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第一章 宿屋をやると決意する俺

14、事情

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 俺はセシノを連れて家に戻ってきていた。
 部屋に入りもう使わないだろうと、お面を外して定位置にかけておく。そして今日はちゃんとダイニングテーブルで食べれるようにと、準備を始めたのだ。
 ご飯は昨日の残り物。ポテトサラダとハッシュドポテト、じゃがいもスープというじゃがいも尽くしである。
 俺は芋が好きだから芋ばっかり育てている結果、こんな料理ばかりになってしまうのだ。

「昨日も思いましたけど、芋ばっかですね。こんなのでは栄養が偏りますよ?」
「え、別にいいだろ?」
「ダメです! 今度私がご飯を作ってあげますから……」
「え?」

 今のは聞き間違いだろうか?
 セシノは今度ご飯を作りにって言ったけど、もしかしてまたここに来るつもりなのだろうか……?
 いや、後でガッカリしたくないからそういった期待を持つのはやめておこう。

「ご、ごほん! と、とにかくご飯は頂けるだけ感謝していますので、有り難く頂きます」
「ああ、セシノは痩せてるんだからいっぱい食べろよ。それじゃあ、食べながらで悪いけど俺とモンスターたちの前は言えなかった話を聞いてくれ」
「は、はい! よろしくお願いします」

 そして、俺は改めてここに住み着いた経緯をセシノに詳しく話しはじめた。
 その内容は俺がアンナに置き去りにされて十日間結界を張り続けた事、その結界が『プロテクト・ゾーン』である事。
 そして寝不足のあまりこのダンジョン『カルテットリバーサイド』全域に結界を張ったら、何故かダンジョンマスターになっていた事も含めて、全てを話したのだった。

「俺は倒れた後、気がついたらモンスターに囲まれていた。そのとき俺は死を悟ったのと同時に、何故か倒れている間に襲われなかった事を疑問に思ったんだ」
「もしかして襲われなかったのは、ダンジョンマスターになったからと言うことですか?」
「そうだ。それを教えてくれたのは、俺の周りに集まっていた四体のモンスターたちだった。その四体というのがフォグとフラフにマリー、そして俺が置き去りにされた直接の原因である、アーマーゴーレムのアーゴだったんだ」

 つまりあのアーマゴーレムは今、俺の仲間になっているわけで、正直あのとき俺たちを追いかけていたのも、危険区域に近づいてしまった事を警告するために姿を現しただけだったのだ。
 でも普通あの巨体に追いかけられたら、大体の冒険者は逃げるって……。
 そう伝えたら、アーゴはしょんぼりしていた。
 本当に滅茶苦茶優しいモンスターだから、こうなったのはアーゴのせいなんて、俺は文句を言えなかった。
 しかも死ぬかと思ったあのパンチも、よく聞いたら俺を抱え上げる為に腕を伸ばしただけで、本当に笑えない……。

「フォグさんたちとはそれから8年も一緒に過ごしているわけですか……それで皆さんこんなに仲がいいのですね。でもせっかく生き延びたのに、どうしてバンさんはここに住む事にしたのです?」
「いや、そのときの俺は思ったんたよ。どうせ俺は死んだ事になってるから、もう居場所はないなって……それに俺には、ああいったファミリーは向いてないのもわかったからな。それならと、俺はすぐに復讐する事を考えたんだ」
「復讐……?」

 セシノみたいな優しい子に、こんな話はあまりしたくない。
 だから俺は恨みの感情をなるべく濁して話す。

「せっかくダンジョンマスターという、俺が自由にできる箱庭を手に入れたんだ。それならアンナがまたここに来たとき用に俺は罠を作る事を思いついたわけだ」
「……罠?」
「さっき、実際見ただろ? あれも俺が考えた罠の一つだったんだよ」

 しかしさっきのはマリーに50点と言われてしまったので、多分本番では使わないだろう。

「それなら、もうすでに何回かその方はこのダンジョンに来てるのですか?」
「いやそれがさ、あの女はなんでかあれから一度もここには来てないんだよ!」
「一度も……? それならもう冒険者じゃないのかもしれませんよ? このダンジョンは素材集めに適した中級者向けのダンジョンですから、年に一度は潜る所だと聞きました」
「冒険者を辞めている、か……確かにそうかもしれない。もしくはこのダンジョンが余りにもトラウマになっているのか……。どんな理由があるかわからないが、とにかく俺はずっとアイツを待ち続けてる訳だ」

 そしてこれからも、もう来ないかもしれない女を俺は待ち続ける訳だ。
 それだけが8年待った俺の、今の生き甲斐なのかもしれない。

「でもこんな話、昨日会ったばかりの私にしても本当に大丈夫なんですか?」
「だってセシノは冒険者を続けないだろう? だからもうここに来る事も、きっとアイツに会う事なんてないはずだ」
「……確かにその人に会うかはわかりませんが、今後の事は少し考えさせて下さい」
「ああ、落ち着くまでは俺の家にいてくれていいからな。俺の事は保護者だと思ってくれていいぞ」

 俺はもう31歳でセシノとは絶対一回り以上離れてるからな……親までとはいかないが、どうしても保護者目線で見てしまう。

「……え? は、はい。よろしくお願いします」
「よし。話も終わったし、丁度ご飯も食べ終えたな。それじゃあ『カルテットリバーサイド』の探索にいくか?」
「そ、そうですね。よろしくお願いします!」
「フォグ! 案内頼む」

 俺の呼びかけに二足歩行型のフォグがすぐに扉を開けて部屋に入ってくる。
 そしてゆっくりセシノの前まで行くと、膝を折ったのだ。

「挨拶が遅れたけどよ、俺はフォグウルフのフォグだ。そして森エリアの総括を担当しているモンスターでもあるんだぜ?」
「森エリアの総括……?」

 まあ、疑問に思うよな……。
 俺はセシノが首を傾げているの見て、補足を入れてやる。

「ここ『カルテットリバーサイド』のモンスターに限らず、ダンジョンにはエリア毎に一応リーダーが存在するらしい。そのリーダーはダンジョンに入ってくる人間が危険区域に入ってきていない事を確認したり、人が倒れていた場合の強制送還やモンスターの把握など、ダンジョンマスターがいない間でもこのダンジョンが機能するように、取りまとめてくれるモンスターたちなんだ」
「そ、そんなの私聞いたことありませんよ……?」

 俺も最初聞いたときは同じように驚いた。
 だからそのときの俺は、死にかけたのに何で助けに来てくれなかったのかと聞いてしまったのだ。でもその理由が、俺が結界を張っていて近づけないのが原因だったと知ったときの気持ちは、なんとも言えなかった。
 そして今の俺はそれがこの世界の仕組みだと理解して、そういう物だと思うようにしている。

「セシノが驚くのも仕方がないけど、ダンジョンっていうのはそういうものなんだ」
「……そ、そうなんですね」
「おいおい二人とも、そこは気にしたら始まんねぇよ! とにかく俺のエリアにご招待するから早く外に行こうぜ」

 そう言ってフォグは俺たちの腕を掴んで家の外へと出たのだった。
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