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第二章 開業準備をする俺
31、借金取り
しおりを挟むそして言い争っていたのは、宿屋の入り口すぐのところだった。
幸い他のお客さんはいないようでよかった。
俺たちはバレないように隠れている、シェイラの横に座り込む。
「バンさんたちも来たんですね」
「まあ、心配だからな……」
そう小声で話ながら、俺は言い争っている相手を二度見した。
そこにはいかにもチンピラのように髪を逆立てている輩がいた。まあそっちは普通の取立て業者といった感じではあるが、その後ろで控えている男に見覚えがあったのだ。
「なあ、後ろにいるのってさ……」
「さっき朝市で私に絡んできた男だと思います」
「やっぱそうだよな」
帽子を被っているその男はやはりどこからどう見ても、先程シェイラに当たり屋のような事をしていたゴロツキだろう。
「セシノは取立ての人を今まで見た事はなかったのか?」
「は、はい。親に出てくるなって言われてたので一度も見たことはなくて……だから私は、直接ズーロウさんと話をしただけないんです」
「そうなのね。まあ、セシノに見せたくないのはわかるけど、デリノおじさんとセリアナおばさんは押しに弱いから心配なのよ」
確かにそうなのだろうなと、俺はまだ言い争っているセシノの両親とチンピラたちを見る。
もう少しちゃんと話を聞きたい俺はしっかり耳を傾ける。
そんな俺につられて、シェイラとセシノも同じように耳を傾けていた。
そして聞こえてきた話は、酷い詐欺だった。
「聞いていた話と違います!! 私たちはズーロウさんが全額お金を払って頂けると聞いてました!」
「ああ、ズーロウとかいう捕まった奴の事ならアイツはまだ金を払ってないぜ?」
「そ、そんな馬鹿な!?」
「俺たちは、少しだけ待って欲しいってお願いされただけだからな、はははは!!!」
「だから、早く出すもの出してもらおうか??」
「ぐ、ぐぁっ!」
そう言うと、チンピラはデリノさんの胸ぐらを掴む。
それに驚いたしセリアナさんは叫んだ。
「ま、待ってください!! お金は必ずお返しします。でも全額を今すぐには用意できません。でも少しずつお返ししますから……」
「はぁ? こんな寂れた宿屋じゃ一生かかっても返せねぇだろうがよ!」
そう言うと、チンピラはデリノさんを投げ飛ばした。
俺はシェイラが飛び出していかないかとそちらを見たのに、その姿に耐えられなかったのはセシノの方だった。
「お父さん!!!」
「まて、今出ていったら駄目だ!」
俺の静止なんて聞かず、セシノは父親のもとへと走って行く。
「お父さん、お父さん!!」
「セシノ!?」
「ぐ……セシノ、何故来てしまったんだ!?」
「だ、だって、二人が心配で……」
倒れているデリノさんの前にしゃがみ込むセシノはすでに泣いていた。
「す、すぐに……部屋に戻りなさい!」
「で、でもお父さんが……きゃっ!!」
「「セシノ!!」」
気づかないうちに、セシノの後ろにはチンピラの男がいたようで、突然セシノを軽々と持ち上げたのだ。
「あー、こんな可愛い娘さんがいるんじゃねぇか~! それならこの娘を売れば借金の半額はチャラになるんじゃねぇか??」
「なっ!? そ、それだけはやめてくれ!!」
「はぁ~? お前にそんなこと言う権利はないんだけどな?」
チンピラは、セシノを片手で持ち上げたままデリノさん頭を踏みつけた。
「ぐぁっ!!」
「あなた!」
「お父さん!!」
「お前が選べるのは二つだけだろ~? 一つ目はこの大事な愛娘を売る事、そして二つ目はこの宿屋を売る事。こんな宿屋売っても大した金にならなさそうだけどな。まあ、どうせお金がたりなければどっちも売らないと行けねぇけどな、ひゃはははは!!!」
汚い笑い声が室内に響き渡っていた。
しかし目の前の光景に俺の怒りはそろそろ限界だった。
それはシェイラも同じようで、スッと立ち上がると俺に言った。
「止められても、もう我慢できないですよ?」
「ああ、俺も同じ気持ちだから大丈夫」
そう言って、俺たちはチンピラに向けて叫んだ。
「待て!!」
「待ちなさい!!!」
そしてゆっくりと、セシノたちの方へと歩いて行く。
俺たちの後ろからマリーも様子を見ながらついて来ていた。
「あ? なんだお前ら……」
「ひっ……あ、あいつらあのときの……」
「なんだ、おめぇの知り合いか??」
「ほらアニキ、さっき話した俺の邪魔をしてきた奴らですよ!!」
どうやら、後ろの帽子を被った奴は俺たちの事を覚えていたようで、少しビビりながらこちらに指をさしていた。
「はーん? それはそれは、うちの舎弟が世話になったようで……それで、無関係のお前らが何のようだ??」
「無関係? 俺は今日からセシノの保護者になるから、無関係じゃないんだよ」
「保護者だ~? それならお前が代わりにこの借金を返済してくれんのかよ!?」
男はデリノさんから足を退けると俺の方に詰め寄り、紙を掲げた。
どうやらそれは借金金額の書かれた借用書のようで、その数字はどう見ても桁が二つぐらい多い気がする。その家が建てられそうな金額に流石の俺も驚いてしまう。
こんな金額デリノさんが借りるとは思えない。利子が高いうえに、どうせ絶対に詐欺だろう。
そうわかっていてもこの借用書がある限り、早く対処しないとどんどん借金の金額が膨れ上がっていくだけだ。
「おいおい、固まってないで早くしろよ!!」
「ぐぁっ!!」
チンピラはその紙を見て動かなくなった俺に、その紙ごと殴りつけてきたのだ。
その不意打ちを手で防ごうとしたのに、気がつけば俺は殴り飛ばされていた。
「「「バンさん!!」」」
「……っ!」
その威力は俺を壁まで弾き飛ばし、背中をぶつけた俺は床にへたり込んでしまった。
今のパンチは相当な威力があったから、絶対スキルの力だ。
そして腕に付けている『約束の腕輪』で偶然防いでなかったら骨が折れていただろう。
こう言う腕輪は簡単に外れないから防御力も高い。そこまで考えて渡してくれたのかはわからないが、マリーには感謝しないとな。
そう思ったけど、ぶつけた背中は流石に痛くて俺は呻いてしまう。
「い、いたた……」
「どうだ! アニキは俺なんかと比べたら滅茶苦茶強いんだぜ!! テメェなんて瞬殺だ!」
そんな俺を見て、帽子を被った男の方が嬉しそうにニヤニヤと煽ってくる。
多分さっきの仕返しとか思っているのだろう。
「おめぇは、黙ってろ!!」
「あ、アニキ、すみません!!」
「それにしても、よく見たら女子供が3人か……こいつは売れば相当な儲けになるんじゃねぇか?」
「なっ!?」
男の目線を追いかけると、俺のそばにシェイラとマリーが寄り添っているのに気がついた。
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