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第二章 開業準備をする俺

39、イベント申請

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 8年間の話と言ってもやはり大した内容もなく、置いてかれてすぐの頃と最近の話ぐらいしか話せる事はなかった。

「と、言う訳で俺はアンナに復讐するためにこのダンジョンに潜伏したままな訳さ」
「……アンナか、確かにここ数年見ていないからこのエリアにいないのかもしれないな」
「そうなのか……」
「それにアンナはお前がいなくなってすぐに『暁の宴』を抜けているはずだ。ファミリー内でどんなやりとりがあったのかは知らないが、俺が知っている情報はこれぐらいだな」

 もしかして追い出される前に自分からファミリーを出たのだろうか? 『暁の宴』では仲間を見捨てる事は許されないからな……。

「いや、情報は大いに助かる。アンナがこの東エリアに居ないのなら、なおさら俺は頑張ってこのダンジョン開発を進めないといけないからな」
「それにしても、お前がダンジョンマスターね……ダンジョンマスターについては、ギルド本部でも特に機密事項に入る話になるから、その事を余り周りにするんじゃないぞ!」
「わ、わかった」
「後の事は俺が誤魔化しておくから任せろ」

 ダンジョンを外から管理しているのは確かにギルドだけど、ダンジョンマスターの事が機密事項というのはどう言う事なのだろうか……。
 もしかして、ダンジョンマスターとはギルド職員だったりとか?

「それでここからが本題だが、この館はそのダンジョン開発の一貫なのか?」
「ああ、俺はここに宿屋を建てる事にした」
「ダンジョンに宿屋!!? これはまた思い切った事を考えたな……」
「いずれは宿屋の他にも道具屋とか武器屋も準備して、このダンジョンを観光地にしていきたい。それでもしアンナが気になってこのダンジョンに来てくれれば、万々歳ってな感じで考えてるんだが……」

 何でこの男は凄い渋い顔をしてるんだ?
 確かに俺の話がおかしいのはわかっているつもりだけど……。

「よし、それなら温泉宿はどうだ!?」
「は?」
「疲労回復、美肌効果なんてあればくいつく女性は多いはずだ」
「いや、ちょっと待て渋い顔で何考えてんだよ」
「これはとても大事な事なんだ! 温泉宿ができれば、コルトを誘う事だって出来るだろ???」
「…………」

 コルトと言うのはコイツと同じギルド職員で、サバンの想い人だったはずだ。
 この必死な感じから今でもその恋は成就していないのだろう。

「コルトを誘う方法を考えてたから、あんな渋い顔をしていただけなのかよ……」
「あいつはもうギルド長になってしまって、尚更誘い辛くなったんだよ!!」
「あー、そうかギルド長の娘さんだったもんな」
「話しかけれる役職につくため、俺も頑張って班長にまでなったんだぞ!! だから俺もダンジョンに宿屋を作るの手伝うから温泉宿にしてくれ!!」

 確かにギルドへのツテがあるのと無いのとでは、この先ダンジョンで何かをするのに大いに助かるとは思う。
 だがしかし温泉宿か……ここはリップサービスで頷いて、とりあえず後回しにしよう。

「わかった。すぐには無理だがそのうち温泉宿にするから俺と手を組んでくれ」
「友よ!!!」

 俺たちはガシッと強めに握手をする。
 曖昧な答えだったのに、交渉は成立したようだ。

「それで、何か手続きは必要なのか?」
「そうだな。一度一緒にギルドに行ってイベント申請書を一応出しておくか」
「イベント申請書?」
「ああ、ダンジョン内で何か催し物をする場合は事前申請が必要になるんだ、そうじゃ無いと知らずに入った冒険者と諍いになったりするからな」

 成る程、たまにダンジョンに入る前に注意事項が出る事があったが、あれはイベント申請された物だった訳だ。

「それから、お前の本名をそのまま使う訳にはいかないし、ギルドタグはまだ持っているか?」
「ああ、一応……」

 昔からの癖で俺はいまでもタグを首からぶら下げているため、それを服から出すとサバンに見せた。

「よし、良い感じに掠れてるな。ギルドに戻ったらこれをそのまま使って上書きしてやる」
「え、そんな事できるのか?」
「ははっ、任せておけ!! そんなことは簡単にできるからな!!」
「いや、簡単にできたらダメだろ……」

 まあギルドなんて何処も嘘や不正で成り立っているのは今も変わらないのだろう。

「ではすぐにギルドに向かうが、バンは何か準備しなくてもいいのか?」
「あー、少し待っててくれ」
「ならば俺は先に、外で待ってる奴らに必要最低限の話をしておくから、準備ができたら外に来てくれ」

 そう言って玄関から出て行くサバンを見送って、俺は急いでキッチンに向かう。
 セシノたちにも出かける事を伝えておいたほうがいいだろう。せっかくご飯を作ってくれると言っていたのに申し訳ないと思いながら、扉を開ける。

「二人とも悪いが俺はギルドに行く事になったから……って、二人で何やってんだ?」

 何故かそこには、マリーに肩車されているセシノがいた。

「あ、いえ……少し上にある調味料がとれなくてですね」
「ああ、ここには脚立がなかったな。それは悪かった、今度お前らの身長に合わせて改めてキッチンも改造しような」
「あ、はい。ありがとうございます」

 そう言いながら調味料を取ったセシノは、マリーに下ろしてもらっていた。

「して、マスターよ。ギルドに行くと言うのはどう言う事じゃ?」
「どうやら、ここで宿屋をやっても良いらしくてな。その申請に言ってくる」
「あ、あのそれなら私も着いていっても良いですか?」
「え、料理はどうするんだ?」

 そこには形を整えられた丸い物がすでに見えているんだけど……。

「これはバンさんのために料理しているのに、バンさんが食べないなら意味ないですから……夕飯にしますね」
「セシノがそれでいいなら……」
「マスターだけでは心配じゃ、もちろんワシも着いて行くのじゃ」

 うーん、ギルド内で女子供を連れ歩く俺とか滅茶苦茶浮く気がする。
 でも一人よりは絶対に居てくれた方が心強いからなぁ……。

「よし、わかった。三人でギルドに行こう」

 そう言って俺たちは外で待つサバンたちの所に向かったのだった。
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