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第二章 開業準備をする俺

48、帰ってきたタグ

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 渡してもらったコレは、冒険者タグに間違いない。
 俺はタグの名前を見て驚いた。

「これ……」
「ええ、貴方のタグですわよ! バンテットさん」

 確かにタグにはバンテットと書かれているけど、その名で呼ばれるとむず痒い。

「もしかしてコレ、ギルド内に捨てられていたのか?」
「いえ、実はこちらを見てほしいんですの」

 そう言ってマヨが取り出したのは、ギルド内の掲示板に貼ってある最近のニュースが書かれた紙に見える。
 内容はーーー。

「えっと『お面男の祟りか!?』って何だよこの見出し!!?」
「昨日、お面男に関わった二人組があの後ギルド内で暴れまして、ギルド職員に怪我をおわせましたの。その結果、二人は罰則として一月ギルドセンターへの出入りが禁止になりましてよ?」
「は? お面男に関わった二人ってもしかして昨日の……」
「その通りです。しかもこの後、彼らは案の定冒険者ファミリーを追い出されたみたいですよ。きっとこれから大変でしょうけど、同情はできないですね。正直、アイツらの自業自得ですから。それに、もとからよく冒険者に絡んでは暴れて此方も迷惑してましたからね~」

 クラウが怪我した腕をさすりながら言うのを見て、怪我を負わされた職員とはクラウの事なのではないかと思ってしまう。
 しかしそこは聞かない方がいいだろうと、俺はその紙に書かれた見出しを改めて見ることにした。

「それにしても、まさかお面を被っていればなんでも関連付けをされるとは思っても見なかったな。本物のお面男に申し訳ない」
「え? 噂のお面男ってバンテットさんじゃないんですか?」
「ええ!? 違うよ!」

 俺の否定に二人は顔を見合わせると、首を傾げた。

「絶対にそうだと思っておりましたのに……」
「本人がそう言うのなら、別の人なのでしょうね」
「とにかく、その罰則が出たときにこのバッチを拾ってもらったって事でいいんだよな?」
「ええ、そうですね」
「これってサバンにはバレてる?」

 あの二人がどうなろうが知ったこっちゃないが、俺にとってそこが一番大事な事だ。

「ええ、そうですね。でも班長は……」
「先輩! そこは言わない約束ではありませんでして?」
「なんだ、サバンがどうしたって? もしかして俺がタグを無くした事に怒ってるとか……」
「いや、たいした事じゃ無いですから。それに班長はタグを無くしたバンテットさんに対して、別に怒ってないですから安心してください」

 クラウが言いかけた話は少し気になるけど、サバンが怒っていないのなら今はとりあえず良しとしよう。
 俺はホッとしたことで、そういえばここはまだ玄関前だった事を思い出した。

「ごめんごめん、中に入るの忘れてた! それに宿屋の準備が少し進んだんだ、入ってお茶でも飲みながら話そう」
「え? 良いんですか!!」
「先輩はもう少し遠慮と言うものを……」
「そんなこと気にしないでくれ、できたら宿としての感想も聞かせて欲しいかな?」

 そう言いながら、扉を開けると俺たちは玄関ホールを通り抜ける。
 その時点でマヨが、手を上げた。

「一つ意見を言ってもよろしくて?」
「ああ、なんでも言ってくれ」
「もう少しインテリアを置いてみてはどうでして? ここはお客さんが入ってすぐのところですのに、殺風景を通り越して不気味ですわよ?」

 それは多分、ダンジョン用の洋館だから仕方がないのだと思う。
 でもマヨの言う通りだろう。
 このままではお客さんが来ても扉を開けた瞬間に帰ってしまうかもしれない。

「今は時間がないから、そこはおいおい……」
「それでも最低限はしてくださいまし! 私が少し触っても問題ないですこと?」
「ああ、大丈夫だ。俺はどうせセンスないから無理だし……」
「そう諦めるのはダメですわ。また時間が取れましたら、一緒にインテリアを買いに行きますわよ!」
「えぇ……と?」

 俺は助けを求めてクラウを見たのに、首を振られてしまった。

「こうなったマヨちゃんは誰にも止められませんから、諦めてくださいね」
「ええ、これは決定事項ですわ。それからワタクシ色んなところが気になって仕方がないのでしてよ。なので話し合いの間に触らせていただきますわ!」
「は、はい。どうぞ……」

 俺が返事をするより早く、すでにカウンター周りを物色し始めていたマヨを見てここは全て任せようと、俺はクラウさんを連れて食堂へ向かうことにした。

「ここが出来立てホヤホヤの食堂だ!」
「わぁー、ここもシンプルですね。マヨちゃんが見たら大変そう……」
「ですよねぇ……まあ、とりあえず座ってくれ」

 俺たちが一番手前の机に座ったのと同時に、食堂の扉が開いた。

「お待たせしました、紅茶を持って来たんですけど……もう一人は?」
「玄関ホールで合わなかったか? マヨが飾りつけの手伝いしてくれるって言うから、もう既に取りかかってるはずだよ」
「そうだったんですね、なら私も手伝った方が……」

 紅茶を置いてすぐに戻ろうとするセシノをクラウが呼び止めた。

「セシノちゃん少し待ってください、僕がここに来たもう一つの理由があるんですよ」
「もう一つの理由?」
「そうそう、昨日書いて貰ったのとは別に宣伝用のチラシを作って欲しいのです! ほらイベントがあるとポートに浮き出てるでしょ、あれを作って欲しいわけです」

 それを聞いたセシノは俺の横に座ると、クラウが取り出した用紙を俺と一緒に眺めはじめた。
 確かに宣伝は大事だし、それならしっかり考えないとな。
 しかしセンスが皆無の俺にどうしろと!!?
 ここは全部セシノに丸投げしようかな……。

「セシノはどう言うのがいいと思う?」
「そうですね……洋館をドーンとおっきく載せたその上部に宿屋の名前を入れて、後は値段やオススメポイントがあれば良いんじゃないですか?」
「成る程、宿屋の模写と名前……名前? この宿の名前って何だっけ?」
「……もしかして名前決めてなかったんですか!?」
「えっと、その存在を今の今まで忘れてた」
「ええ~~!!?」

 俺の間抜けな発言に、セシノの驚いた声が部屋中に響いていた。
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