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第一章 宿屋をやると決意する俺

11、涙

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話は戻り、大混乱の冒険者の裏ではバンが何したかと言う話から

ーー▼ーー▽ーー▼ーー▽ーー▼ーー

















 冒険者を追いかけていた俺たちは、湖に先回りしていた。実は堂々と見えるところにいるのだけど、今はフォグの魔法で霧のように見えなくなっている。
 そして今、丁度冒険者たちが湖に飛び込む姿を見ているところだった。
 バシャンと慌てて飛び込むその姿は滑稽にしか見えない。

「おー、迷う事なく盛大に飛び込んだな」
「ここまではマスターの思惑通りだな!」
「えっと、でもこの湖って飛び込んで大丈夫なんでしたっけ……?」

 セシノは自分を追い詰めたはずの仲間たちを心配しているのか、不安そうにその光景を見ていた。

「セシノは優し過ぎるな」
「そ、そんな事は……えっと、実はあの中に仲良くしていた子がいたので、その子が心配なだけで……」

 もしかして、あの下っ端の女の子だったりするのだろうか?
 あの子も、か弱そうだったからな……でも、それならセシノが心配するのも頷ける。

「成る程ね、でもそれなら多分大丈夫だ。ちょっとした仕掛けをしただけだし、もし何かあれば俺がどうにかするからな。それにしても、もう冒険者達が助かったって喜び始めちゃったな。マリーはまだか?」
「どうも準備に手間取ってる見たいだぜ?」
「しょうがない、俺が時間を稼いでくるからフラフのところまで連れて行ってくれ」
「わかったぜ、あそこまで一気にジャンプするからしっかり捕まってろよ!!」

 俺は前に乗せているセシノごと抱え込むようにフォグに捕まる。するとグンっと跳躍する反動で体が落ちそうになるのをグッと堪えていた。

「セシノは、大丈夫か?」
「は、はい……バンさんが支えてくれてますから」
「ならよかった」

 だけど、俺は結構限界だよ!
 そう思ったときには、ピタリとフォグが立ち止まったので助かった。

「マスター、フラフの上に着いたぜ? 見てみろよ、フラフのやつ湖に入る直前で寝てやがる」
「ふ、フラフちゃん寝てるの??」
「まあ、少し転がって疲れたんだろうな。こいつはこういう自由なやつなんだよ。それよりここからは俺だけ姿を晒す。俺が次にフォグに触れたらまた姿を隠してくれ」
「わかったぜ、マスター」
「後、神々しい感じの演出は任せた!」

 そう言って俺は冒険者達の前に姿を曝け出した。
 念の為にお面を被っておいてよかった……。
 そして冒険者たちは、すぐに俺の姿に気がついたのだった。

「だ、誰だ貴様!!?」

 そう叫ぶ冒険者たちに向けて、俺はマリーが作ったマジックアイテム『アーティフィッシャルテレパシー』を発動。
 これは目に映る相手の脳に直接声を届けるアイテムだ。このアイテムが崩れ落ちる短い間だけ使用ができる、驚かせるだけならとても有効なアイテムである。

『誰? お前たちのような人間にそんな事を教える必要などないな』
「なんなんだコイツ!!!?」

 ふむふむ、いい感じに驚いてくれているな。
 だけどアイテムの崩れ方からして、あと一言話せるかってところか。

『お前たちは、このダンジョンを怒らせた。その落とし前はきっちりつけて貰うぞ!!』

 よし、ギリギリ持った。
 壊れたアイテムを見ながら俺はすぐにフォグに触れた。それはキングが叫んだのと同タイミングだった。

「何言って……!!」
「き、消えた……」
「ダンジョンの怒りって一体……??」

 俺が消えた事で、信憑性が高まり不安を煽る事に成功。冒険者たちが慌てている様子が面白いほど見えるな。
 そして丁度良いタイミングで湖が光はじめたのが見えた。

「マリーがようやく動き出したみたいだな」

 光る湖の仕掛けはマリーによるものだ。
 この湖には最初から、アイテムドロップの効果がついてしまうトラップが仕掛けられている。
 そのスイッチを押して貰うのがマリーの役目だったのだけど、一度湖を離れて冒険者を撹乱していたために、その場所に辿り着くまで時間がかかったのだろう。

「よし! アイテムドロップも上手く発動してるようだ。セシノ、お前を陥れた男がどう足掻くのか見ものだぞ」
「は、はい……」

 そこには落としたアイテムを何とか隠すように必死に集める男、キングであるズーロウの姿があった。
 しかし、このアイテムドロップの中ではカバンに戻してもまたすぐに飛び出してしまうのか、ちっとも周りのアイテムは片付かない。それどころか、そのアイテム達はどんどん広がっていく。
 そしてついに、そのアイテムは仲間の目に止まったのだ。

「あれ? これって……俺が前盗まれたアイテム」
「こっちのも僕のです!!」
「え? 嘘だろ、これ。無くしたと思ってたマジックアイテムだ……」
「ああーーーー!!! これ、私がセシノに盗まれたと思ってた大事なマジックアイテム!!」

 仲間にバレたズーロウの慌てっぷりはそれはもう酷かった。
 アイテムをなるべく隠すため、自分の後ろへと手を一生懸命動かしている様子は、まるで溺れているように見えて滑稽だった。
 というか、仲間のアイテム盗むの常習犯だったのか。本当にドがつくほどのクズだったんだな。
 しかし、こんなズーロウを見たセシノがどういう反応をしているか気になった俺は、セシノをチラリと見てハッとした。
 何故かセシノは、泣いていた。
 その事に焦ったのは俺だ。

「ど、どうして泣いてるんだ?」
「……あ、あの……私の疑惑が解けたことが、嬉しくて……うぅ……」

 キングの罪が暴かれたんだから、もっと喜んでくれるかと思ったのにまさか泣いてしまうなんて!?
 くぅ……セシノは、なんて良い子なんだ!!
 何故か今の俺はセシノの事を親目線で見てしまって、俺まで涙腺が……って、俺が感激してる場合じゃない!
 とにかく今は、ここから早く離脱しなくてはならないのだ。

「セシノ、泣いてるところ悪いが俺たちはここを離脱する。それにもうこれからはセシノが何かを心配する必要はないからな」
「は、はい……私ならもう、大丈夫です」
「もし話したい事があるなら、後でいっぱい聞いてやる。それに今は急がないと、もしかするとアレが出てくるかもしれないからな……」
「……アレ?」

 首を傾げるセシノを見ながら、俺は湖に目を向ける。
 ここには湖の主、ウンディーネであるディーネがいるわけなんだけど、今回思った以上に湖に長居してしまったから、もしこの騒ぎでディーネが起きたらきっとここは大惨事になる。
 だからその前になるべく離れていた方が良いわけだ。

「マスターそれはわかったけどよ、フラフはどうするんだ?」
「フラフは多分、水を避けるために勝手に動くんじゃないか?」
「まあ、そうか。じゃあ今度は嬢ちゃんのために、俺はゆっくり移動するぜ!」

 フォグはそう言うとフラフの背中から飛び降りて、湖から距離を取るために走りだしたのだった。
 そんな中、セシノが不安そうにこちらを振り向いた。

「あの、気になってたんですけどアレって何ですか?」
「それはさっきセシノが言ってたヤバイやつだよ!」
「も、もしかして……湖の主??」
「そうそう、それだよそれ!!」

 そう俺が言い切ったとき、後ろからザバンッ!! と大きな音がしたのだった。














ーー△ーー▲ーー△ーー▲ーー△ーー

ズーロウの本当の終わりはもう少し後で。
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