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第二章 開業準備をする俺
44、糞な冒険者
しおりを挟む何とかタグをキャッチした俺はそれを大事に抱えた。
せっかくサバンが俺のために調整してくれた大事なタグなのだ。ここで失くす訳にはいかない!
そう思いながらも俺は間抜けな声を上げて階段を転がり落ちていく。
「いっただだたっただだっ!!!」
下まで綺麗に落ちた俺は痛む体をさすりながら顔を上げる。周りを見回すとそこは依頼が張り出されている掲示板の近くで、突然落ちてきた俺を見て周りが騒めいているのがわかった。
しかも最悪な事に俺を落とした二人組が階段から笑いながら降りてくるのがみえた。
そして倒れている俺のもとまでくると、スキンヘッドの男が胸ぐらを掴んで言った。
「必死でキャッチご苦労様! だけど残念だっなぁ~!?お前がキャッチしたタグは実は偽物でした!」
「なっ!?」
「ギャハハハハハ!!!! あんなに必死になって取ったのに偽物とかさ……まじで笑えるんだけど!!?」
急いで俺は手に持ったタグを見た。
それは確かに形は似てるが、冒険者タグではなかった。
「俺のタグを返せ!!」
「やだね、返して欲しかったら俺たちの役に立って貰わないとなぁ~?」
「ウグァッ!!」
気がつけば俺は男に投げ飛ばされていた。
そして近くの掲示板にぶつかったせいで、依頼書が飛び散るのが見える。
俺は痛む体ですぐに起き上がると、男たちはニヤけながらこちらに歩いてきていた。
くそ、コイツらこんな人前で脅してくるつもりなのか……?
しかし周りの冒険者たちは、この光景を見慣れているのかガヤを飛ばす奴らしかいない。
さらには煽って来る奴までいて不愉快だった。
「またアイツら新人イビリかよ……」
「お! いいぞ、もっとやれ~!!」
「うおぉ~、ド派手にいけ!」
そんな声を耳にして、俺がコイツらの話を聞く必要性とタグを今持つ事の必要性を天秤にかけていた。
目的だった宿屋の許可を取ることは完遂したのだから、当分タグは使わないだろう……。
それに今の俺にはセシノとマリー、二人を危険な目に合わせる訳にはいかない。
体まで張ったのに情けないが、今タグの事は諦めるしかないようだ。
「わかった。そのタグは預けておく……もし捨てるような事があれば、天罰が下っても文句は言うなよ?」
というかこう言うクソな奴らには天罰が下るべきだと、俺は祈りも込めて言っただけで実際何か手を出すつもりはない。ただの負け犬の遠ぼえだ。
「あひゃひゃひゃ!!! 天罰、何言ってんだお前?」
「まさかお面被ってるからって、ヒーロー気分かよ!! まじウケるんだけど!」
そう笑う男たちを無視して、俺は階段を登って行く。正直体が痛くて歩くのもやっとな感じなのだが、そこは無理をしてでも早く立ち去る必要があった。
これ以上あの冒険者たちに関わると、何か実害が起きる予感しかしないのだ。
タグについてはサバンに申し訳ないが、今度謝っておこう……。
「バンさん、大丈夫ですか!!?」
ようやく階段を登り切った俺は、大人しく待っていてくれたセシノに支えられるように崩れそうになっていた。
「ごめん、少し大丈夫じゃないかも……? でも二人ともよく我慢してくれたな。偉いぞ~」
「頭を撫でようとするでない! 今はワシらが出て行ってもこんな子供の姿では悪化させる事しか出来ぬからのぅ……セシノを引き留めたワシの頑張りをわかって欲しいものじゃ」
「そうか、マリーがセシノを止めてくれたんだなありがとう」
一度嫌がられたのに、マリーの頭をプニプニと撫でてやる。一瞬凄く不服そうな顔をしたけどすぐに、諦めたように大人しく撫でさせてくれた。
「ふん、それよりもセシノは気が気じゃなさそうじゃな、早くここを去るのじゃよ」
「そうですよ、とにかく帰って手当しましょう!」
「でも、セシノ……元仲間を探さなくていいのか?」
「そんなことよりも、バンさんの手当の方が大事ですから!!」
そう言って俺の腕を引き摺るように進んで行くセシノに、俺は嬉しくなってしまう。
そんな俺にマリーが小声で話しかけてきた。
「マスター、ニヤニヤして気持ち悪いのじゃ……」
「いや気持ち悪いって酷いっ、てかお面の中を透視するなよ……。でも、こんなふうに俺を心配してくれる奴って今までいなかったから、凄く新鮮でさ~」
今まで人からは蔑まれる事しかなかったし、モンスターたちはこんな必死に心配してくれないから仕方がない。
「成る程のぅ……そういうものなのじゃな」
「何に納得したかしらないが、とりあえずセシノのために早く帰るか~」
「二人とも話してないで、早く歩いて下さい!」
ゆっくり歩いてる俺たちに焦れたセシノは、更に俺を引っ張る。そのせいで先程の打身がズキリと痛む。
「いたた……」
「ご、ごめんなさい。怪我してるのに私ったら……」
「これぐらい大丈夫だって、さあ早く俺たちの家に帰るぞ」
「は、はい!」
俺は痛む体を無理して動かし、どうにか『カルテットリバーサイド』の転移ポートまで辿り着いた。
セシノにカッコ悪いところは見せたくなくて頑張ったものの、転移した瞬間安心したのか俺はその場に崩れ落ちたのだった。
「バンさん! しっかりして下さい、バンさん!!」
薄れゆく意識の中で、セシノの声だけが響いていたのだった。
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