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第二章 開業準備をする俺
41、派閥
しおりを挟むギルドについた俺たちは、すぐにダンジョン塔から依頼の受付などをしている冒険者ギルドセンターに、連絡通路で入って行く。
その通路には、歴代東エリアのギルド長の似顔絵が貼られていた。
「セシノは知ってるか? この人たちは昔魔王を倒した勇者御一行の一人であるコルルリア様の先祖なんだ」
「そ、そうなんですね。これがあの有名な『勇者物語』の……」
因みに冒険者ギルドが何故ダンジョンを管理しているかといえば、その『勇者物語』に関係しているらしい。
遥か昔に勇者と魔王の戦いがあって、魔王を封印した際に世界中に生まれたダンジョンも封印され、その結果今のダンジョンボックスが生まれたとか。そしてそれを管理し始めたのが冒険者ギルドの始まりと言われている。
なにより冒険者ギルドの創始者はその勇者様だという話なのだ。そのため本部のギルド長はその勇者の子孫が受け継いでおり、東西南北のエリアには勇者と共に戦った冒険者の子孫がそれぞれのギルド長を務めている。
ようするにここ東エリアの場合は、ギルド長であるコルトの先祖が代々受け継いできたわけだ。
「俺は『勇者物語』をあんまり信じていないが、こうして代々語り継がれてるのは凄いよな」
「はい、歴史の重みを感じます!!」
「おいおい、このギルド内で『勇者物語』に文句を言うもんじゃ無いぞ、ここはその物語の信者みたいな奴らが多いんだから」
サバンに言われて、俺はハッと他の二人を見る。
「安心しろ、コイツらはそっち派じゃない」
「それはよかった」
「あの扉をこえたらセンターだから、発言には気をつけろよ!!」
「ああ、わかったよ」
そう言いながら、俺たちは扉をくぐり抜ける。
その先には、慌ただしく動き回る職員が書類を運んでいるのがよく見えた。
「相変わらずココは忙しそうだな……」
「ダンジョンと言うのは問題が多くて、これは仕方がない事なんだ」
「あと、冒険者もか……」
「それもあるがな、まあとにかく早く書類を作ってしまおうか」
そう言って俺たちはサバンの後をついて行く。
しかし、突然立ち止まったサバンの背中に頭をぶつけてしまった。
「いって~な、サバン急に止まるなよ……ってどうした?」
「お前らはそこで待っていろ」
そう言って、サバンは向かいにいる男を睨みつけた。
そこにはちょび髭を生やした、中年の漢が立っていた。
「おやおや、サバン君じゃないか。毎年暇をしている君がこんな所で何をしているのかね?」
「ウルドフさん私は仕事でダンジョンの調査に出て、その結果を伝えに戻ってきただけですが……?」
「調査ね~、本当にそれだけかい? 後ろにはどう見ても一般人が三人いるようにしかみえないが?」
凄い嫌味ったらしいその態度に、俺は黙っていられなくてつい口を挟んでしまう。
「俺は冒険者だけど?」
「おい、口を挟むなって言っただろうが……」
「おやおやよく見たら、そちらの冒険者の方はお面を被ってらっしゃいましたか? お面信者ね……はははっ!! すみませんね馬鹿らしくてつい笑ってしまいましたよ」
いや、笑われる前にお面信者ってなんだ?
「その汚らしいなりで、『勇者派』と対等しようなんて、本当『お面派』はこれだから嫌なんですよ。庶民臭くて近づきたくもありませんので、これで失礼致しますよ」
馬鹿にしたような顔をこちらに向けて頭を下げると、すぐにウルドフと呼ばれていたちょび髭男は去っていった。
その姿を見送って最初に文句を言ったのはクラウだった。
「あのちょび髭は相変わらずのウザさでしたね」
「そう言うなクラウ、あいつはあれでも俺と同じで班長なんだからな」
「でもあの方の部署は無能が多い雑務処理班じゃないですこと? 班長と比べたらいけませんわ!」
成る程、先程のウザイのは誰から見てもウザかったらしい……。
「お前ら落ち着け、アイツは適当に流しとけば勝手に満足して帰っていくんだからな、放っておけば良い! それよりもお前ら二人は調査結果の報告作成に取り掛かってくれ。俺はコイツらの書く書類の手伝いをするからな」
「わかりましたけど、班長自ら手伝うなんて……この冒険者さんは本当何者なんです?」
「ワタクシも気になりますわ!」
「まあ、それは後でな……ほら時間なくなるから早くしろ!」
二人は適当に返事をすると話し合いの続きをしながら、去っていった。
どうやら俺の正体を当て合いっこしてるようにも聞こえるが、大丈夫だろうか……。
「心配するな、アイツらには詮索しないように後で伝えておく」
「まあ、お前がそういうなら大丈夫だろう。それより聞きたいんだが、お面信者ってなんだ……?」
「知らないのか? 最近噂のお面を被って正義の鉄槌を加えるという男を英雄として崇拝してる奴らのことだが……まさかお面の男はお前のことじゃないよな? ダンジョンで最初見たときは本人かと思ったが、流石にお前のわけがないだろうと思ってな」
「何言ってんだ、俺のわけないだろ? 昨日の事件のときなんて俺はセシノと一緒に行動してたんだし、そうだよなセシノ?」
突然話しかけたからなのか、体をビクッと震わせたセシノは慌てながら頭を縦に振っていた。
「そうか、それならいい。ただお面信者過激派には気をつけるんだぞ! 奴らは最近は固まって行動しては悪人らしき人たちをボコボコにしたり、普通にお面を被ってる人にいちゃもんつけたりしてる輩がいるらしいからな」
「すごいな、過激派……」
「だからお面被ってるお前も、剥ぎ取られないようにしておけ!」
出会ったら剥ぎ取られる可能性のがあるのかと、これからお面の人に出会ったら気をつけることにしよう。
そんな事を考えている間に、俺たちは個室依頼室に着いたのだった。
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