ダンジョンで温泉宿とモフモフライフをはじめましょう!〜置き去りにされて8年後、復讐心で観光地計画が止まらない〜

猪鹿蝶

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第二章 開業準備をする俺

49、宿屋の名前

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 宿屋の名前を全く考えてなかった事をセシノに申し訳なく思いつつ、俺は考えていた。
 名前って事は、この宿の看板になるってことだよな。
 それなら、シンプルにダンジョン名を入れるか?

「ダンジョンの宿『カルテットリバーサイド』とか?」
「わかりやすいですけど、余りにもそのまま過ぎませんか?」
「やっぱりそう思うよな……」
「えっと、私なら『ポテトパラダイス』とか可愛いのが良いですね」

 確かに芋が好きだけど、芋しか出てこない食堂の名前っぽい……。
 俺が苦笑いしたのを見て、セシノが恥ずかしそうにつけ加えた。

「こ、これはただの例えですよ。実際は芋料理ばかりだしませんから!」
「わ、わかってるよ。それにしてもパラダイス、パラダイスか……」

 確かに極楽施設にしたいから、間違ってない。
 それならこれに罠の要素を加えてみるのはどうだろうか……。

「閃いた! ダンジョンの宿『トラパラ』なんてどうだ?」
「『トラパラ』って何かの略ですか?」

 俺はクラウに聞こえないよう、セシノにだけコソッと教えてやる。

「これはな『トラップパラダイス』の略だ。だけどこれを略せば『トラベルパラダイス』とも言えるからな」
「なるほど、略す事で本来の意味を隠してるんですね」

 俺はセシノから離れると、もう一度その名前を呟いた。

「ダンジョンの宿『トラパラ』どう思う?」
「とてもいいと思います。略されたことにより可愛い名前に聞こえます!」
「セシノの基準は可愛いかどうかなのか……」
「はい、それ以外は割とどうでもいいです」

 しっかりしてそうに見えて、割と適当というセシノの意外なところを見てしまった。
 そう思いながら俺は紙に宿屋の名前を記入した。

「後は模写か……」
「バンさんは模写関係のスキル待っていますか?」
「いや、俺は無いけど……その言い方だとセシノも無さそうだな」
「す、すみません……」
「謝らなくても大丈夫、俺たちには何でも出来るアイツがいるからな」

 模写というか、コピー能力をマリーは使えるので多分絵も大丈夫だろう。
 そう思っていたら、玄関ホールから叫び声が聞こえてきた。

「な、なんじゃこれはー!!!?」

 それはどう聞いてもマリーの声で、俺たちはすぐに玄関ホールへと向かったのだった。
 そこにたどり着いた俺たちは、その様子を見て唖然としてしまった。

「皆様方、そんなにも驚いた顔をしてどうかしまして?」

 そこには呑気に壁を飾り立てるマヨの姿があった。
 玄関ホールには、先程まで無かったはずの草木や謎の置物が均等に並べられて、壁の色は地味な黄緑色からお洒落な白と黒のツートンカラーへと様変わりしていた。

「あの何も無いものからどうやって……?」
「ああ、そうでした。忘れてましたけど、マヨちゃんには模様替え系のスキルがありましたね」
「模様替え……?」
「部屋にある物を組み替えて、全く違う部屋を作り出す女の子には人気の高いスキルですよ?」

 そんなにも便利なスキルがあるなら、ダンジョンリフォームにも組み込んで欲しかった。
 なんて思いつつも楽しそうに作業をするマヨから目を逸らした俺は、マリーに駆け寄ったセシノの方を見ていた。

「マリーさん、大丈夫ですか?」
「す、すまぬのじゃ。余りにも別の部屋だったものじゃから、別の世界に迷い込んだのかと思ったのじゃ」

 扉を開けてこれだけ見た目が違ったらそう思うかもしれない。
 マリーは落としてしまった荷物を拾い上げると、こちらに近づいてきた。

「シェイラからの伝言じゃ、荷物の件はオッケーだそうじゃ。それと暇な日は手伝いに来てくれると言うておったのじゃ」
「そうか、ならよかった。それとマリーには悪いけどこの宿の模写をこれに書いてくれないか!?」

 俺は忘れないうちに持っていた紙をマリーへ突き出した。マリーは呆れた顔をして、仕方がないとサラッと模写をしてくれた。
 そして順調にその日は過ぎて、二人が帰る前に俺は書類をなんとか書き終えることができたのだった。

「間違いなく書類は全部お預かりしましたよー」
「よろしく頼む、あとサバンにも感謝していると伝えてくれ。それからこれは俺からの詫びとしてクラウさんに……」

 俺は今日一日クラウさんとマヨさんの二人に助けられて、凄く助かったのだ。
 だからしっかりとお礼をしたかった。
 そう思いながら、俺はクラウさんに一本の瓶を渡した。

「えっと、これは……?」
「回復薬だよ。効果は俺のお墨付なので安心してグイッと飲んでくれ。これがあれば明日からまた仕事に復帰できると思うから」
「ええ? こんな高価そうなもの良いんですか……」
「ああ、もちろん」
「でしたら遠慮なく頂きますよ。実は回復薬を飲んでも完全に治らなかったので、とてもありがたいのですよねー」
「その薬なら絶対全回復するから大丈夫!」

 回復薬にはピンからキリまで存在するが、これはマリー特製だから上級ポーションぐらいの効果は有ると思う。
 今日一日中クラウさんを見ていたが、絶対に無理して動いている感じがしたからコレで全快して欲しい。

「それからマヨさんにはこれを」
「え、これは?」
「あ、あの……私が作ったバレッタです。作業してるときに綺麗な長い髪が少し邪魔そうに見えたので」
「とてもありがたいですわ。これなら簡単に髪をとめられますわね。それに花柄で可愛いですわ! もしよければ、今とめてもらってもいいかしら?」
「は、はい!」

 そう言って二人は仲良く髪をとめ始めた。
 そんな微笑ましい光景に、俺は一日の疲れが取れる気がする。

「そうだ、言い忘れてましたけどね。イベント中は定期的にギルドからの監査みたいなのが来たりしますから気をつけて下さい」
「監査?」
「イベント内容とかけ離れた事をしてなければ、そこまで何も言われませんよ。それに暫くはその役目をするのは僕かマヨちゃんですから」
「は、はぁ……」
「それプラス、マヨちゃんが今後も定期的にここの報告係として伺うと思いますので、よろしくお願いします」
「は?」

 そんなによく来られても困るんだけど。
 しかもこれからは忙しくなるし、人も沢山くる。憩いのモフモフタイムを作る時間を考えないといけないな……。
 そう思いながら、上手く髪留めをつけられたのかはしゃぐ二人を見ていた。
 まるで姉妹のようだし、セシノは喜ぶからいいのか?

「それでは、私たちはこれで帰りますね」
「ワタクシは開店までに何回か伺いますわよ。客室の模様替えをさせて頂かないと気になって眠れませんわ!」
「それは有難いのだけど、仕事は……?」
「休みますので安心してくださいまし!」

 いや、尚更安心できないんだけど……。
 そして、ようやく二人はダンジョンから帰って行ったのだった。
 次にマヨが来るまでに客室を完全に使用できるようにしておかなくては!
 そう思い、翌日から死ぬほど頑張る俺がいたのだった。
 そしてそれからは凄く早かった。
 マヨやシェイラが手伝いに来たり、フォグやフラフと一緒に眠れる俺の部屋を作ったり、アーゴが資材を持ってきてくれたり。
 とにかく毎日が忙しくて、俺は今まで感じたこのないやりがいを感じていた。

 そして、ついに宿屋を開業する日が来たのだった。
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