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第一章 宿屋をやると決意する俺
10、そこで何が?(シェイラ視点)
しおりを挟むここで大混乱の冒険者側視点を1話入れます。
視点は下っ端のシェイラちゃん。
ーー▼ーー▽ーー▼ーー▽ーー▼ーー
私はシェイラ。『黒翼の誓い』へはキングに脅されて入った組の一人だった。
そんな私がセシノと仲が良いのは当然で、あの子が盗みなんてする訳がないのに、周りからの同調圧力に屈してそのときの私は何も言えなかった。
それなのに今の私はだいぶ混乱していた。
というよりパーティー全員が大混乱中で、何故私たちは転がるモンスターに追いかけられているの!?
「おい! テメェがアイツを止めてこいよ!!」
「うるせーな!! 魔法もスキルも発動出来ないのにどうやって止めるんだよ!」
「本当、この見えない壁は何なのよ!?」
「くっちゃべってると、すぐに轢かれるぞ!!」
とにかく走らなくてはならない事は、私もわかっていた。
この一本道は一体何処まで続くのか、そう思って道の先を見るとそこは途切れていてーーー。
「キング! もう道がないです!!」
「何ぃ? なら何があるってんだ??」
「み、湖です!! どうします?」
「フラァーフは水が苦手だったはず、だから水の中ならアイツも入ってこれねぇはずだ!! 飛び込むぞ!!!」
「で、でもここの湖……」
「つべこべ言うな!! 急げ!!!」
キングは真っ先にこの道を走り抜けると、勢いよく湖に飛び込んだ。
それにつられるように私たちも次々に湖に入っていく。
「た、助かったのか?」
「ほら見ろ! あのモンスターは水に入る直前で止まったぞ!!」
「しかももう、壁もない! 俺たちは助かったんだ!!」
皆が皆、助かった事に喜ぶあまり湖から出ようとしなかった。
しかし誰かが、フラァーフの上に人が乗っている事に気がついた。
「いやまて、モンスターの上に何かいないか?」
「あれは……人じゃないのか??」
その姿はもやがかかり、逆光でよく見えない。
それでも人の形をしていて、お面を被っているのは何となくわかる。
「だ、誰だ貴様!!?」
『誰? お前たちのような人間にそんな事を教える必要などないな』
「なんなんだコイツ!!!?」
その声は直接頭の中に響く為にどこか不気味で、私たちは目の前にいる存在が本当に人間なのかと疑いはじめていた。
『お前たちは、このダンジョンを怒らせた。その落とし前はきっちりつけて貰うぞ!!』
「何言って……!!」
キングがその男に反論しようとしたとき、もうその姿は何処にも見当たらなかった。
「き、消えた……」
「だ、ダンジョンの怒りって一体……??」
「落ち着けお前ら! そんなのあの男のハッタリに決まってる!!」
「でもあの男も、人間なのかどうか……」
「う、うるせぇ!!」
キングが叫んだその瞬間、湖全体が光り始めたのだ。
「な、何だ??」
「キング!! 大変です、この湖どうやらアイテムドロップがかかってるみたいですよ!」
「アイテムドロップ……まさか!?」
鑑定が出来る仲間が、光を見て慌てて自分のポケットやアイテムボックスを押さえた。
しかしどういう原理なのか、押さえているはずの手の隙間からアイテムが飛び出してきたのだ。
そして気がつけば全員、自分のアイテムが湖に浮かび上がっている事に焦り、必死にかき集めていた。
「わ~! 俺の秘蔵のアイテムが!!」
「そ、それは僕のアイテムですよ!」
「これじゃあ、誰が誰のかわからなくなる……って、キングの周り凄い量!?」
その声に、皆キングの方を見てしまった。
そこにはどこに隠していたのか沢山のアイテムが浮かんでいて、それをキングが必死にかき集めようとしていた。その姿は必死すぎて、まるで溺れてるようにみえる。
そして、パーティ内にいる一人が気がついた。
「あれ? これって……俺が前盗まれたアイテム」
「こっちのは僕のです!!」
「え? 嘘だろ、これ。無くしたと思ってたマジックアイテムだ……」
キングの持っていたアイテムに次々と皆が自分の物だと言い出し、その状況にキングは顔を青ざめ始めたのだ。
「ああーーーー!!! これ、私がセシノに盗まれたと思ってた大事なマジックアイテム!!」
そしてバーレさんの大声に、全員がそちらを見た。
どうやら、バーレさんのマジックアイテムも本当にキングが盗んだようで、その事にホッとした私はポツリと呟いてしまう。
「そっか、本当にセシノは盗んでなかったんだ。よかった……」
しかし気がつけば周りの仲間がキングに向ける瞳は、憎悪のこもったものに変わっていった。
「キングこれは一体どういう事ですか??」
「こ、これはだな。盗ったやつらから返してもらったんだ。だから後で皆に返そうかと……」
「だとしても、盗んだセシノが持っているはずのマジックアイテムまで、キングが持ってるのはおかしいじゃない!!」
「ま、待ってくれ! まだ話は……」
「それを持っているなら、キングといえども問答無用で殺すわ!!!」
バーレさんが、また怒りの余り魔法を打とうとしたその瞬間だった。
湖の真ん中から光とともに膨大な魔力が溢れ出てきてのは……。
その殺気だけで私たちは気圧されてしまう。
『妾の眠りを妨げるのは、どこのどいつであるか??』
声とともに、ザバァン!! と蒼く輝く何かが湖から姿を表した。
その顔は美しくまるで人間のように見えるのに、どう見てもその肌は蒼い。なにより体にある鱗が反射でキラキラと光り、下半身は魚の尻尾にしか見えないのだ。
そして肩にはランク9の印が入っていた。
その姿は噂で聞いた事がある存在そのままで、誰かがその名前を叫ぶ。
「う、ウンディーネだ!!」
「まさか!? それじゃぁ、この湖にいるという噂は本当だったのか!!!」
「しかもランク9だって!? そんなの俺たちで勝てる訳がない!!」
「お前らアイテムよりも、命がおしかったら早くここから逃げるぞ!!!」
アイテムを拾う事を諦めた私たちは湖から出ると、ただひたすら出口のある転移ゲートに走り続けた。
『貴様ら、妾から逃げられると思うでないぞ!!』
後ろでウンディーネが叫び暴れているからなのか、攻撃の余波で私たちは皆びしょ濡れだったけど、今はここから逃げる事しか考えられなかったのだった。
そしてその後、何故か私はそこからの記憶がほぼなかった。
何故ならこのダンジョンボックスから逃げたあと、ファミリーのアジトにどうにかたどり着いた私だったのだけど、気がつけばファミリーは解散していたのだから……。
一体このとき何が起きてそうなってしまったのか、私には全くわからなかった。
ただ私が、キングという苦しみから解放されたのは間違いない。
でもきっと、全てはあのダンジョンにいたお面の人のおかげに違いない。
だから私はファミリーの一人として、たまたま新聞記者に経緯を尋ねられたらから「お面男の天罰が下ったのよ」と、そう話してあげた。
そうね、あの人はきっと神様か何かに違いないと思うわ……だって、救い出された私にはそうにしか見えなかったんだもの!
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