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第二章 開業準備をする俺
28、お面の使者様の噂
しおりを挟むどうやら俺はあの男を逃してしまったようだ。
「しまった、手を離しちゃったのは失敗だったな。あのまま詐欺野郎として兵に突き出そうと思ってたのに」
「えっと、よくわからないけど助けくださってありがとうございます」
唖然としていたシェイラは改めて俺を見ると、深々と頭を下げた。
まあ、今回は礼を言われても問題はないだろう。
正直さっきのだって、よく避けられたもんだと俺を褒めたいところなのだ。
でも一向に頭を上げないシェイラに、俺は何か言うべきかと口を開きかけてセシノに先をこされてしまった。
「し、シェイラさん!!」
勢いよく抱きついたセシノに驚いて頭を上げたシェイラは、その顔を見てさらに目を丸くさせていた。
「……え…嘘でしょ。せ、セシノ!?」
「はい、そうですよ! シェイラさんが無事でよかったです!」
「それはこっちの台詞だわ! セシノったら今まで一体何処にいたの? 体は大丈夫? ご飯とかもちゃんと食べていたの?」
「だ、大丈夫です。実はあの後ずっとこちらにいる人に助けて頂いていたんです」
そう言ってセシノがこっちを見ると、つられるようにシェイラも俺を見た。
その姿はオドオドしていた時とは違って、とても元気いっぱいで……きっとこれがシェイラの本当の姿なのだろう。
「そうだったのね……お面してて少し怪しい気がするけど、でも私も助けてもらったのだから悪い人では無いのよね?」
「ええ、バンさんは本当にいい人なんですよ!!」
そんな風に褒められると、なんかすごい事をしたみたいで恥ずかしいからやめて頂きたい。
「でも私、『お面の使者様』の真似しているやつって信じていないのよ」
え、シェイラは今なんと?
俺には『お面の使者様』とかいう面白い言葉が聞こえてきたのだけど……。
「あ、あのシェイラ『お面の使者様』ってなんですか? 私暫く隠れて生活していたから詳しく無くて、ごめんなさい」
俺も凄く詳しく聞きたいです。
「なるほど、それで疑問なくこんなお面の男と一緒にいるのね……。でもわかったわ、教えてあげる。『お面の使者様』って言うのは、あの日私たちを救ってくれた神からの使者の事よ!」
「「神からの使者?」」
「ええ、ズーロウとかいうクソ男に天罰を与えるキッカケを作って下さったお方で、本当に神々しかったんだもの!」
「へぇー、そんな凄い人がいたんだなー」
「え、それって……」
セシノが何か言いたそうにしていたが、俺は普通に感動していた。
まさかそんな凄い人がいたなんて……もしかしてダンジョンから逃げ帰った後に、ズーロウへと天罰を与えてくれたのだろうか。
「その話を新聞社にしたのは私なの。でも今ではそれが有名になって、その人に肖りたいって言う人たち皆がお面を被っているそうなのよ。ほら見て、そこらじゅうで色んなお面を被ってる人がいるわ」
そう言われれば、確かにお面を被ってる人たちがチラホラ……。
もしかして、俺が不審人物認定されなかったのはこのお面効果!?
どうやら俺も知らないうちに肖っていたようだ。
「えっと、バンさん……」
「セシノよ、言うではない。ときには知らない方がいい事もあるのじゃよ」
「何二人でコソコソ喋ってるんだ?」
「な、何でもありません! それより、シェイラさんは配達の途中だったんですよね。これ以上邪魔したら……」
「大丈夫よ、これはすぐ目の前にあるお店だから!」
そういうとシェイラは、すぐそこでずっと待っていてくれたのだろう厳つい男の店主さんに、その箱を渡した。
「はい。おじさん、いつもありがとうございますね。ぶつけられたけど、うちの箱はそんじょそこらの打撃じゃ傷もつきませんから安心して下さい」
「ああ、いつもありがとな。だがシェイラちゃんはこの市だとすぐに絡まれるから、担当を変わって貰った方がいいんじゃないか?」
厳つい割に、凄い優しいおじさんだったようだ。
そう思いながら、俺はおじさんのお店が何屋さんなのか確認する。えっと、調味料の専門店?
そのうちお世話になりそうな気がするところだな。
「大丈夫ですよ。私これでも打たれ強いですから、それに前の環境に比べたらこれでも全然大した事ないです!」
前の環境……シェイラのその言葉におれは『黒翼の誓い』が解散して本当によかったと、うんうん一人で頷いてしまう。
「そうか、それなら何かあれば俺たちここの朝市に出ている奴らに相談するんだぞ?」
「ありがとうございます。それではまた、うちの運送ギルドをご贔屓にお願いしま~す!」
シェイラはお辞儀をするとすぐに此方に戻って来て、セシノに詰め寄った。
「それでセシノは今から何処に向かうの?」
「えっと、今からは私の家に向かう予定です」
「そっかー。それならさ、私も一緒に着いてってもいいかな? 私も久しぶりにおじさんとおばさんに挨拶したいなって、それに『黒翼の誓い』について話すなら私がいた方が説明しやすいと思うのよね」
確かに、経緯を話すにはシェイラがいた方がわかりやすいが、セシノがダンジョンで暮らすと言う話をこの子にしても良いものなのだろうか?
そう思いセシノを見ると、少し不安そうにコクリと頷いた。それはセシノは話しても別に気にしないと言う事のようだ。
だから俺も、話しを聞かれても大丈夫だと頷き返してやる。
「わかりました。それならシェイラさんも一緒に行きましょう」
「よし、そうと決まればセシノの家に出発進行ーー!」
そう言いながらセシノの手を握りしめたシェイラは、俺を見てフンっと笑ったのだった。
どうやら助けただけでは、まだ完全に信用されてないみたいだな。
「なかなか愉快な小娘2号じゃのう……」
「このまま何もなければいいんだけどな」
ため息をついた俺は、少し先を行くセシノとシェイラに置いてかれないように、小走りで二人を追いかけたのだった。
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