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第二章 開業準備をする俺
29、親御さんに挨拶
しおりを挟むそして俺は今、両親へのご挨拶を決めた事をもうすでに後悔していた。
だって、これからセシノと一緒に住む事の了承を得ないといけないんだぞ?
それってご両親に何て言ったらいいんだよ!
娘さんを俺に下さい! は何か違うし、お預かりさせて頂きます。的な感じでいいのかだろか……?
「お父さん、お母さん。こちらに座っているのが私を助けてくれたバンさんです」
もう悩む時間もなく隣に座るセシノが俺を紹介してしまった。
仕方なく、俺は目の前に座るセシノの父親と母親を見る。二人ともセシノと同じ髪色と瞳をしており、とても優しそうな印象を受けた。
それにお面を被っている俺を見ても全く不審に思わないところは、騙されやすい人たちなんだろうなと思ってしまう。
「バンです。この度は急遽ご自宅にお邪魔してしまいすみません」
「いえいえ、こちらこそ娘を助けてくださったそうで、本当にありがとうございました。私の名前はデリノです。しかしわざわざお越しくださったのに何もご用意も出来ずにすみません。そしてこちらが家内のセリアナです」
二人は深々と俺に頭を下げてくる。
正直大した事なんてしてないので、感謝されても困る。
「いえいえ何もなくて大丈夫ですから、頭を上げて下さい。ほら、セシノ紹介続けていいよ」
「あ、はい。えっとバンさんの横がマリーさんで、あとは二人とも知ってると思うけど同じファミリーだったシェイラさん」
マリーは軽く会釈をしただけだったが、対照的にシェイラは元気に机を叩くと立ち上がった。
「セリアナおばさん、デリノおじさん! 二人ともとても元気そうで良かったです!」
「シェイラちゃんも前見たときよりも元気そうでよかったわ」
「ファミリーの話を聞いて心配だったが、二人とも本当によかったな。それで今はどう言った状況なんだ?」
「それについては、私が説明しますね!」
そう言って、シェイラは改めてファミリーがその後どうなったのかを話し始めたのだった。
「気づいたらファミリーは完全に解散、私たちのように無理矢理連れてこられた子たちは大体が家に帰りました。でも数人は精神的におかしくなっちゃった子たちがいて、治るのか心配なんですよね……」
確か新聞にもそんなような事が載っていた気がするけど、まさかそんな大人数の精神がおかしくなったままだとは知らなかった。
シェイラは偶然買い物に出ていたから被害に遭わなかったようだが、もしかするとなんて思うと恐ろしいな。
「……そうか、二人とも大変だったんだな。特にセシノ、私たちのせいで辛い目に合わせてしまいすまなかった」
「ううん、お父さんは悪くないです。悪いのは全部ズーロウですから……。それに、家にいたままだったら体験できない事も沢山出来ましたし、そのおかげで私に新しい目標が出来たんです」
「目標……それはこの家では出来ないことなのかい?」
「そうなりますね……」
「まだこの家には帰って来ないのね?」
「……うん」
セシノが頷いたあと、三人そのまま沈黙してしまった。
互いに聞きたいけど聞けない、言いたいけど言えないという雰囲気が伝わってきてもどかしい。
本当はセシノからご両親に言ってもらえるのがベストだったけど、そのセシノは困った顔をして先程からチラチラと俺に助けを求めている気がする。
しょうがない、無理やりだけど俺がお願いするしか無さそうだ。
俺は咳払いをすると、セシノの両親に大袈裟に手広げて話しかける。
「それにしても、ここは素敵な宿屋ですね」
急な方向転換だけど、仕方がない。
ここまで来たら、俺なりの方法でやってやる。
「ここは趣があって落ち着いた雰囲気でゆっくり時間を過ごせそうですし、泊まった人はとても癒されて帰るのでしょうね。もしかして何代も宿屋をされているのですか?」
「そんな風に言っていただけると私たちも嬉しいです。実は私で3代目なんですが、昔に比べて宿屋で泊まる人が減りまして……恥ずかしながら経営が上手くいってなくてですね、私の代で店じまいかなと思っているところなんですよ」
大昔と違い冒険者はファミリーを作るようになった。
それぞれがアジトを持つようになった為に、宿屋に泊まる人が減ったのが原因だろう。
「いやいや、まだ宿屋は必要だと俺は思いますよ。それに俺も丁度宿屋を開こうと思っていましてね」
「ほう、宿屋を……それは一体どちらに?」
よし、食いついた。
ここで勝負を仕掛けるぞ!
「実は、ダンジョンボックス内に宿屋を建てようと考えてまして、それをセシノが手伝いたいと言ってくれたものですから、宜しければセシノさんを少しの間でもいいのでお借りできませんでしょうか?」
間に口を挟めないぐらい早口で言ったけど、これで大丈夫だろうか?
頭を下げている俺のもとには、誰からの声も聞こえてこない。その事を不思議に思い顔を上げると、ご両親とシェイラがポカンと口を空けてこちらを見ていた。
「「「ええぇええ!!!!!」」」
そして数秒遅れて、驚きの声を発したのだった。
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