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第一章 宿屋をやると決意する俺
24、約束
しおりを挟む俺はセシノの言葉に暫く固まっていた。
セシノはそんな俺を見て早く食べようと急かしてくる。
「お弁当なので冷めるとかはないですけど、お腹空いてますよね? 話は後にして早く食べましょう」
「いやいや、ちょっと待ってくれ」
「え、何か駄目な物ありましたか?」
「そうじゃなくて……今、セシノは『これからも一緒に食べていけます』って言わなかったか?」
理解するまで数秒間、俺と見つめ合ったセシノは突然顔を真っ赤にすると顔を背けて、視線を彷徨わせ言い訳をはじめようとした。
「ええーっと、それはですね……まだ食べる機会があると言うか、その……」
「小娘よ。言ってしまった物は仕方がないのじゃから、もう諦めて本当の事を話してやる方が良いのじゃ」
「うぅ……そうですよね。マリーさんの言う通りです」
どうやらマリーは話を聞いてるようで、落ち込んでしまったセシノの背中を撫でている。
そしてセシノは意を決したのか、俺の瞳を強く見つめてきたのだ。
「バンさんにお願いがあるんです」
「お願い……?」
「バンさんに恩返しするために、私もこのダンジョンに残りたいんです!」
「へ?」
セシノは今、ここに残りたいと言わなかっただろうか???
「聞き間違えたかもしれないから、もう一度いいだろうか?」
「あ、はい。私は恩返しするためにバンさんと一緒に暮らしたいんです」
「嘘だろ!?」
「私は本気の本気です! バンさんは私を救ってくださった方なんですよ? だから私も貴方を手伝いたいんです。私をここに置いてもらえませんか?」
これは困った。
セシノがどんな未来を選択しても応援するつもりだったのに、こんなのは反則だろ……。
だけどこんなか弱そうな女の子を、こんなダンジョンで暮らす事の許可は簡単には出せない。
「セシノがここに残るのを俺は認められない」
「私、迷惑かけないようになるべく外出はしませんから、家政婦とかでもいいです!」
「そんなのは尚更認めないぞ! 俺はセシノにそんな事をして欲しいと思ってないからな」
「でも、どうしてもバンさんのお役に立ちたくて……私、一生懸命バンさんの待ち人がここに来てくれる方法を考えたんですよ! でもここに残れないならそれも無駄でしたね……」
待ち人が来る方法……?
凄く内容が気になるけど、この雰囲気だとセシノがここに残るのを許可しない限り教えてくれなさそうだ。でも、もしかしたらそれはセシノの嘘かもしれないし……。
だけど正直8年もこのダンジョンで待っていた俺はもう行き詰まっていた。
それは藁をも掴む気持ちでーーー。
「ま、待ってくれ!! その方法だけ教えてくれたりは……?」
「バンさん、これは取り引きなんですよ? 私をここに置いて下さらないのでしたら、この話は無かった事にして下さい」
俺はセシノがそんな事を言うとは思えなくて、ついマリーを見るとその顔はニヤニヤと笑っていた。
間違いなくこれはマリーの差し金だ!
しかしマリーに散々言い負かされている俺には、勝ち目なんてある訳がない。
ならば、少しだけ抵抗させて貰うぞ。
「わかった、俺はその話をどうしても聞きたい。だからセシノがここに残る事の許可をしよう」
「ほ、本当ですか!?」
「ただし!! セシノのご両親が許可を出せばの話だからな!」
「それなら多分大丈夫だと……」
「いや、そう言われても俺は信用できないから……セシノのご両親に直接話に行く!」
「え、それって……」
俺の決断にセシノは目を見開くと、すぐにマリーと顔を見合わせる。
そして盛大に喜びはじめたのだ。
「マリーさん、やりました! 言質取れましたよ」
「セシノ、見事じゃ! よくやった!!」
「……えっと、何が?」
「マスターはセシノの両親に会いに行くのじゃろ? それにはこのダンジョンから出て町に行かねばならぬからのう」
「ぬああぁあっっっ!!!?」
そうかこの二人の本当の目的は、俺をこのダンジョンの外に連れ出す事だったのか!?
まさか俺の悪あがきさえも計算されていたなんて……マリーに口で勝てる日は一生来なさそうだ。
「この牧場はどうせ今日で元通りじゃからな、明日セシノのご両親に挨拶に行くが良い」
「私もキングがあの後どうなったとか、その影響で親がまた借金取りに脅されてないかとか、気になっているので早めに一度帰りたいんです」
「あー、そうだよな……。わかった、俺も腹を決めるよ。明日このダンジョンの外に出る」
本当は凄く嫌だし、知り合いにもし出会ってしまったら俺は全力で逃げる自信がある。
「なんだか心配じゃから、ワシもついて行くので安心するが良いのじゃ」
「それは心強いけど……そうだ! 俺が外に出るのを決めたんだから、さっき言ってたセシノの策とやらを先に聞いても許されるだろ?」
本当ならセシノが両親に許可を得てからじゃないと聞くのは駄目な気がするが、俺だって凄く勇気を出して外に出るのだ。
その見返りぐらい求めたい……。
「マスターは本当ダメな大人じゃのう、だからこそ可愛いというかなんというか……」
「いやいやお前は俺の親かよ!? でもこのダンジョンでの親と言う点では間違ってないのか……?」
そんなアホみたいなやりとりをしていたら、突然セシノがクスクスと笑い始めたのだ。
「せ、セシノ……?」
「ご、ごめんなさい……二人が面白くて。でも盛大に笑っちゃったお礼に私の提案聞いて下さいますか?」
「これセシノ、マスターを甘やかしてはいかんのじゃ」
「うーん。それなら、先程の約束を絶対に違えないと言ってください。それが私の最大限の譲歩です」
「わかった。俺は必ずセシノのご両親に挨拶に行くし、本当に許可が得られたならこのダンジョンで一緒に暮らす事を認めてやる」
俺はこの約束を守るために、マリーに手を差し出す。するとマリーは俺の手首に少しゴツい腕輪をつけた。
セシノがそれを見て不思議そうに聞いてくる。
「あの、それは?」
「これは『約束の腕輪』だよ。もし約束を違えると不幸が降り注ぐと言われてる」
「そ、そんな事までして約束したい訳じゃ!!?」
「大丈夫大丈夫! 約束が守られればすぐに外れるからさ。だからセシノの話を早く聞かせてくれないか?」
心配そうに腕輪を見つめるセシノは、首を振ると頭を切り替えたのか急に立ち上がった。
「バカにされるかもしれませんが、真面目に考えたので聞いてください!」
「そうやって真面目に考えてくれた事を、誰もバカになんてしないさ」
そう言って俺も背筋を伸ばして、セシノに向き合う。
一度深呼吸したセシノを見て、俺もつい息を飲んでしまう。
そしてセシノは言ったのだ。
「このダンジョンに、宿屋を開きましょう!!」
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