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第三章 温泉を作る俺
51、閑古鳥
しおりを挟む「はぁ、今日もお客さんこないな……」
宿屋を始めて数日後、俺は今日も受付に肘をついてぼーっとしていた。
初日はマヨさんがお客さんを沢山連れて来てくれたから賑わっただけで、あれから全くと言っていいほど誰も来なくなってしまったのだ。
「マスター、今日もこのまま待ちぼうけで終わるのかのぅ?」
「本当にそろそろ何か考えた方がいいかもしれませんね……」
俺の前には暇そうなマリーと深刻そうな顔をしているセシノが立っていた。
確かにこのままでは誘き出すどころか、何もないまま終わってしまう。
「何か、か……」
そう言えば、サバンが温泉宿にしろってうるさかったっけ……?
初日に貰った手紙を思い出し、あいつの言う事も一理あるなと少し思っていた俺は、立ち上がると叫んでいた。
「よし、温泉だ!!」
「温泉、ですか……?」
「ああ、この宿の裏に温泉を作る!!」
そう勢いよく言ったのまでは良かったんだけど……どうやって作るのかが問題だ。
俺たちは店番をしてくれるマリーを残して宿の裏側に来ていた。
ダンジョンリフォームを開いた俺は、色々な設備一覧を見て悩んでしまう。
「温泉、温泉……ってそんな設備ないよなぁ~」
「他のダンジョンで温泉があるところって無いんですか?」
「俺の知る限り一つだけある。でもあれは火山がメインのダンジョンボックスだからな……湖とかが自然に温泉になったんじゃないか?」
「成る程、それなら新しい温泉施設を考えましょうか……」
そう言って二人で首を捻る事数分。
セシノがボーッと宿屋を見ながら言った。
「建物全体が温泉……」
「えっと、それってどう言う事なんだ?」
「い、いえ咄嗟に思いついただけなんですけど、神殿みたいなところが温泉だとお洒落だと思いませんか?」
「お洒落かもしれないけど、どうやってお湯を入れるんだ?」
「うーん……」
そう言うと、セシノはまた考え込んでしまった。
確かにダンジョンリフォームで建てた物であれば、劣化の心配はないから温泉を作る事は出来るだろう。
でも建物丸々となると流石に大き過ぎる気がするから、もう少し規模を小さくしてみるとか……そうだ!
「池に神殿までとは言わないが休憩所みたいなのを建てて、いっそ庭園を温泉にしてしまえばいいんじゃないか?」
「……庭園温泉?」
「庭園を見ながらゆっくり温泉も入れるという……もちろん露天風呂も別で作りたいけどな!」
「観光用に庭園温泉を、ゆっくりしたい人用に露天風呂を……それ、いいかもしれません! でも、庭園って作れるんですか?」
俺はダンジョンリフォームをもう一度見て、庭園を探した。
でもそんなものあるわけがなくて……。
「草原とか蔓の迷宮とか、使い辛そうなのはあるんだけどなぁ~。ここは地道に草木を動かしていい感じに整えて……」
俺は、適当に花や草の種類を変更して並べていく。そしてできたところで池を作り、庭園の半分ぐらいを水の中に沈めて、ついでに水の底には石を敷き詰めて置く。
「あー、でも休憩所なんてないからこれでいいかな?」
そして仕上げに、古代遺跡にありそうな石柱でできた神殿を、俺は真ん中に置いた。
ランクは落ちたけどセシノが望んだ通り神殿になったから、まあいいか……。
「でもこれは、少し大きすぎたかも?」
「ば、バンさん……もうこれ温泉とか関係なく、こういった観光名所みたいですよ。これを更に温泉に出来るんですか?」
「さあ、どうだろう?」
割と適当に進めていく俺に、セシノは顔がどんどん引き攣っていく。
でも今はやれる範囲で並べていくしかできないから、許して欲しい。
「とりあえず、普通の露天風呂みたいなのも反対側に作ってみるか? でもそっちは手作業になるから、アーゴに手伝って貰うしかないか……」
「それよりも、お湯どうするんですか?」
作業に夢中になりすぎて、お湯の事をすっかり忘れていた。
でもそんな事、セシノにバレる訳にはいかないので俺は覚えていたフリをする。
「ああ、それは大丈夫だ。フォグに相談するから!」
そして俺は全部フォグに投げたのだった。
フォグはこのダンジョン全体について詳しいから、何かいい案を出してくれるに違いない。
そう思ったとき、遠くからフォグがこちらに走ってくるのが見えた。
「マスター!!」
「あ、フォグ! ちょうど良いところに!」
「え、フォグさん?」
俺の目の前までくると、フォグは何も言わずに何故か俺を咥え真上にぶん投げた。
「え!? って、うわぁ!!」
「ちょ、ちょっとフォグさんどうしたんですか?」
「話してる暇がねぇ!」
「おぁっとと……」
気がつけば俺はフォグの背に乗っており、何故かもうすでに走り出していた。
「全く、乗って欲しいならそう言えば……って、もう行くの!?」
「走りながら説明するからよ、しっかりつかまってるんだぜ!!」
「バンさん!」
「セシノ、悪いがここは任せた! あとマリーによろしく頼む~!!」
と、言ってる間にその姿はもう見えなくなってしまった。セシノが最後まで俺の言葉を聞けていたのかは謎だけど、まあ大丈夫だろう。
「それで、どうしたんだ?」
「冒険者たちが山エリアの危険区域に侵入した」
「またか……」
あそこは鉱山スポットの最奥だから、調子に乗って奥まで進む冒険者が多い。
だがそれはいつもアーゴだけでどうにかなっていたはずだ。
「マスター、今回は鉱山スポットじゃねぇんだ!」
「は? なら何処へ……?」
「火山に入っちまったんだよ!」
「火山だって? それはまた珍しい……しかし、あそこは下手すれば本気で死ぬからな」
火山には、赤竜がいる。しかも会えたら凄くレアだ。
しかし出会ったら最後、生きて帰れる事はないと言われるほど強いらしい。
俺は会ったことないので本当なのかは知らないけどな……。
「そんな呑気に話してる場合じゃねぇって、冒険者たちは赤竜に襲われてる最中なんだぜ?」
「え!? でもそれは自業自得じゃないのか?」
「いや、今回は赤竜の寝てる場所が悪かったらしくてな……今はアーゴが赤竜を止めているから、マスターは冒険者たちを危険区域から連れ出して欲しいんだぜ!」
マリー曰く何故かダンジョンで死人が出ると、ダンジョンボックスの評価が下がるシステムらしく、なるべく助けないといけないらしい。
モンスターを殺してるのに、人間は生かさないといけないなんて不公平だよな。
そうマリーに言ったら、モンスターはランク5以下は意思もないし、どうせすぐに転生するから良いのだと言いはじめたから、そこは文化の違いなのだろう。
「仕組みはよくわからないけど、評価が下がるとここが消滅って可能性もあるみたいだから、真面目にやらないとな!」
これこそが本来のダンジョンマスターに課された使命だ。
俺はフォグに連れられて、そのまま山エリアへと入ったのだった。
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