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プロローグ 過去の俺

3、死にかけました

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 気がつけば俺が置き去りにされてからもう四日が過ぎていた。
 あの日から全く誰も助けに来てくれる気配がない。それはつまり、俺はファミリーにも完全に見放されたのだろう。
 しかし俺はまだ諦めていなかった。
 何故なら結界はまだまだ持続していたのだ。
 こんなに長い事『プロテクト・ゾーン』を使った事はなかったが、今のところ魔力も不思議と大丈夫そうだった。
 でも今度は違う問題にぶち当たっていた。

「お、おなか……すいた」

 俺のお腹が、ぐるるると盛大に鳴る。
 これでも運がいい事に結界内ギリギリに川があったために水はあるものの、もうすでに食料が尽きてしまった俺はとにかくお腹が空いていた。
 既にアーマーゴーレムはそこに居なかったが、ここは森エリアが近いため周りにはウルフ系のモンスターが少しずつ増えはじめていたのだ。
 このままでは一生ここから抜け出せないなと思いながらも、今の俺はお腹が空いている事ばかり考えてしまう。
 そしてモフモフしたウルフ系のモンスターを見て、俺はポツリと呟いた。

「アイツら食べたら美味しそうだな……」

 ふらつく体で、俺は無意識にプロテクト・ゾーンをもう一つ展開する。
 そしてモンスターの後ろに結界を張り、結界同士でモンスターを挟み込む事で何匹か圧死させる事に成功したのだ。
 なによりもその事に驚いたのは俺だった。

「……モンスターが死んでる? えっと、これもしかして俺がモンスターを倒したのか!?」

 無意識だったとはいえ、このスキルにこんな使い方があるなんて思っていなかったのだ。

「もしかするとこの方法を使い続ければ、今度こそ助かるかもしれない!」

 新しい希望にそう叫んだ俺は、この方法で周りのモンスターを一掃出来ないかと試行錯誤する事になる。
 しかしどうしても圧死させられない固いモンスターがいる事に気がついた俺は、もうこの方法でモンスターを倒す事が出来なくなってしまったのだ。

「はぁ……俺はいつになったらここから抜け出せるんだ……」

 とりあえず倒すのを諦めた俺は、ため息をついていた。
 正直、一人ぼっちでのせいで独り言が酷くなっているけど、今の俺にはどうしようもない。
 そんな俺のお腹が再び盛大に鳴った。
 
「とりあえず、倒したモンスターでも焼くか……」

 俺は圧死させたモンスターを捌くと、その肉を焼いていた。
 なによりモンスターの肉はとても美味しい。
 そのため貴族たちにはそこそこの値段で売れる。
 だから余り食べた事がないのだけど、数日食べていない俺の空腹は限界を超えていたため、焼けていく様子に涎が垂れるのを抑えられなかった。
 そして焼けた肉から順番にガブリ、ガブリと豪快にかぶりつく。

「お、美味しい……! なんて美味しいんだ!!」

 このときの俺はお肉の丸焼きしか作れなかったし調味料もなかったけど、確かにその味は俺が食べた中で一番美味しくて忘れられない味となった。
 こうして俺は、なんとか生き延ることには成功した。
 しかしまだ問題は残っていたのだ。
 それは『プロテクト・ゾーン』は寝てしまうと解除されてしまう為、ずっと起きていないといけない事だった。


 そして気がつけばそろそろ10日がたっていた。
 正直、数えているこの日数があっているかも怪しいほど、俺の脳みそは正常じゃなかった。
 俺の寝不足はそろそろ限界を迎えていたのだ。
 なんでか魔力はまだ平気なのに、このままだと睡眠不足で死ぬ!!
 もう頭がおかしい俺は、やけくそになっていた。
 だから賭けにでることにしたのだ。

「ははは……そうだよな。もう何をやってもどうせ死ぬしかないんだ。それならここは一か八かしか無いだろ!!」

 このダンジョンボックス全体にプロテクト・ゾーンを展開する事で、全てのモンスターを無力化できないかと考えたのだ。
 俺の結界の中に入れば、モンスターだって魔法もスキルだって使えなくる。
 しかしこのときの俺は睡眠不足のせいで、無力化してもモンスターの物理攻撃をかわしながら逃げきる事まで、考えていなかった。
 それなのに、俺はそれを実行しようとしていたのだ。もしかすると、最大魔力で展開すればどうにか助かると思っていたのかもしれない。

「今は死ぬか生きるかの二択しかないんだ、やれる事ならなんでもやってやるさ!!!」

 魔力を練り上げると、俺はこのダンジョンボックス『カルテットリバーサイド』の大きさを確認する。
 このダンジョンボックスの大きさは、畑500個分ぐらいか? これだったら、俺の今ある魔力を全出力でカバー出来るはずだ!
 ……死にかけてる今の俺ならなんでも出来る!
 やるぞ!!! 

「プロテクト・ゾーンをカルテットリバーサイド全域に展開!! 最大出力うぅうううううぉおおおおおお!!!!!!」

 このときの俺は力の限り叫んでいた。
 叫び声とともに、体からプロテクト・ゾーンが勢いよく広がって行くのがわかる。
 それはまるで、俺がこの空間を支配するような感覚だった。
 そしてついに、俺はこのダンジョン全域にプロテクト・ゾーンを展開した。

「や、やった……成功し……あ、あれ?」

 しかし成功したのを確認した俺は、全ての力を使い切ってしまったようでその場にドサリと倒れてしまったのだ。
 はは、もう体が動かないや……。
 せっかくやり切ったはずなのに、これで助かったかもしれないのに……でも、俺の人生もここまでか……。
 そう思いながら消えゆく意識の中、俺の脳内に無機質な声が聞こえた。


『ーーダンジョンマスターを更新したました、ダンジョンマスターを更新しました。このダンジョンの新しいマスターは、バン・ダイン。あなたですーー』


 そして俺はこの日から、ダンジョンボックス『カルテットリバーサイド』のダンジョンマスターとなったのだ。
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