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第二章 開業準備をする俺
32、撃退
しおりを挟む俺のせいでチンピラに目をつけられてしまった二人に、小声で話しかけていた。
「俺なら大丈夫なのになんでこっちに来たんだよ?」
「何言ってるんです!? 大丈夫なわけないですよね??」
「いや、ワシはたんに売られたくないだけなのじゃ、だからコレを渡してやるのじゃよ」
動揺しているシェイラと対称的にマリーは落ち着いたまま、俺に何かを手渡した。
これは……『黒翼の誓い』の奴らを追い出すときに使ったマジックアイテム『アーティフィッシャルテレパシー』だ。
しかもコレは俺が使った物とは違い、消費されない本体の方なのだ。だからかなり高価なもので凄くもったいないけど、確かにコレを渡せば乗り切れるだろう。
「さあ、デリノさんや~? どうすんのか決めたのか!!?」
「わ、わかりました。この宿屋を売りますから、どうかこの娘たちを売るのだけはどうかやめて下さい!!」
「お願いします!!」
気がつけばセシノのご両親は二人して土下座をして頼み込んでいた。
その様子を見て帽子を被った男は高笑いを始める。
「あひゃははははは!!! 最初からそう言ってれば良いモノをなぁ、ねぇアニキ!!」
「お前、うるせぇよ!」
「す、すみません……!」
「ちっ、時間がもったいないから早く紙を準備しろ」
このままだと、話が進んでしまう!
俺は痛む体をマリーの手を借りて無理矢理起こすと、チンピラどもに話しかけた。
「おい、そこのチンピラども」
「チンピラ???」
「ああ、そうだ。さっき俺はその借用書を見ただけで返済できないなんて言ってないぞ?」
「ああ゛!! お前金持ってんのかよ!?」
俺は両手をあげて自信満々に言ってやる。
「金はない」
「ふっざけんじゃねぇぞ!!!」
男は再び俺を殴ろうと、その拳をおれに突き立てようとした。
しかし俺にはその拳は届かない。
「なっ、なんだ!??」
「ふぅ……今回は間に合った」
俺の前には『プロテクト・ゾーン』が張られていた。
本当なら指定の場所以外でスキルを使う事は許されない。だけどここは宿屋だからセーフだろう。
それに先にスキルを使って来たのは向こうだから、これは正当防衛になるはずだ。
「くっ、変なスキル使いやがったな!!?」
「まあまあ落ち着け、俺は金はないと言っただけで返せないとは言ってない」
「何馬鹿みたいな事言ってやがる!?」
「俺はこのマジックアイテムを担保に出させて貰う」
俺は先程マリーから預かった丸い結晶を掲げた。
それを見たチンピラは更に、激怒して俺の結界を更に殴っていた。
「はぁ~? マジックアイテムを担保にだと、ふざけるな!!?」
「俺はふざけてなんかいない。このマジックアイテムは家が建てられるぐらいの価値があるからな」
「う、嘘つけ!!!? 確かにマジックアイテムには高価なものはあると聞いたことがあるが、そんな高いものをお前が持ってるわけ……」
「じゃあ、鑑定書もつけておくよ。マリー」
マリーはすでに準備していたのか、俺の手にすぐに紙を渡した。
その紙には鑑定士によってかかれたアイテムの詳細がかかれていた。そしてそれには相場さえも載っている。
まあ、書いたのは鑑定の力を使えるマリーだけどな。
「なっ!? なんだこの金額……」
「ほら、本物だってわかっただろう?」
「く、くそ……しょうがねぇな。一度持ち帰って確認させてもらう。担保用の紙を準備するから待ってろ!」
チンピラは悔しそうに、帽子の男に当たり散らしながら紙を奪うと俺の前に突き出した。
「早くこれをどけろ!!」
「はいはい、じゃあ紙を拝見させてもらいますよ」
俺は結界を解くと、受け取った紙を地面に置いて内容を確認する。
期限が過ぎても借金が返済されない場合、担保に入れた物を換金する。ぐらいしか書いてないし、怪しい所も無さそうだけど……。
念のためマリーの方を見ると、頷きながらペンを渡してくれたので大丈夫という事らしい。
俺は担保に入れる物を明記して、サインを書く。
あ、俺は一応死んだ人間だけどこの名前のままで大丈夫だろうか……まあ、いいか。
「はい、できた」
「ちっ、遅すぎる。早くそれと鑑定書をよこしな!!」
「じゃあこれ、担保にどうぞ」
本当にもったいないが仕方がない。
これも、セシノが幸せになるためだ。
「間違いなく受け取った。デリノさんや、今日はコレで帰るがまた来るからな!!」
「く、くそ……覚えとけよ!」
「その去り方はおかしいだろうがよ!!」
「い、いてぇっ! す、すみませんアニキ!!」
まるで三下のようなやり取りをしながら男たちは去っていった。
室内には扉についたベルがカランコロンと響き渡る。その音が止むまで、俺たちは無言だった。
そしてその空気を割くように第一声を発したのはマリーだった。
「マスター、ワシは用事を思い出した」
「え、用事?」
「ただの野暮用じゃ、もし日が暮れるまでギルドにワシが来なかったら先に帰るのじゃ」
そう言って、マリーはスタスタと扉から出て行ってしまった。
まぁ、マリーは元からよく町を出歩いてるし何かやりたい事があったのかもしれない。
「とりあえず多分これで借金は大丈夫だと思うので、何か続報があれば教えて下さいね」
俺はいまだ唖然としてるセシノとご両親を見て優しい声色で言った。
お面の中は笑顔だけど顔は見えないから、ここは声だけで大丈夫だと安心してもらいたかった。
それでも動かないセシノたちを見て、シェイラが呆れたように言った。
「ほらほら、デリノさんたちもぼーっとしてないで下さいよ! バンさんがアイツらを追っ払ってくれたんですから喜ばないと!」
「あ、ああ……そうだな」
「お、お父さん。それよりお礼言わないと……」
「そ、そうか……!」
セシノたちはデリノさんを支えながら立ち上がると、深々とお辞儀をした。
「バン君、今回は本当に申し訳ないことをした。恩人である君を巻き込むだけではなく、大事な物まで手放させてしまうなんて……この恩は一生かけて償っていくよ」
「いやいや、大袈裟過ぎますって!!?」
「わ、私が馬車馬のように働いて少しずつでもお金を返して行きますから……」
「セシノ、それは駄目だ。それだと俺は、あのズーロウって野郎と同じになるからな。俺は強制じゃなくて、セシノの自由意思でしたい事をして欲しい。だから今回のことは気にしないでくれ」
俺の言葉にセシノは驚いて何も言えないまま固まってしまった。
「そういう訳なので、デリノさんも気にしないで下さい。悪いのは詐欺をした奴らなんですから……そういう奴らには、いつか天罰が下りますって」
「……バン君がそこまで言うなら、今回はご好意に甘えさせて貰うよ。その代わりに先程も言ったけど宿屋のいろはを少しではなく、君に全部教えてあげよう」
「はい、ありがとうございます。いやぁ、その知識の方がお金なんかでは得られない物ですから、俺にとってはあのアイテム以上に価値がありますよ!」
こうして俺はデリノさんから宿屋に必要な知識を手に入れた。
接客を余りした事のない俺からしたら、これは思った以上に大変かもしれないと、思ってしまったのだった。
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