71 / 168
第三章 温泉を作る俺
71、部屋数を増やそう
しおりを挟むここが温泉宿にリニューアルしてから、もう1週間が経っていた。
初日に『暁の宴』の面々が訪れてからいうもの、その噂は一気に拡散された。
流石大規模ファミリー、まずは全員が来るだけでも1週間近くかかってしまい、泊まる人の部屋数が全然足りなくなってしまったのだ。
それでも温泉だけとか、ご飯だけでも、という客もチラホラいるようで、常に何処も賑わっていた。
そして今の俺は大忙しの中、時間をどうにか作って四階を改築中だったりする。
「バンテットさん、3階の改装終わりましてよ?」
声をかけられて振り向くと、そこにはマヨの姿があった。
今日はようやく休みが取れたとかで、新しくなった温泉宿を飾り立てに来てくれたのだ。
俺は、そのついでにと部屋の改装までお願いしていた。
「マヨ、ありがとう助かったよ。俺のこれが終わったら続けて四階もお願いするから、それまでは少し休憩していてくれ」
「わかりましたわ!」
俺はマヨにあまり見えないように、指をスイスイ動かして部屋を改築していく。資材は知らない間にモンスターたちが集めてくれているので、最近は資材不足に悩む事もなくて安心だ。
そしてようやく改築の終わりが見えてきたので、俺は休憩しているマヨに気になっていた事を聞いてみた。
「そういえば、今日クラウは一緒じゃないのか?」
「な、何故ここで先輩の名前が出てくるんですの!? べ、べつに私は先輩とずっと一緒にいるわけではありませんわ!」
少し顔を赤くしながら言う姿に、これはもしや……? と思ってしまった俺は、気がつけばつい口からぽろっと言葉が漏れていた。
「もしかして、クラウの事が好きなのか?」
「な、ななな! そ、そんなんじゃありませんわ! ただの先輩と後輩ですのよ!?」
顔を真っ赤にして髪のドリルを振り回しながら首を振る姿に、これは絶対好きなやつだなと。少し微笑ましくてニヤニヤと見ていたら、後ろから突然声をかけられて驚いでしまう。
「えっと、なんか僕の名前呼びましたかー?」
「せ、先輩!!?」
そこには相変わらずやる気の無さそうな顔をしたクラウが立っていた。
本人が突然現れたせいで驚いたマヨは固まってしまったので、俺がフォローして置く事にしよう。
「クラウ、来てたんだな」
「はい、まあ……無理矢理連れて来られた的な? それで先程の話は?」
「いや、二人とも大体一緒にいるだろ? だから今日は一緒じゃないんだなって話をしてたんだよ」
「あー、成る程。実際はギルドだと一緒じゃない事の方が多いんですけどねー。でもバラバラで来たのにこんな偶然あるんだと、驚きましたよ」
確かにそうかもしれないと、思っていたら。
後ろに見覚えのある二人組が歩いてきたのだ。
「よー、久しぶりだな。えーっと、バンテット? だよな?」
「何故、仲が良さそうに話かけておいて疑問系になるんだ。名前を忘れるなど友としてどうなのか……全く意味がわからん」
そこにいたのはサバンだった。そして他にもう一人、凍えるような瞳を持つ女性が腰まである青髪を靡かせていた。
久しく会ってなかったせいでだいぶイメージが変わってしまったが、この女性は冒険者ギルド東エリアのギルド長であるコルト・キワレイ。ようはサバンの想い人だ。
俺は久しぶりと言いたいのをグッと堪えて、二人の会話を聞き続けていた。
「えっと……ほら、たまにあるだろ? ど忘れとかそんな感じのやつだ」
「何を言っている? そんな事まで話せと私は言っていない。それよりも早く温泉へ案内しろと、さっきから言っているだろう? 私はここの温泉がとても肌にいいからと言われてここまでついて来てやったのだ、本来なら私は凄く忙しいのだから感謝するんだな」
コルトの強気な態度はどうやら昔から変わってないようだ。
しかしなんでサバンもこんな奴が今でも好きなのかよくわからん。もしかするとただドMなのかもしれない……なんて失礼な事を考えてしまう。
「ギルド長、それなら僕が案内しますよー。どうせ班長はバンテットさんと話があるようですし、先に行きましょう」
「うむ、とりあえず案内してくれるのであれば誰でもいいからな」
「ああ、俺もすぐ向かうから二人は先に行ってろ」
クラウは頷くと、コルトを案内し始めた。
どうやらクラウはサバンに無理矢理連れて来られているようだ。相変わらず苦労の絶えない男で可哀想である。
そんな俺たちを静かに見ていたマヨは、休憩をやめるのかゆっくりと立ち上がると言った。
「バンテットさんはお話があるようですし、私は一人で四階へ行こと思っているのですわ」
「それは悪いな。でもさっき四階の改築が終わったところだから丁度よかった」
「そうなんですの? でしたら素早く美しく、後は私には任せて下さいまし!」
グッと拳を握ったマヨは、そのまま四階へと駆け上がって行く。
そして三階には俺たちだけが残ったのだった。
「それで、俺に話ってなんだ?」
「そうだな……バン、お前が温泉宿を作ってくれたおかげで俺はコルトを誘う事ができた。だからお礼を言いたくてだな」
「いやいや、それはこっちの台詞だからな。サバンの意見があったからこそこんなに繁盛するようになったんだ。でも何でクラウも一緒に?」
「いや、それが……コルトが二人は死んでも嫌だというからもう一人いたら良いのかと思ってだな」
「ああ、成る程……」
それで、クラウを誘ったら本当にオッケーが出てしまったと言うわけだ。クラウからしたら、ただ迷惑でしかない話だな。
「そんなわけで、今回は二人で来るのは失敗したがこの機会に距離を縮めてみせるつもりだ!」
「まあ、頑張れ」
「そういうお前は、宿屋頑張れよ?」
そう言って俺たちはしっかりと手を握り合った。
これは、これからも協力関係でいようという意味だろう。
しかしタイミング悪く、三階に泊まっている客がサバンの知り合いだったのか、こちらに気がついて声をかけてきたのだ。
「おや、そこにいるのはサバンではないか?」
「あら本当ですわね? 貴方もこの温泉宿にきたのかしら」
その聞いた事のある声に、俺の心臓はドクンっと跳ねる。
そしてゆっくりとそちらを見た俺は、驚きに目を見開いてしまった。
そこには俺がトロッコから落とされたとき、一緒にそのトロッコに乗っていた女性、『暁の宴』に所属しているイアさんの姿があったのだ。
0
お気に入りに追加
641
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
料理を作って異世界改革
高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」
目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。
「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」
記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。
いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか?
まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。
そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。
善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。
神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。
しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。
現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。
刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。
木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。
その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。
本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。
リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。
しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。
なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。
竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる