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第二章 開業準備をする俺

26、久しぶりに外へ

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 俺は今、自分の家の前にいる3体のモンスターたちに、別れの言葉を述べていた。

「じゃあ、行ってくる……お前たちの事は忘れないからな」
「……マスター」

 目の前にいるフォグの目には涙が見えた気がした。モンスターだから涙なんて多分出てないと思うけど、俺にはそう見えたのだ。

「いや大袈裟すぎるじゃろ!! 別れって言っても、ただ町に行くだけじゃろが……」
「何を言うんだ、マリーは少し黙っていてくれ。だって今の俺はそれどころじゃないんだぞ!!」

 そう、今の俺の精神状態は普通じゃなかった。
 いやだって、8年もダンジョンで引きこもりしてたんだぞ?
 それなのにいきなり町なんかにでたら、発展し過ぎて驚きの余り倒れて死ぬかもしれない。

「ば、バンさん多分そんなに変わってないですから、お、落ち着いて下さい」
「いや、二人とも落ち着くのじゃ。マスターがこんな状態だから、セシノにまで伝染してしておるのじゃ……これでは先行き不安じゃな……」
「でも、ようやくマスターが外に出てくれたんだ。俺は嬉しくて涙が出るかと思ったぜ! いや、出る訳ないけどな」

 ガハハと笑うフォグに、マリーはため息をつくと俺たちを改めてみた。

「とりあえず今日のマスターは、セシノの後ろをついて行く事だけを考えて行動するのじゃ、良いな?」
「ああ、わかった! それに俺にはこのお面があるからな」

 そう言って、俺は狼のお面を被る。

「え、バンさんそれ被って町に出るのですか……? 凄く目立ちそうですけど」
「もし、俺が知り合いに出会ったら困るだろ? これでも俺は死んだはず人間なんだからな」

 正直このお面がないと俺は他の人と話す事も出来ない気がする。
 セシノのときは必死だったから、そこまで気にならなかったけど……。

「それって死んだままじゃないと駄目な理由があるのですか?」
「勿論ある。もしアイツに俺が生きてるってバレたら、積極的に避けられるだろ? だから今のままの方が騙し打ちがしやすくて良いと思ったんだけど……」
「8年間来なかった訳ですね……。少し恥ずかしいですけど、それなら仕方ありませんね。一応顔に凄い傷がある事にしておきましょう」
「なる程、それは良い案だ」

 それにお面を被ったおかげで、俺の精神もだいぶ安定してきた。
 これなら町にでても大丈夫だろう。

「よし、じゃあ今度こそ。行ってくるから、フォグ、アーゴ、フラフ。ダンジョンは任せたぞ!」
「おう!」「うん!」「リョウカイ」

 3体の返事に俺は頷くと、既に狼に変身しているマリーの背に俺とセシノは乗ったのだった。
 転移ゲートまでの距離だったけど、マリーの背はプヨプヨで乗り心地最高だったので、俺の顔は溶けていたに違いない。
 そして辿り着いた転移ゲートの前では、人型に戻ったマリーが人差し指を立ていた。

「今からこの転移ゲートを潜るのじゃが、このゲート自体がギルドの物じゃ。だから多分このゲートには出入りの人数が記憶されておる。じゃからワシとマスターのカウントは本来はおかしくなる筈なのじゃ。まぁ、一人ぐらいなら怪しまれぬが二人だとどう認識されるかわからぬ。だから一応それだけは覚えておくのじゃぞ」
「それは、何かあったときにまた考えよう」

 ギルドも、もしモンスターが抜け出していたら困るから、カウントは付けているだろうしな。
 でも二人ぐらいなら大丈夫じゃないだろうか?

「そうじゃが……それとここを出たらすぐにギルド内のダンジョン塔に出るが、この3人だけでダンジョンから出てきたら流石に変じゃから、まるで逃げ帰った冒険者のように素早くギルドから出るのじゃぞ!」
「お、おう、」
「わ、わかりしました!」

 俺たちは魔法陣から青く光る輪がでている転移ゲートの上に乗る。
 一瞬の浮遊間とともに、すぐに薄暗い部屋にたどり着いた事に気がつく。久しぶりすぎて覚えてないが、多分ここはギルドなのだろう。
 しかし周りを良く見る暇もなく、マリーが小声で叫んだ。

「すぐに走るのじゃ!」

 とにかく俺たちは急いで走り出した。
 時間はまだ早朝だけどもう既にダンジョンに向かう冒険者達、数組とすれ違ったが確認する事も出来ない。
 そしてギルドの外に出た俺は、日の眩しさに目を細めて立ちすくんでいた。

「どうじゃマスター、久しぶりにお日様のもとに出た気分は……?」
「……凄く眩しかったんだなって、何もかも懐かしい気がしたよ」

 それは過去の全ての事を洗い流してしまいそうな程、綺麗に見えた。
 ああ、そうか。俺が頑なに外に出たくなかった理由がわかった。
 この世界に戻ったら、俺の復讐心が消えて無くなりそうだったからだ。

「バンさん、何言ってるんですか。懐かしんでる暇はないですよ? 今日はやる事が沢山あるんですから」
「そうじゃな、立ち止まる時間はないのじゃ!」

 でも、俺には一緒に考えてくれる仲間がいる。
 だから俺の復讐心は燃え尽きるにはまだ早いようだ。

「二人の言う通りだな、とにかく予定通り『黒翼の誓い』のアジトに行ってみるか?」
「直に入るわけには行きませんが、コッソリ見ましょう。少し歩きますが、ついてきて下さい」

 そう言ってセシノに連れられて辿り着いた建物は、三階建ての少し大きめな家だった。

「変ですね、もしかして誰もいない?」
「というか、入り口に入れないようにロープが引かれてないか?」
「ほ、本当ですね? ファミリーに一体なにがあったのでしょうか……」
「いや、まて二人ともコレを見るのじゃ!」

 マリーが指し示す壁には新聞が貼ってあった。
 俺とセシノはそれを見て驚いてしまう。
 そこには『黒翼の誓い』のズーロウという男が、先日逮捕された事が書かれていたのだ。
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