラフは寝ていたので邪魔しないようそっとしておくことにした。
「今日集まって貰ったのは、アンナを誘き寄せる為の新しい観光施設を作りたいと思ったからなんだが……二人に確認したい、ここがこれ以上ダンジョンっぽくなくなるのはよくない事だよな?」
「うむ、確かにそうなんじゃがなぁ……ワシは全然気にならぬのじゃ。それに、確かどこかでは遊べるダンジョンとやらもあると聞いた事があるくらいじゃから、上手く配置をすれば良いと思うのじゃよ?」
「俺はこのダンジョンに人が増えるなら、それ以外はどうでもいいぜ? とりあえずこの宿周りを少しずつ変えて行けばいいんじゃねぇのか?」
どうやら、マリーとフォグ的には全く問題ないようだ。
しかし現状、宿屋裏手には温泉があるため残っているのは入り口側という事になるけど……。
「そういえば最近ゲートの前に看板を置いて見たけど、ここまで来るのに道に迷うって意見があったよな?」
「そうですね、ここまでの道はとくに舗装されてるわけではありませんからね……」
「よし、それなら楽しんで宿まで来てもらえるように『トラパラロード』を作ってみないか?」
「トラパラロードですか?」
「ああ、少し見てろよ」
俺はこのダンジョンマップを皆に見えるように展開すると、ゲートからこの宿までの道を適当に作り、さらにそこを石畳みに舗装していく。
この時間帯なら余り人もいないだろうし、いきなり変わってもそこまで大騒ぎにはならないだろう。
「これだけでもだいぶオシャレだし、何よりここまで簡単に来れるようになるよな」
「確かにそうですね。後は、道中に何を作るつもりなんですよね?」
「いや、それが何も考えていなくてな……出来ればアンナが好きそうな物を並べて行きたいんだけど、俺はアイツが何を好きかなんて知らないから」
「でしたら、知ってそうな人に聞きに行けばいいんじゃないですか?」
そんな人いただろうかと首を傾げた俺は、一人だけ思いつく人がいた。
それは『暁の宴』に今も所属しているイアさんの事だ。当時からとても面倒見のよかったイアさんは、いつも我が儘を言うアンナを自分の妹のように可愛がっていたから、確か一緒に買い物とかしていた気がする。
しかし、イアさんは今朝方既にチェックアウトしているため、もうこの宿屋にはいない。
それに冒険者もほぼしていないと言っていたし、すでにファミリーへ戻っている可能性もある。
「一人だけ思いついたんだけど……その人に会う為には『暁の宴』まで行かないといけないんだよ」
「もしかして、昨日バレたって話していた方の事ですよね。私はお会いした事がないので、バンさんと一緒ではないと会ってもらえなさそうです……」
「そうだよなぁ、なるべく他の奴にもバレたくないんだけど、この際ここは腹をくくるしかないか」
「そうじゃ早く腹をくくってしまった方がいいのじゃ、それにマスターが町に出るのならワシも行くのじゃよ?」
そう言うマリーを見て、俺はまずい事に気がついた。
この宿は現在大繁盛中であり、ここで三人も抜けてしまったらこの宿はピンチじゃないか?
「いやマリーまでここを出たら、宿が回らなくなるからダメだ」
「む、確かにそうじゃのぅ……これは近々マリーちゃん大分裂の術を編み出さなくてはならないようじゃな……」
「マリーさん、分裂できるのですか?」
「それはそうじゃろ、ワシはスライムじゃからのぅ。しかし今はまだ、分裂した個体が同じように姿形を変えられるわけではないのじゃ」
「でも分裂した個体までマリーさんレベルだと大変な事がおきそうです……」
確かにそうだなと、俺はマリーが沢山いるこの宿屋を想像してみた。
各フロアにマリーがいたら、少しホラーだなんて思ってしまう。
「じゃが確実に役立つじゃろ? ワシが次に出かけるときまでにどうにかするかのぅ。そういう訳じゃから後の事はワシらに任せて、今回は二人だけで行ってくるのじゃ」
「ああ、悪いけど頼んだ。何かあればすぐに通信をくれ。それとフォグ、悪いけどゲートまで送って貰ってもいいか?」
「わかったぜ! でもその前にこの服を脱がねぇと……四足歩行型だと服が破れちまうからな!」
どうやらフォグはセシノが作った服を大事に着てくれてるようだ。
セシノを見ると少し嬉しそうに笑っていた。
「じゃあ、俺たちも一応着替えてから行くとするか」
「そうですね」
そして俺たちは素早く着替えをして、外に出た。
しかし困った事に宿屋の前には突然できた道を見ようと、それなりに人がいたためフォグに乗る為の場所がなかったのだ。
そのためわざわざ作った道から外れて、人気の無いところで合流した俺たちは、ようやくフォグに乗ってゲート付近まで行く事ができたのだった。
「今後は、フォグに乗るための場所を決めておく必要がありそうだな……」
「ですが最近は人も増えてますし、一体何処で乗ればいいのでしょうか?」
思いつかなくて首を傾げる俺とセシノを見て、フォグがプニプニの肉球で俺の肩を叩いた。
「それじゃあ、上でいいんじゃねぇのか?」
「上? 上って屋根の上の事か?」
「ああそうだぜ。それなら人には気づかれないんじゃねぇか?」
確かに気がつかれないかもしれないけど、俺やセシノはどうやって屋根に上がれば……?
「うーん、屋根に上がる為の梯子でも作っておくか」
「梯子……私、登れるかなぁ……」
そう呟くセシノのために、俺は作るなら階段にしようと決めたのだ。
そして俺たちはフォグと分かれると、すぐにゲートへと足を踏み入れたのだった。
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