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第三章 温泉を作る俺
52、腰が抜けた冒険者
しおりを挟む暫く走っていると、徐々に火山が見えてきた。
赤竜が暴れているのならそろそろ見えてもいいはずなんだけど、目視では良くわからない。
「それで、赤竜はどこにいたんだ?」
「それが……火山の麓で寝てたらしいんだぜ。ほら、もうアーゴが見えてきただろ?」
フォグに促されて顔を上げると、そこには確かにアーゴが元のサイズで何かを押さえている。
それは赤くて羽が後ろに生えているので、多分赤竜なんだろう。
そしてよく見ると、その足もとには冒険者たちが腰を抜かしたのか、座り込んでいた。
アイツらをどうにか動かさないといけないのか……しかもこっからはフォグと一緒に出るわけにはいかない。
だから俺一人で対応しないといけないわけだ。
俺はお面を被っている事を確認して、フォグから飛び降りた。
「じゃあ、行ってくるから。ガチでヤバそうだったらアイツらを気絶させて連れ出せよ?」
「マスター、それは任せてくれていいんだぜ? まあ、マスターには必要ないと思うけどな!」
その信頼感はありがたいが……正直言って俺も赤竜怖いんだけど!?
あんな巨体の近くを通り抜けないといけないのかと思うと、足が震えてしまう。
だけどアーゴが頑張ってくれてるのだから、俺も頑張らなくては!
そう思うと、俺は赤竜にバレないように裏から周り、アーゴに隠れるようにして冒険者のもとへとようやく辿り着いていた。
「お前ら、大丈夫か?」
そう声をかけたけど。
いやこれ、絶対大丈夫じゃないやつだ……。
「ひゃっう、私はもう……だめでしゅ…ぅうっ!」
「もう私はここで死ぬんだわ!!」
「僕、今日が命日なんですね……お父さんお母さん、さよなら……」
一人のツインテールの女の子は絶叫しながらヘッドバンキングかましてるし、もう一人のロンゲの女性は神に祈りながら涙を流している。
そして最後の剣士っぽい少年は……どう見ても今から自害しようとしてないか?
「ちよっと、待て!! 死ぬにはまだ早いから!」
「「「え?」」」
俺の叫び声に、三人ともピタリと止まりこちらを振り返った。
「そうだ、はやまるな! 俺はお前らを助けに来た、もう大丈夫だ!」
「ほ、本当に?」
「こ、この人が神だわ……」
「え……あなたのような弱そうな人がここから僕らを助けるというのですか……嘘に決まってる!」
そう言いながら少年は剣を首に近づけーーー。
「いや、死ななくて良いから! なんで首に剣を近づけるの!?」
「おっと、すみません。これは僕の癖です。弱そうって言ってすみませんでした」
「シガンはすぐに死のうとするんです、ごめんなさいです!」
「それより、あなた様は……そのお面から察するところ、まさか! お面の英雄様ですか!?」
「いやいや、違うから。ただの通りすがりの冒険者だよ。お前たちを助けて欲しいと他の冒険者にお願いされて、ここに来たんだ」
そう言ったはいいけど、コイツら相変わらず腰抜けたままで動けなさそうなんだけど。
「それは嬉しいのですー、でも私たちの状態を見てわかると思うのですけど、腰が抜けちゃって一歩も動けないのです」
「流石に三人同時には俺も持ち運べないし、どうするべきか……」
俺は相変わらず怒りが収まりそうにない赤竜と、それを押さえるアーゴを見上げた。
こっちもまだまだダメそうだ。
そして俺は思い出す。そういえば山エリアには魔法式のトロッコがそこかしこに用意されていたはずだ。
8年前突き落とされた俺が言うのだから間違いない!
「この中に魔法使いはいるのか?」
「は、はい! 私がそうでしゅっ、あぁ……かんじゃった」
「ミラは、すぐにかむので気にしないでくださいね」
「は、はあ。それは別にいいんだが、俺はトロッコをここまで持ってくるから少しだけ待ってろ!」
「わ、わかましたです!」
「助かります、頼みますね」
「それでは、どうかよろしくお願いします」
三人はお礼を言うと、少し安心したからなのかもう絶望してはしていないようだった。
また、叫びだしたらどうしようかとおもっちゃったよ……。
俺は少し茂みに入ると三人には見えない位置で、その名前を呼んだ。
「フォグ、いるか?」
「ああ、ここにいるぜ。マスター何かあったのか? まさか、もう諦めてアイツらを気絶させちまうとか?」
「いや、違うよ。ここら辺でトロッコを見なかったか?」
「トロッコ? それなら、ほらあそこ……」
フォグの前足を俺は辿っていく。
そこは、どう見てもアーゴと赤竜が居るところで……。
「赤竜の尻尾のところにあるぜ?」
「なんでそんな危険なところに……他にはないのか?」
「他は、ここの近くにはないようだぜ? あれは鉱山スポットに沢山置いてあるやつだからな」
「くそ、もうあそこにツッコんでいくしかないのか……?」
俺は赤竜の尻尾にあるトロッコを見る。
先程から何度も尻尾が当たりそうで当たらなくて、正直ヒヤヒヤしながら見守っていた。
しかし俺があそこに行くと言う事は、俺も尻尾の餌食になる可能性は高いと言う事だ。
「諦めて気絶させるか。マスターが気絶するかどっちかだぜ……」
「俺がやられるの前提で言わないでくれるか?」
「そうだな、悪かったぜ! マスターなら俺はやれるって信じてるから。何かあったら無理にでもアイツらは気絶させて俺が連れていくから、マスターはそこまで無理するんじゃねぇぜ?」
「わかった、でも! 行く前にモフモフさせてくれ!!」
「あ、ああ……それで成功率があがるならいくらでもモフモフしてくれていいぜ?」
そして俺は、フォグに顔を埋めてモフモフをチャージする。
あ~、この瞬間よ一生続け!!
そう思いながら俺はひたすらフォグの毛を撫ででいた。
よし、モフモフで心がだいぶ落ち着いてきたな……これならいけそうだ。
「フォグ、ありがとな。行ってくる!」
「マスター、頑張るんだぜー!」
俺はフォグに軽く手を振ると、赤竜の方を向く。
赤竜の尻尾に行くまでは、見つかる訳にはいかないからな。
そう気合を入れ直し、トロッコに向けて俺は走りだしたのだった。
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