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第三章 温泉を作る俺
75、亡霊(アンナ視点)
しおりを挟むどうして私はホージュと喫茶店でお茶をしているのよ?
そう思いながら、呑気に注文しているホージュを睨みつけていた。
「そんな怖い顔しないでほしいですね、折角お茶しにきたのに紅茶が不味くなりますよ?」
「あんたねぇ……私に何をしたのかわかった上でそんな事言ってるわけ?」
「何か……? 私はアンナさんに何かしましたか? ごめんなさい昔の事なのであまり覚えていなくて」
「ふざけないでよ! あんたがあのときキングに告げ口しなかったら、私もこんな風に落ちぶれてなかったはずなのよ!?」
机をバンっと勢いよく叩き怒鳴ったせいで、周りからの視線がこちらに集まっていた。
それに気がついた私は咄嗟にフードを深く被る。
「あんまり騒ぐとアンナさんだってバレますよ?」
「わ、わかってるわよそんなの……」
「なら、いいんです。あ、紅茶が来ましたね」
ようやく紅茶を持ってきた店員さんが、手際良く机に置いてすぐに立ち去ってく。
その紅茶をすぐに飲み少し落ち着くと、私はホージュを見た。
「それで、私とお茶をするからには何か用があったんじゃないの?」
「ああ、そうですね。アンナさんがどうして戻って来たのか気になってしまって……ですかね?」
何で疑問系なのか気になるところだけど、それよりもホージュの態度にイライラしてしまい、私は顔を背けて言ってやった。
「なんであんたにそんな事教えなきゃならないのよ」
「ただの好奇心……いえ、アンナさんがもしトラウマを克服されていたら、ファミリーに誘うのもありかと思ったのですけど……先程の感じだとまだ全然ダメみたいですね?」
「だから、あんたのせいなのもあるでしょうが!」
人差し指を差して怒っているのに、ニコッとしながら首を傾げるその姿に、なんだかバカらしくなってきた私はため息をついてしまう。
そしてこれ以上は無駄だと思い、私は逆にホージュの話を聞いてみる事にした。
「あんたはさ、『ユグドラシルの丘』に移ってからはそのままなの? まあ、あんな良いところから他へ移る必要も無いわよね……」
「『ユグドラシルの丘に』移ってからですか……なんだかおかしな事を言うのですね。そうだ、アンナさんはもうファミリーに所属する事は無理そうですし、教えてあげますよ」
ファミリーへの所属は無理だと決めつけられて、文句の一つでも言ってやりたかった。
でもそれはきっと本当の事だと、私は唇を噛み締めてしてホージュの話を聞いていた。
「私の所属は最初からずっと『ユグドラシルの丘』ですよ?」
「は? それって……」
ホージュは最初から『ユグドラシルの丘』のメンバーで『暁の宴』を密偵してたって事じゃないわよね……?
嫌な予感に私はホージュを見る。しかしその顔は相変わらず笑顔で何を考えているのかわからない。
「それって、なんですか? どうせ今のアンナさんでは誰も話を聞いてはくれませんよ?」
「それがわかったうえで私にこの話をしたって事は、本当にあんたは……」
「私に何を言っても、アンナさんがバンさんをトロッコから蹴り落とした事実はかわりませんから」
ホージュは私が追放されてすぐに、ファミリーを去っている。もしホージュが本当に密偵だったとするならば、コイツの目的は私かバンだった可能性が高い。
だけどどうしてこんな事をされたのか全くわからなくて、頭をぐるぐるさせているのにホージュはありえない事を言い出したのだ。
「でもアンナさんってバンさんの事を気にしてるように見えたのに、なんで蹴り飛ばしたんですか?」
「なっ!? アイツの事を私が気にしてたですって? そんな事あるわけないわ!」
「だってアンナさんとバンさんってだいたい同じパーティーでしたし、悪態ついても一番話しかけてましたよ?」
「それはあの男が無能だから文句言ってただけよ。それだけなのに……」
なんで記憶から出ていってくれないのよ……。
寝ても覚めてもイライラするぐらいあの亡霊が私に纏わりついて、あのマヌケな顔が頭から離れない。
「好きと嫌いは表裏一体って言うじゃないですか、もしかして好きだったりとか?」
「ありえないわよ!? 普通に考えて好きな人を置き去りにするわけないじゃない……」
どう考えてもありえないのに何故かホージュは信じていないのか、少し首を傾げたのだ。
「ふーん、本当にそうなのですかね……。てすがもし気がついてないだけなら、早めに清算しておかないと行き遅れますよ?」
「余計なお世話よ!!」
確かに私はもう26歳だけど、冒険者は引退してから結婚する人が多いのでまだ大丈夫だと思っていた。
だけど冒険者を続けられなくなってしまったら、世間的にはそろそろ行き遅れと呼ばれる頃なのだろう。
「それとアンナさんだから伝えておきますけど、近々このエリアは慌ただしくなると思います。だからなるべくダンジョンでの活動を推奨しますね」
「あんた本当になんなわけ? 敵みたいなフリしてそうやって親切に教えてくれるし……」
「私は私の世界を守る為に必死なだけですから、その邪魔にならなければアンナさんの事は嫌いではありませんよ?」
それはつまり、あのときの私とバンは何かの邪魔だったって事……?
「では、私はそろそろ時間ですので失礼しますね」
「え、ええ……」
「一応言っておきますけど、もしアンナさんがトラウマを克服出来たらまた勧誘に行きます。今は少しでも戦力が必要ですから……」
そう意味深な事を小声で言うと、ホージュはすぐに喫茶店から出て行った。
そして暫く座ったまま私は考えてしまう。
実はホージュが密偵で私かバンを陥れようとした可能性がある事。
そして私がバンを好きだった……なんてそんな訳がないのに、何故こんなにも引っかかってしまうのか私にはわからなかった。
その後、ぼーっとしていた私は気がつけばギルドにいた。せっかくだからと依頼を見たけど、全然良い依頼も見つけられない。
だから諦めて帰ろうとしたところで、角を曲がってきた少女とぶつかって尻餅をついてしまったのだ。
「す、すみません! 急いでいたもので……」
「ちょっと、気をつけて走りなさいよね! まだ私だったからよかったものの、怖い冒険者とかだったら恐喝されてたところよ!?」
「本当にすみません……」
「まあ、別に良いわよ。ってフードフード……」
すぐにフードを被り直した私は、周りに誰もいない事を確認してホッとため息をつく。
そして私は今からギルドに行こうとしているその少女が少し気になって、つい話しかけていた。
すると彼女は言ったのだ。
「私、ダンジョンにある温泉宿の従業員なんです」
「ダンジョンに温泉ってなによそれ? 久しぶりにここに帰って来たけど変な事してる奴がいるのね。でも温泉か~、癒されたいし行ってみるのもありよね!」
最近はろくな事がないし、私だって癒しを求める事ぐらい許されるはずだなんて、そう思ったのが間違いだった。
私はその温泉宿がどこにあるのか聞いて固まってしまった。
「それはどこのダンジョンボックスにあるのよ?」
「『カルテットリバーサイド』です」
「えっ……」
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いつもこうだ。何処に行っても何をしても、その亡霊は私が幸せになる事を許してはくれない。
私は、どうしたらいいっていうのよ……。
そして今日も私はその亡霊に取り憑かれるように、また悪夢を見たのだ。
それはバンの手によって、私が逆に置き去りにされる夢だった。
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