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第三章 温泉を作る俺
60、足湯
しおりを挟むそれから俺たちは先に夕飯を食べると、庭園温泉へと戻ってきていた。
「どうだ、そろそろ温かくなってきたころかな?」
池の中に手を入れると少し温めだけど、だいぶ暖かくなっていた。
ここの温泉はゆっくり浸かる用ではないから、これぐらいの温度の方がいいのかもしれない。
「バンさん、どうですか?」
「少し温いけどこれで大丈夫だ。足だけ軽く入れてみていいぞー」
「やったですー!」
すでに靴を脱いでスタンバイしていたミラが嬉しそうに足をチャポンっと池に入れながら座った。
「少し温いですけど、気持ちいいです~」
「わ、私も!」
「僕も……」
「では、私めも失礼しますね」
並んで座る4人は、足湯がとても気持ちいいのだろう。凄く顔がホッコリしている。
俺はそれを見て上手く出来てよかったとため息をつきながら、そういえば5人の男たちはどうなったかと置いてきた場所を確認する。
どうやらまだ気絶しているのか、トロッコはそのままだった。
これなら帰るまで放置しても大丈夫だろうと、俺も足を湯にいれた。
「あーー、生き返るな~」
「バンさん、おじさんくさいですよ」
「もうおじさんだから、いいんだよ」
「よくないです!!」
横でセシノが小言をいっているけど、俺は足湯が気持ちよくて話をほぼ聞いてなかった。
そして小言が終わった頃、ミラが何か閃いたのか声を上げた。
「そうです! 今度私たちのファミリーの人たちを連れて、ここに泊まりに来てもいいですか?」
「ああ、いいぞ。お客さんが増えるのは俺にとってもありがたいからなー。でも、できたら来るのは露天風呂が完成してからにして欲しい」
「え、ここには露天風呂もできるのですね……。今から楽しみです。効能はどんなのにする予定なのでしょうか?」
突然興奮し始めたセーラは、かなりのお風呂好きなのかもしれない。
「えっと……上手く効果が付くかはわからないけど、疲労回復と美肌効果はあるといいかと思ってるんだけど……」
「良いかと思いますよ! もしよろしければ、ここはダンジョンですから生命力、魔力、状態異常、すべて回復するような温泉だと嬉しいのですが……流石にそこまでいくと欲張り過ぎですよね」
「確かに全部は難しいかもしれなけど需要はありそうだな。ありがとう、考えておく」
ダンジョンだからこその効果をつけると言うのはありだろう。
そう思っていたら、シガンも何か言いたそうにこちら見ていた。
「あの無理だとは思うんですけど、僕みたいなのはダンジョンで武器を手放したくないので、軽装のまま入れたりすると嬉しいです」
「成る程、温泉に服のまま入ってもすぐに乾かせるアイテムがあればいいって事か?」
「そんな便利な物があればですけど……」
「いやいや、貴重な意見ありがとう。調べておくよ」
これはマリーと相談して、と言う感じだな。
「やっぱ、お客さんの意見を聞いてみるというのは大事だよな。今後のためにご意見箱を用意してみようかな」
「それはいいですね!」
「その前にお客さんが来ないと意味ないけどなー」
今日、俺は忙しかったけど宿の客は今日も0人だったのだから早く温泉を完成させないとな……。
「私たちもとても良い宿と食堂でしたとファミリー内で宣伝させてもらいますから、安心してくださいね」
「セーラ……そんな大袈裟に言ってもらうなんて、なんか申し訳ないな」
「何言ってるんです! 私たちにとっては、凄くいい宿屋です」
「そうか、ありがとな」
まあこいつらは客として来ている訳じゃないけど、ファミリーの人たちに伝えてくれるだけでも良い宣伝にはなるだろう。
そこまで考えて、そういえば何処のファミリーに所属しているかを確認していない事に気がついた。
「聞き忘れていたけどさ、ミラたちは何処のファミリーに所属してるんだ? 温泉が出来たときに伝えにいくにしても、ファミリーがわからなかったら伝えられないからな」
「確かにいわれてみたら、まだファミリーの名前を言ってませんでしたね」
セーラさんは、そう言うと二人と顔を見合わせて頷いきあうと、改めて背筋を伸ばし俺を見た。
「私たちは冒険者ファミリー『暁の宴』から参りました」
「……え?」
今、『暁の宴』って言わなかったか?
俺は聞き間違えたのかと思いもう一度聞いていた。
「悪い、もう一度聞いてもいいか?」
「すみません、聞き取り辛かったでしょうか。では、コホン。私たちは『暁の宴』に所属している冒険者です」
やはり『暁の宴』に聞こえる。
『暁の宴』といえば、俺が8年前に所属していたファミリーの名前だ。
でも俺が知っているファミリーには、エースが3人以上もいるような強豪ファミリーではなかったはずなのだ。だから俺は全く疑ってもいなかった。
「……バンテットさん、どうしたのです?」
「いや、聞いたことのあるファミリーだったから、少し驚いただけだ。そうだ、もう良い時間だろ? あの男共も連れて帰らないと行けないし、そろそろ帰ったらどうだ?」
俺は動揺しているのを気づかれないように、3人に帰る事を進めていた。
少し突然過ぎたかもしれないのに、3人はかなり遅い時間になっていた事に焦ってすぐに帰り支度をはじめたのだった。
そして3人を見送ったあと、遠くを眺めながら俺はため息をついていた。
あの子たちを助けたのはいいが、困った事になりそうな予感がするのだ。
「バンさん、あの……」
横で一緒に見送りをしていたセシノが、申し訳なさそうに俺に話しかけて来た。
「ん? どうしたセシノ」
「先程、ファミリーネームを聞いてから態度がおかしくなった気がするのですけど……あのファミリーに何かありましたか?」
どうやら動揺するのを誤魔化したつもりだけど、セシノにはバレていたようだ。
それにこのことはセシノに誤魔化し続ける必要もないだろうと、俺は元ファミリーの話をする事にした。
「アイツら三人が所属している『暁の宴』って、俺が8年前に所属してたファミリーなんだよ」
「え? バンさんあそこのファミリーに所属していたんですか?」
「なんだ、セシノは知ってるファミリーなのか?」
「ええ。今このエリアだと四番目の勢力とされるファミリーですから」
いつのまにそんなに強豪になってしまったんだ……と、8年の月日を感じてしまい俺は再びため息をついていた。
「俺がいたときは、まだ中堅に入ったばかりのファミリーだったのにな……」
「8年経ってるのですから仕方がないですよ。でもそのファミリーの人たちがこの宿にきたとしたら、バンさんは困るってことですよね?」
「8年経ってるから、メンバーはほぼ変わってると思うけど……知り合いの何人かには絶対にバレる自信がある」
「これは困りましたね」
ミラたちは皆いい子だから、絶対に宣伝してくれたうえに沢山の仲間を連れて、来てくれるという事がわかってしまうのだ。
「そうだ! これからはバンさんが余り表に出なくてもやっていけるように、フォグさんたちにも手伝って貰いましょうよ!」
「は? フォグたちに……それは一体どうやって?」
「凄くいい案が思いついたので、それはまたのお楽しみにしておいて下さいね」
「えっとよくわからないが、そっちは頼んだ」
「はい!」
正直、どこからどう見てもモンスターであるフォグたちを働かせる方法が全くわからない。
でも、再び温泉に足をつけて伸びをするセシノを見て、少しだけ不安がなくなった俺もまた、少し温い温泉に足を入れたのだった。
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