48 / 168
第二章 開業準備をする俺
48、帰ってきたタグ
しおりを挟む渡してもらったコレは、冒険者タグに間違いない。
俺はタグの名前を見て驚いた。
「これ……」
「ええ、貴方のタグですわよ! バンテットさん」
確かにタグにはバンテットと書かれているけど、その名で呼ばれるとむず痒い。
「もしかしてコレ、ギルド内に捨てられていたのか?」
「いえ、実はこちらを見てほしいんですの」
そう言ってマヨが取り出したのは、ギルド内の掲示板に貼ってある最近のニュースが書かれた紙に見える。
内容はーーー。
「えっと『お面男の祟りか!?』って何だよこの見出し!!?」
「昨日、お面男に関わった二人組があの後ギルド内で暴れまして、ギルド職員に怪我をおわせましたの。その結果、二人は罰則として一月ギルドセンターへの出入りが禁止になりましてよ?」
「は? お面男に関わった二人ってもしかして昨日の……」
「その通りです。しかもこの後、彼らは案の定冒険者ファミリーを追い出されたみたいですよ。きっとこれから大変でしょうけど、同情はできないですね。正直、アイツらの自業自得ですから。それに、もとからよく冒険者に絡んでは暴れて此方も迷惑してましたからね~」
クラウが怪我した腕をさすりながら言うのを見て、怪我を負わされた職員とはクラウの事なのではないかと思ってしまう。
しかしそこは聞かない方がいいだろうと、俺はその紙に書かれた見出しを改めて見ることにした。
「それにしても、まさかお面を被っていればなんでも関連付けをされるとは思っても見なかったな。本物のお面男に申し訳ない」
「え? 噂のお面男ってバンテットさんじゃないんですか?」
「ええ!? 違うよ!」
俺の否定に二人は顔を見合わせると、首を傾げた。
「絶対にそうだと思っておりましたのに……」
「本人がそう言うのなら、別の人なのでしょうね」
「とにかく、その罰則が出たときにこのバッチを拾ってもらったって事でいいんだよな?」
「ええ、そうですね」
「これってサバンにはバレてる?」
あの二人がどうなろうが知ったこっちゃないが、俺にとってそこが一番大事な事だ。
「ええ、そうですね。でも班長は……」
「先輩! そこは言わない約束ではありませんでして?」
「なんだ、サバンがどうしたって? もしかして俺がタグを無くした事に怒ってるとか……」
「いや、たいした事じゃ無いですから。それに班長はタグを無くしたバンテットさんに対して、別に怒ってないですから安心してください」
クラウが言いかけた話は少し気になるけど、サバンが怒っていないのなら今はとりあえず良しとしよう。
俺はホッとしたことで、そういえばここはまだ玄関前だった事を思い出した。
「ごめんごめん、中に入るの忘れてた! それに宿屋の準備が少し進んだんだ、入ってお茶でも飲みながら話そう」
「え? 良いんですか!!」
「先輩はもう少し遠慮と言うものを……」
「そんなこと気にしないでくれ、できたら宿としての感想も聞かせて欲しいかな?」
そう言いながら、扉を開けると俺たちは玄関ホールを通り抜ける。
その時点でマヨが、手を上げた。
「一つ意見を言ってもよろしくて?」
「ああ、なんでも言ってくれ」
「もう少しインテリアを置いてみてはどうでして? ここはお客さんが入ってすぐのところですのに、殺風景を通り越して不気味ですわよ?」
それは多分、ダンジョン用の洋館だから仕方がないのだと思う。
でもマヨの言う通りだろう。
このままではお客さんが来ても扉を開けた瞬間に帰ってしまうかもしれない。
「今は時間がないから、そこはおいおい……」
「それでも最低限はしてくださいまし! 私が少し触っても問題ないですこと?」
「ああ、大丈夫だ。俺はどうせセンスないから無理だし……」
「そう諦めるのはダメですわ。また時間が取れましたら、一緒にインテリアを買いに行きますわよ!」
「えぇ……と?」
俺は助けを求めてクラウを見たのに、首を振られてしまった。
「こうなったマヨちゃんは誰にも止められませんから、諦めてくださいね」
「ええ、これは決定事項ですわ。それからワタクシ色んなところが気になって仕方がないのでしてよ。なので話し合いの間に触らせていただきますわ!」
「は、はい。どうぞ……」
俺が返事をするより早く、すでにカウンター周りを物色し始めていたマヨを見てここは全て任せようと、俺はクラウさんを連れて食堂へ向かうことにした。
「ここが出来立てホヤホヤの食堂だ!」
「わぁー、ここもシンプルですね。マヨちゃんが見たら大変そう……」
「ですよねぇ……まあ、とりあえず座ってくれ」
俺たちが一番手前の机に座ったのと同時に、食堂の扉が開いた。
「お待たせしました、紅茶を持って来たんですけど……もう一人は?」
「玄関ホールで合わなかったか? マヨが飾りつけの手伝いしてくれるって言うから、もう既に取りかかってるはずだよ」
「そうだったんですね、なら私も手伝った方が……」
紅茶を置いてすぐに戻ろうとするセシノをクラウが呼び止めた。
「セシノちゃん少し待ってください、僕がここに来たもう一つの理由があるんですよ」
「もう一つの理由?」
「そうそう、昨日書いて貰ったのとは別に宣伝用のチラシを作って欲しいのです! ほらイベントがあるとポートに浮き出てるでしょ、あれを作って欲しいわけです」
それを聞いたセシノは俺の横に座ると、クラウが取り出した用紙を俺と一緒に眺めはじめた。
確かに宣伝は大事だし、それならしっかり考えないとな。
しかしセンスが皆無の俺にどうしろと!!?
ここは全部セシノに丸投げしようかな……。
「セシノはどう言うのがいいと思う?」
「そうですね……洋館をドーンとおっきく載せたその上部に宿屋の名前を入れて、後は値段やオススメポイントがあれば良いんじゃないですか?」
「成る程、宿屋の模写と名前……名前? この宿の名前って何だっけ?」
「……もしかして名前決めてなかったんですか!?」
「えっと、その存在を今の今まで忘れてた」
「ええ~~!!?」
俺の間抜けな発言に、セシノの驚いた声が部屋中に響いていた。
0
お気に入りに追加
643
あなたにおすすめの小説
美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました
葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。
前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ!
だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます!
「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」
ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?
私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー!
※約六万字で完結するので、長編というより中編です。
※他サイトにも投稿しています。
「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~
平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。
しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。
カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。
一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!
天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。
魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。
でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。
一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。
トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。
互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。
。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.
他サイトにも連載中
2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる