11 / 168
第一章 宿屋をやると決意する俺
11、涙
しおりを挟む話は戻り、大混乱の冒険者の裏ではバンが何したかと言う話から
ーー▼ーー▽ーー▼ーー▽ーー▼ーー
冒険者を追いかけていた俺たちは、湖に先回りしていた。実は堂々と見えるところにいるのだけど、今はフォグの魔法で霧のように見えなくなっている。
そして今、丁度冒険者たちが湖に飛び込む姿を見ているところだった。
バシャンと慌てて飛び込むその姿は滑稽にしか見えない。
「おー、迷う事なく盛大に飛び込んだな」
「ここまではマスターの思惑通りだな!」
「えっと、でもこの湖って飛び込んで大丈夫なんでしたっけ……?」
セシノは自分を追い詰めたはずの仲間たちを心配しているのか、不安そうにその光景を見ていた。
「セシノは優し過ぎるな」
「そ、そんな事は……えっと、実はあの中に仲良くしていた子がいたので、その子が心配なだけで……」
もしかして、あの下っ端の女の子だったりするのだろうか?
あの子も、か弱そうだったからな……でも、それならセシノが心配するのも頷ける。
「成る程ね、でもそれなら多分大丈夫だ。ちょっとした仕掛けをしただけだし、もし何かあれば俺がどうにかするからな。それにしても、もう冒険者達が助かったって喜び始めちゃったな。マリーはまだか?」
「どうも準備に手間取ってる見たいだぜ?」
「しょうがない、俺が時間を稼いでくるからフラフのところまで連れて行ってくれ」
「わかったぜ、あそこまで一気にジャンプするからしっかり捕まってろよ!!」
俺は前に乗せているセシノごと抱え込むようにフォグに捕まる。するとグンっと跳躍する反動で体が落ちそうになるのをグッと堪えていた。
「セシノは、大丈夫か?」
「は、はい……バンさんが支えてくれてますから」
「ならよかった」
だけど、俺は結構限界だよ!
そう思ったときには、ピタリとフォグが立ち止まったので助かった。
「マスター、フラフの上に着いたぜ? 見てみろよ、フラフのやつ湖に入る直前で寝てやがる」
「ふ、フラフちゃん寝てるの??」
「まあ、少し転がって疲れたんだろうな。こいつはこういう自由なやつなんだよ。それよりここからは俺だけ姿を晒す。俺が次にフォグに触れたらまた姿を隠してくれ」
「わかったぜ、マスター」
「後、神々しい感じの演出は任せた!」
そう言って俺は冒険者達の前に姿を曝け出した。
念の為にお面を被っておいてよかった……。
そして冒険者たちは、すぐに俺の姿に気がついたのだった。
「だ、誰だ貴様!!?」
そう叫ぶ冒険者たちに向けて、俺はマリーが作ったマジックアイテム『アーティフィッシャルテレパシー』を発動。
これは目に映る相手の脳に直接声を届けるアイテムだ。このアイテムが崩れ落ちる短い間だけ使用ができる、驚かせるだけならとても有効なアイテムである。
『誰? お前たちのような人間にそんな事を教える必要などないな』
「なんなんだコイツ!!!?」
ふむふむ、いい感じに驚いてくれているな。
だけどアイテムの崩れ方からして、あと一言話せるかってところか。
『お前たちは、このダンジョンを怒らせた。その落とし前はきっちりつけて貰うぞ!!』
よし、ギリギリ持った。
壊れたアイテムを見ながら俺はすぐにフォグに触れた。それはキングが叫んだのと同タイミングだった。
「何言って……!!」
「き、消えた……」
「ダンジョンの怒りって一体……??」
俺が消えた事で、信憑性が高まり不安を煽る事に成功。冒険者たちが慌てている様子が面白いほど見えるな。
そして丁度良いタイミングで湖が光はじめたのが見えた。
「マリーがようやく動き出したみたいだな」
光る湖の仕掛けはマリーによるものだ。
この湖には最初から、アイテムドロップの効果がついてしまうトラップが仕掛けられている。
そのスイッチを押して貰うのがマリーの役目だったのだけど、一度湖を離れて冒険者を撹乱していたために、その場所に辿り着くまで時間がかかったのだろう。
「よし! アイテムドロップも上手く発動してるようだ。セシノ、お前を陥れた男がどう足掻くのか見ものだぞ」
「は、はい……」
そこには落としたアイテムを何とか隠すように必死に集める男、キングであるズーロウの姿があった。
しかし、このアイテムドロップの中ではカバンに戻してもまたすぐに飛び出してしまうのか、ちっとも周りのアイテムは片付かない。それどころか、そのアイテム達はどんどん広がっていく。
そしてついに、そのアイテムは仲間の目に止まったのだ。
「あれ? これって……俺が前盗まれたアイテム」
「こっちのも僕のです!!」
「え? 嘘だろ、これ。無くしたと思ってたマジックアイテムだ……」
「ああーーーー!!! これ、私がセシノに盗まれたと思ってた大事なマジックアイテム!!」
仲間にバレたズーロウの慌てっぷりはそれはもう酷かった。
アイテムをなるべく隠すため、自分の後ろへと手を一生懸命動かしている様子は、まるで溺れているように見えて滑稽だった。
というか、仲間のアイテム盗むの常習犯だったのか。本当にドがつくほどのクズだったんだな。
しかし、こんなズーロウを見たセシノがどういう反応をしているか気になった俺は、セシノをチラリと見てハッとした。
何故かセシノは、泣いていた。
その事に焦ったのは俺だ。
「ど、どうして泣いてるんだ?」
「……あ、あの……私の疑惑が解けたことが、嬉しくて……うぅ……」
キングの罪が暴かれたんだから、もっと喜んでくれるかと思ったのにまさか泣いてしまうなんて!?
くぅ……セシノは、なんて良い子なんだ!!
何故か今の俺はセシノの事を親目線で見てしまって、俺まで涙腺が……って、俺が感激してる場合じゃない!
とにかく今は、ここから早く離脱しなくてはならないのだ。
「セシノ、泣いてるところ悪いが俺たちはここを離脱する。それにもうこれからはセシノが何かを心配する必要はないからな」
「は、はい……私ならもう、大丈夫です」
「もし話したい事があるなら、後でいっぱい聞いてやる。それに今は急がないと、もしかするとアレが出てくるかもしれないからな……」
「……アレ?」
首を傾げるセシノを見ながら、俺は湖に目を向ける。
ここには湖の主、ウンディーネであるディーネがいるわけなんだけど、今回思った以上に湖に長居してしまったから、もしこの騒ぎでディーネが起きたらきっとここは大惨事になる。
だからその前になるべく離れていた方が良いわけだ。
「マスターそれはわかったけどよ、フラフはどうするんだ?」
「フラフは多分、水を避けるために勝手に動くんじゃないか?」
「まあ、そうか。じゃあ今度は嬢ちゃんのために、俺はゆっくり移動するぜ!」
フォグはそう言うとフラフの背中から飛び降りて、湖から距離を取るために走りだしたのだった。
そんな中、セシノが不安そうにこちらを振り向いた。
「あの、気になってたんですけどアレって何ですか?」
「それはさっきセシノが言ってたヤバイやつだよ!」
「も、もしかして……湖の主??」
「そうそう、それだよそれ!!」
そう俺が言い切ったとき、後ろからザバンッ!! と大きな音がしたのだった。
ーー△ーー▲ーー△ーー▲ーー△ーー
ズーロウの本当の終わりはもう少し後で。
0
お気に入りに追加
641
あなたにおすすめの小説
はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!
さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。
しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。
とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。
『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』
これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~
厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない!
☆第4回次世代ファンタジーカップ
142位でした。ありがとう御座いました。
★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる