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第三章 温泉を作る俺
64、制服
しおりを挟む俺とセシノが作業を始めてから、だいぶ時間が経っていた。
そろそろ暗くなってきたし、今日はこの辺で切り上げた方がいいだろうと、俺はセシノに話しかける。
「セシノ、今日は切りがついたら宿屋に帰るぞー」
「あ、バンさんは先に帰ってて下さい。私この後少し用があるので」
「そうなのか、でも危ないから行動するなら宿屋の周りだけにしておけよ」
「わかってます」
そう言うセシノを置いて俺は先に宿屋に戻る。
今日もお客さんは来なかったので、今宿屋には誰も居なかった。
「おかしいな、いつもなら店番として誰か一人はどこかにいるんだけどな……」
それなのに、今日はモンスター達も誰一人宿にはいなかった。
皆忙しいのだろうと、俺は気にせずにキッチンへと向かいご飯を作る事にした。
こうしていると、セシノが来る前に戻ったみたいだ。なんて思いながら俺は芋を潰していた。
このまま宿屋も上手くいかなかったら、きっとまた俺は一人になるのだろか。そう思いながらご飯を作り終えたところだった。
「……なんだ?」
ガヤガヤと、玄関の方が騒がしい。
俺は出来た料理をダイニングに運ぶと、すぐにそちらへ足を向けた。
「賑やかだけど、どうした……?」
玄関ホールに入ると、そこには二足歩行型のフォグと、ほぼ人型サイズになっているアーゴが何故か服を着ていた。
唖然とする俺に気がついたセシノが走り寄ってくるのがわかった。
「あ、バンさん!」
「えっと、これはどう言った状況で?」
「この間いいましたよね。バンさんがいなくても宿屋が回るようにするって」
「だけど、これは……」
モンスターが衣装を無理矢理着てるようにしか見えない……。
「着ぐるみ従業員ですよ!」
「え?」
「バンさんがお面の従業員なんですから、着ぐるみがいてもいいと思ったのですけど……やっぱり無理がありましたか?」
そう言われて改めてフォグとアーゴを見ると、少し着ぐるみに見えるように、服の背中がチャックになっていたりして面白い。
「マスター、俺の格好どうだ。似合ってるだろ?」
「オレ、マスターノタメニ、ガンバル」
フォグとアーゴは俺に近づくと衣装を見せびらかすように、ポーズを取っていた。
「うん、これならいいんじゃないか? それにしてもこの服どうしたんだ?」
「あ、あの……私、一応裁縫スキルを持っているので、収納ボックス作るのに鞄類も作りますからね」
「成程、でも二人のを作るのは大変だっただろう?」
「いえ、作ったのは三つです。これ、一応バンさんの分……」
そう言うと、セシノは恥ずかしそうに俺の為に使ってくれた服を鞄から出した。
「せっかくだから着てみてもいいか?」
「そ、そうですね測った訳じゃないですから、サイズが合わないといけないですもんね……」
「確かにそうだな」
そう思って俺は一度部屋まで戻ると、セシノが作ってくれた服に着替えた。
それは俺が今まで余り着たことのない服のため、手間取ってしまう。
服を着て鏡を見ると、何処かのお屋敷にいる使用人みたいにみえてなんだか似合ってる気がしない。
とにかく一度変じゃないかセシノに確認するために、俺は再び玄関ホールへと戻った。
そこにはフォグとアーゴはもう帰ってしまったのか、セシノ一人で俺を待っていた。
「セシノー、服の着方これであってるかー?」
「……バンさん?」
一瞬セシノは俺だと気がつかなかったのか、目をパチクリしてこちらを見ていた。
やっぱり似合ってないのだと、俺は少し落ち込んでしまう。
「せっかく作ってくれたけど、似合わないから着るのやめようかな……」
「い、いえそんな事ないです! 寧ろ……」
「セシノ?」
「いえ、とても似合い過ぎてて別人かなと、思ってしまいました。これなら尚更バンさんとは思われなくなっていいんじゃないですか?」
確かに服だけで別人に見えるならその方が良いかもしれない。
「セシノの言う通りだな、じゃあ、俺は明日からこの服を着るけど……セシノはどうするんだ? 女性は女性で可愛い制服のが良くないか?」
「確かに……ではそこはマリーさんと相談して決めますね!」
そう言ってセシノは嬉しそうにどんな制服にしようかと悩み始めたときだった。
扉がバタンと開いたのは……。
「なんじゃ、誰かワシを呼んだかのぅ?」
「マリーさん!」
「おお、マリー丁度いいところに来たな」
噂をすれば出てくるスライムだよ、コイツは。
そう思いながら俺とセシノはマリーに近寄ると、マリーは俺を見て少し驚いたようだった。
「ああ、なんじゃマスターじゃったか。服だけでこんなにもイメージが変わるのは、マスターぐらいじゃろうな」
「元が悪いって言いたいのか?」
「その通りじゃろう?」
本当その通りだからこそ、俺は何も言い返せない。
「それで、タイミングが良いと言うのはどう言う事じゃ?」
「マリーさん、今丁度この宿屋の従業員服について話していて、男性服はこれでと言う話になったのですけど、女性用の服をどうしようかと……」
「ワシは可愛くフワッと広がる服が良いのじゃ」
「やっぱり可愛いは大事ですよね。デッサンが出来たら一度見て下さいね」
「勿論じゃ」
二人が仲睦まじい姿は、本当癒されるな。
できる制服もきっと可愛い物が仕上がるに違いない。俺も今から見るのが楽しみだ。
「マスター、顔がニヤけておるぞ」
「お面の中を覗くなよ……それで、マリーは何で戻って来たんだ?」
「ワシがここにきたのはマジックアイテムが出来たからじゃよ!」
「え、もう出来たのか??」
「もしかして、もう温泉に使えるのですか?」
「勿論じゃよ、ワシはもうすぐに入りたくて仕方がないのじゃからな」
そう言うマリーに急かされて、俺たちは露天風呂に向かったのだった。
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