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第一章 宿屋をやると決意する俺
18、優しいあなた(セシノ視点)
しおりを挟むここからセシノ視点が2話入ります。
バンが結界を張って動けない中、セシノちゃんは何を考えていたのか?
ーー▼ーー▽ーー▼ーー▽ーー▼ーー
目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋ではなかった。
おかしい……まだここに来て二日目なのに、私はもう数回ここで寝ているきがする。
そう思い出していると、こちらを見ているフォグさんと目が合ってしまった。
「セシノの嬢ちゃん、目が覚めたか?」
「フォグさん……えっと私は、モンスター牧場に連れて行って貰って、それから……?」
「嬢ちゃんは沢山のモンスターを見て、気を失ったんだぜ?」
そうだ、私ったら余りにも色とりどりのモンスターがいる事に驚いちゃって……。
「また顔色が悪くなったぞ!? そのときの事は思い出さない方がいいんじゃねぇか?」
「そ、そうですね……」
私ったらバカ、せっかくバンさんに誘って貰ったのに、最後まで迷惑かけちゃうなんて……。
「それと、これも伝えておかないとな。マスターは今、モンスター牧場で起きた問題を解決するために2、3日はあそこから動けないぜ」
「……え? ま、まさかそれは私のせいですか?」
「い、いやいや! 今回のはマスター自身のせいでセシノは悪くねぇぜ?」
嘘が本当に下手くそなのか顔を逸らしながら言うフォグさんを見て、本当に迷惑をかけてしまったと落ち込んでしまう。
俯いてしまった私の頭に柔らかい肉球が触れた。
「マスターがせっかくゆっくり考える時間をくれたんだ。だから嬢ちゃんは、その間に今後どうするかゆっくり考えておくんだぜ?」
「わ、わかりました……」
「あと、ダンジョンを散策するときは絶対に一人で外に行ったらダメだ。俺とマリーは毎日様子を見に行くからよ、何か困った事があったら言ってくれ。それと今日のご飯は机の上に準備してあった気がするし、畑は家の裏にあるから好きに採ってご飯はちゃんと食べろよな!」
「は、はい」
そう言って家を出て行くフォグさんを私は見送ると、今の時間を確認するため窓から外を見た。
もう夕方なのかダンジョン内の明るさはだいぶ暗くなっていた。
いつも不思議に思っているのだけど、ダンジョンボックスには、太陽なんて存在しない。それなのに時間に合わせてちゃんと明るさが変わるなんて、一体どう言う仕組みなのだろう……。
それに、太陽もないこんなところで8年も過ごしているなんて、バンさんは本当に幸せなのだろうか……。
「はぁ、そんな事私が考えても仕方がないよね」
なんてため息をついて、私はとりあえずご飯を食べようとキッチンへと向かったのだった。
そこにはフォグさんが言った通り、今日の夜ご飯の下準備が終わっていた。
そのメニューはまた芋だらけで……。
「バンさん、芋ばかりで本当に大丈夫なのかな?」
って、何をしてもバンさんの心配をしちゃうわ。
私はもっと今後の事を考えないといけないのに、でも私がしたい事って何なのだろう。
親のために宿屋の手伝いとか、それとも他に何かあるのかな……?
なんだか今の私にはどれもしっくりこなくて、ご飯を食べながら何度もため息をついてしまったのだ。
「ごちそうさまでした……」
何故だろう。やはり一人でそう言うのは寂しくて、バンさんはいつもこうなのだと何故か私が悲しくなってしまう。
そう思いながらトボトボと私はまたベッドに潜り込む。
横になりながら今日一日の事を思い出していた。
信じられない事がたくさん起きて、何よりフォグさんに乗りながらスキルを使うバンさんは凄かったな、なんて少し興奮してしまう。
暖かくて優しい、こんな私を苦しみから解放してくれてくれた人。そんなバンさんの役に立つにはどうしたら良いのだろう。
さっきからどうして自分の今後よりも、あの人の事をこんなに考えてしまうのだろうか……。
「なんでだろう……」
そう呟いて息を吸い込むと、その布団からはバンさんの匂いがした。
その事に何故かドキドキする胸を抑えながら、私は眠りについたのだった。
◆ ◆ ◆
そして今現在、私は野菜を採取している。
これは、バンさんが戻って来たときに美味しいご飯を作ってあげたくて、何の野菜があるのか見に来たのだけど……。
じゃがいも、里芋、さつまいも、長芋ーーー。
「本当に芋ばかりじゃないの!!」
そう嘆いてしまった私は悪くないはず。
確かに人参や玉ねぎとか他の野菜だって少しはあるけど、それにしても3分の2が芋畑ってどういう食生活なのだろう?
主食が芋って事でいいのかな……。
そう思いながらうんうん唸っていると、後ろから誰かに声をかけれて驚いてしまう。
「セシノよ、こんなところにおったのじゃな」
「きゃっ!?」
「す、すまぬな。まさかそんなに驚くとは思わなかったのじゃ……」
「ま、マリーさん驚いてしまってごめんなさい! 凄く集中していたものですから……」
「ふーん、マスターのためじゃな?」
そう言われて、すぐにそうですと返せなくて何故か恥ずかしくなってしまう。
「まぁ、口に出さずともその赤い顔を見ればわかるのじゃ」
「そ、そんな事はいいです!! 私に何か用があってここに来たんじゃないのですか?」
そんな私の態度にクスクスと軽く笑ったマリーさんは、少し考えると手を叩いて言った。
「あー、そうじゃったそうじゃった! マスターが食べる今日のお昼ご飯を作ってやってはくれぬか?」
「ご飯……?」
「マスターはあそこから動けぬからな、だがワシらではマスターが満足できる食を用意は出来ぬのじゃ、だからセシノにお願いしようと思ってここまで来たのじゃった」
バンさんにお昼ご飯を……。
もしかしたら、これは恩返しするチャンスかもしれない!
「私、頑張ってバンさんのためにご飯作ります!」
「そうかそうか、それは助かるのじゃ」
そして私たちは適当に野菜を採取すると、キッチンへと向かったのだった。
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