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第二章 開業準備をする俺
27、人助け
しおりを挟むその記事を見ながら俺たちは顔を顰めていた。
「ズーロウって『黒翼の誓い』のキングだったよな?」
「は、はいそうです。罪状は『ギルド内での盗難、恐喝、詐欺、人身売買』など……」
「人身売買だって!? もしかしてあのとき捕まっていたら、セシノも同じような事になる可能性があったって事か……」
「そんな、じゃあ今までいなくなった人たちは……」
青ざめた顔で自分の事よりも元仲間の心配をするセシノを見て、きっとその中に仲の良かった子がいたのだろうと俺は気がついてしまった。
だから俺はセシノに言う。
「いつか一緒に探し出そう!」
「え?」
「俺の事情はセシノに手伝って貰うんだ。それならセシノの事も俺は手伝うよ。そうは言っても売られた先なんて、貴族か豪商のところだろうからな……簡単に見つからないだろうけどさ」
「いえ、その気持ちだけでも嬉しいですから……一緒に頑張りましょう!」
「勿論、ワシもいることを忘れないで欲しいのじゃ」
俺たちは頷くと元『黒翼の誓い』のアジトを後にした。その新聞を見てこれ以上の情報を得る必要は無いと判断したからだ。
正直、あのクソ野郎がどうなろうが俺にはどうでもいいのだが、直接害を与えられていたセシノにとってはそうでもないだろう。
「ズーロウが逮捕されてホッとしてる?」
「ええ、そうなんですけど。でも何故か嫌な予感がして……」
「うーん、嫌な予感か。それなら早めにセシノの家に向かった方がいいか?」
「いえ、その前に朝市に行きましょう。先に家に行くと、朝市が終わっちゃいますから」
「それなら、早く行くことにするのじゃ!」
マリーに促されて、俺たちはすぐに商店街の方へと歩き出していた。
そして辿り着いた商店街は早朝だというのに人が沢山いて、いろんなところから叩き売りの声や賑やかな声が飛び交っている。
「ちょっと混んでおるから、逸れないように3人で手を繋ぐのじゃ!」
「ああ、その方がいいな。ほれ、セシノも……」
「えっ……?」
俺はマリーが差し出した手を取ると、今度はセシノにも手を差し伸べる。
その顔は少し困っていたが、ゆっくりと差し出した手を俺はしっかりと握りしめた。
でもなんかこれ……側から見たら、二人の少女を誘拐した怪しいおっさんに間違えられそうだ。
そう思っていたけど実際二人に引きずられている俺は、どちらかと言えば犬の散歩をしてる飼い主かもしれない。
そう思いながら二人を見ると、楽しそうに次々と食料を買っていた。その姿に、まあいいかと俺は再び引きずられていったのだった。
そしてようやく買い物が終わった頃、近くで言い合いをしている声が聞こえてきて、ついそっちを見てしまった。
「ちょ、ちょっと運んでる荷物にワザとぶつかってきませんでしたか??」
「あぁ!? ぶつかってきたのはそっちだろ? そんな重たそうな荷物持ってぶつかって来たから、怪我しちまったじゃねぇか!!」
「なっ!? 嘘よ、だってわざと進行方向を妨げるようにって……」
どうやら、ボーイッシュな女の子が荷物を運んでいたところ、帽子をかぶった男にぶつかってしまったようだ。
確かに男の方は手に怪我をしているが……あれは?
俺はマリーの方を向くと、マリーは俺に向けてコクくんと頷いた。どうやら思った通りのようだ。
しかし俺があの子を助けて目立っても困る。
ここはどうするかと悩んでいたらセシノがポツリと呟いたのだ。
「シェイラさん……」
「え? あれがシェイラ!?」
「はい、格好も髪の長さも違いますがあれは間違いなくシェイラさんです。バンさん、どうにかシェイラさんを助けられませんか?」
確かに前はセミロングだったはずの髪の毛は、仕事の邪魔だからなのかショートカットにバッサリと切られていた。
そして服装も荷物を運びやすい格好のため、側から見たら男の子にみえなくもない。
しかしここでセシノに助けて欲しいと言われたら、今の俺はやるしかない。
町ではスキルを使えば大問題になる。
だから今日の俺は生身で勝負だ!
「よ、よし。セシノに頼まれたら頑張るしかないな。でもカッコ悪いとこしか見せられないだろうから、絶対に手出しはするなよ?」
「……ば、バンさん。む、無理はしないでください」
「さあ、どうだろうな?」
後ろでセシノの期待を背負いながら、俺はいまだに言い合う二人のもとへと歩き出した。
「おい、お前ら」
「な、なんだてめぇ……って、お前もお面野郎かよ?」
お前も?
少し引っ掛かるところがあったけど、俺は気にせずにその男の腕を掴む。
「な、なんだよ! 俺は怪我人だぞ?」
「さっきから見てたんだけど、その傷さぁ……」
俺は持って来ていた飲料水をその腕にぶち撒ける。
「なっ!? 何しやがる!!!」
「いやいやどう見ても、本物に見えなくてさ?」
俺はその濡れた腕を再び持ち上げると、よく見えるように高く掲げる。
目の前には俺の様子に混乱していたシェイラが、驚きの余り声を上げていた。
「え、怪我がない??」
「くそっ、もうすぐだったのによ!! 邪魔をしやがって!!」
男は反対の腕を振り回し、俺を殴ろうとする。
俺は男の手を離すと二、三歩後ろに下がりその攻撃を回避していた。
よし、上手く避けられた! なんて思っている間に、男は俺たちから距離をとると叫んだ。
「手を離してくれてありがとよ! それじゃあな!!」
そう言うよりも早く、男は駆け出していた。
その逃げ足は無駄に早くて、男が視界から居なくなるのはすぐだった。
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