61 / 168
第三章 温泉を作る俺
61、五人の冒険者(イア視点)
しおりを挟むここで8年前バンと一緒にいた冒険者イア視点を2話。それと冒険者のその後がわかります。
ーー▼ーー▽ーー▼ーー▽ーー▼ーー
私は『暁の宴』でサポーターをやっているイア・ポルタですわ。
もうそれなりの歳だから現役で冒険に出ることはほぼ無くなってしまいましたけど、ファミリーを支える一人として今日もクイーンのサポートをしていますわよ。
「イア、今日まだ帰ってきてないチームはいるか?」
眼鏡をなおしながら私に話しかけてきたのは、このファミリーのクイーンであるエノウ。そして私の恋人でもあるのだけど……今は真面目に仕事中だから外出札を確認して、彼の問いに答える。
「えっと、後1チームだけ……セーラが率いているエース3人のチームですわね」
「そんなに難しい依頼ではなかったはずだが……」
何かあったのではないかと心配になった瞬間、元気にホームの扉を開けるミラの声が聞こえてホッとする。
「ただいまですー!!」
その声に合わせて、何故か下の階がザワザワとし始めた事に気がついた。
私とエノウは顔を見合わせると、二人で下の階まで降ることにした。
「なんの騒ぎだ?」
人集りが出来ている場所でエノウが声をあげた。
その声に、メンバー殆どがこちらを向く。
そしてエノウの問いかけに答えたのは人集りの真ん中にいるセーラだった。
「クイーン、騒いでしまってすみません」
「セーラ、私の事をクイーンと呼ぶなと言わなかったか?」
エノウはクイーンと言われるのが凄く嫌なタイプなので、よくそう呼ばれては怒っている。
元々クイーンと言う名前自体が男尊女卑を減らすため、女性でも副トップになるべきだと言う事で出来た名前のはずが、女性は二番手だと決めつけているようで嫌だと言うのだ。
しかしそれは建前で、クイーンだから女性だと思われてがっかりされるのが嫌なだけなのが本音なのを私は知っている。
「……エノウさんすみません。そういえば、そうでしたね。では報告します、今日私たちはダンジョン『カルテットリバーサイド』にて、ここに連れてきた男どもに騙されて、赤竜と遭遇しました」
「なっ、赤竜と……!?」
「ですが、そこのダンジョンで宿屋を経営している方に助けて頂いたうえに、このように報復する事もできました」
「ダンジョンで宿屋……?」
エノウは私と顔を見合わせると互いに首を傾げてしまう。
それは他のメンバーも同様のようで、同じように首を傾げていた。
「それで、その気絶しているやつらはどこのファミリーなんだ?」
「それが、わからなくて……まだ目を覚ましてくれませんので」
「なら、そいつらは私たちが引き取ろう。三人は流石に疲れただろうからな、ゆっくり休んでくれ」
「「「はい!」」」
本当に疲れているのかわからないほど元気に返事をした三人から、エノウと共に男たちを預かると私はキングのいる部屋へと向かった。
「レン、入るぞ!」
「ああ」
ノックしてその部屋を開けると、相変わらず書類仕事が苦手なのかそこらじゅうに紙が散乱して汚い。
レンと呼ばれた大男は『暁の宴』を立ち上げた本人であり、30半ばの今でもキングとして現役の冒険者をしている。
「どうした?」
「メンバーがよそのファミリーといざこざを起こした」
「なんだと。どっちが戦犯だ?」
「どうやら相手のようだが、既に報復済みでここにそいつらを連れてきている」
「ほ~、報復するなんてやるじゃん!」
そう言いながら書類を放り投げたレンは、楽しそうに男たちを見にきていた。
「レン、しっかり書類仕事進めて下さらないと困りますわよ?」
「イア、そうカリカリするなって! 俺にしては頑張ってる方だとおもうんだが?」
「それは、既に終わらせた状態で言ってくれ」
それにエノウがため息をついたのを見て、レンが笑い出す。
これが私たちのいつもの風景。
私たち三人はこのファミリーを立ち上げたときレンと一緒にいた最初のメンバーだった。
「さて、場も和んだところでコイツらを起こせるか?」
「勿論ですわ。気絶しているようですので、軽い衝撃で起きると思いますわよ」
「成る程ね。全員起きると面倒だから一人だけ起こすか」
そう言うと、レンは容赦なく一番偉そうな男を叩いた。
「いっ!!」
男はあまりの痛さに、一瞬飛び上がると周りを見回して声を上げた。
「何で俺はこんなところに!? しかもなんで縛られて……いや、それ以前に俺は赤竜のファイヤーブレスで死んだんじゃ? まさかここは天国か?」
「いや、残念。ここは地獄かもしれないな」
「地獄だって……?」
「嘘だよ。お前は生きてるし、地獄にも行ってない。ただしお前の今からの態度によって地獄になるがな」
「ひっ……」
レンはニッコリ笑うと、男に向けて剣を突きつけた。
「お前が嘘をつくたびに、その体に傷がつくことになるから気をつけてくれよ。もし手元が狂っても安心して欲しい。うちの優秀なヒーラーがすぐに回復してくれるからなー」
「ひっひぇ……」
レンは本当に人を脅すのが得意だ。それが助かる事もあるけれど困る事の方が多い。
つり目で悪人面なので、ファミリー自体が裏で何かしてるとか言われても困ってしまう。
「お前はどこのファミリーから来たんだ?」
「お、俺たちは『竜殺しの戦士団』から……」
「成る程、竜殺しか……あそこは気性の荒いやつらが多いからな。だが相手にしたのがうちみたいな大規模ギルドだったのが運の尽きだな」
「だ、大規模ギルド……お前らは、ひぃっ?」
レンは軽く剣の先を男に押し付けた。
「誰が、質問していいって言ったんだ? でも俺は親切だから教えてやる。ここは『暁の宴』だ」
「『暁の宴』だって! すまねぇ、そんな強豪ファミリーだなんて知らなくて……!!」
「ははは、おかしな事を言うんだな。強豪は手を出さないけど、それ以外なら大丈夫なんて……その腐った頭が気にくわねぇ!!」
「や、やめろ! これ以上は刺さるから!!」
本当に刺しそうな顔をしたレンに、男は絶叫のような叫び声をあげたのだった。
0
お気に入りに追加
640
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
冥界帰りの劣等冒険者 ~冥界の女王に気に入られた僕は死神の力を手に入れました。さっそくですが僕を裏切った悪い魂を刈り取りに行きます~
日之影ソラ
ファンタジー
傷ついたフクロウを助けた心優しい冒険者ウェズ。
他人の魂が見える『霊視』というスキルしか持たず、これといった才能もないウェズは、パーティー内で雑用係を務めていた。
パーティー内では落ちこぼれと罵られ、散々な扱いを受けつつも、一人では冒険者としてやっていけないことを理解し、仲間からの罵声に耐える日々を送る。
ある日、新しく発見されたダンジョンに潜った一行は、まだ誰も見つけていない隠し通路を見つける。一気に最下層までたどり着き、お宝の山に興奮する一行だったが、宝を守る強力なモンスターに襲われ絶体絶命のピンチに陥った。
仲間に脅される形で囮になったウェズは、そのまま見捨てられ、モンスターの前に置き去りにされてしまう。
死を覚悟した彼を救ったのは、冥界から来た死神の少女イルカルラだった。
彼女に連れられ冥界にやってきたウェズは、自分に死神の才能があると知り、冥王から力を授かって死神代行となる。
罪人の魂は赤い。
赤い魂は地獄へ落ちる。
自分を裏切った彼らの魂が、赤く染まる光景を思い出したウェズ。
さて、お仕事を始めようか?
赤い罪人の魂を刈り取りにいくとしよう。
小説家になろうにて先行連載中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる