10 / 168
第一章 宿屋をやると決意する俺
10、そこで何が?(シェイラ視点)
しおりを挟むここで大混乱の冒険者側視点を1話入れます。
視点は下っ端のシェイラちゃん。
ーー▼ーー▽ーー▼ーー▽ーー▼ーー
私はシェイラ。『黒翼の誓い』へはキングに脅されて入った組の一人だった。
そんな私がセシノと仲が良いのは当然で、あの子が盗みなんてする訳がないのに、周りからの同調圧力に屈してそのときの私は何も言えなかった。
それなのに今の私はだいぶ混乱していた。
というよりパーティー全員が大混乱中で、何故私たちは転がるモンスターに追いかけられているの!?
「おい! テメェがアイツを止めてこいよ!!」
「うるせーな!! 魔法もスキルも発動出来ないのにどうやって止めるんだよ!」
「本当、この見えない壁は何なのよ!?」
「くっちゃべってると、すぐに轢かれるぞ!!」
とにかく走らなくてはならない事は、私もわかっていた。
この一本道は一体何処まで続くのか、そう思って道の先を見るとそこは途切れていてーーー。
「キング! もう道がないです!!」
「何ぃ? なら何があるってんだ??」
「み、湖です!! どうします?」
「フラァーフは水が苦手だったはず、だから水の中ならアイツも入ってこれねぇはずだ!! 飛び込むぞ!!!」
「で、でもここの湖……」
「つべこべ言うな!! 急げ!!!」
キングは真っ先にこの道を走り抜けると、勢いよく湖に飛び込んだ。
それにつられるように私たちも次々に湖に入っていく。
「た、助かったのか?」
「ほら見ろ! あのモンスターは水に入る直前で止まったぞ!!」
「しかももう、壁もない! 俺たちは助かったんだ!!」
皆が皆、助かった事に喜ぶあまり湖から出ようとしなかった。
しかし誰かが、フラァーフの上に人が乗っている事に気がついた。
「いやまて、モンスターの上に何かいないか?」
「あれは……人じゃないのか??」
その姿はもやがかかり、逆光でよく見えない。
それでも人の形をしていて、お面を被っているのは何となくわかる。
「だ、誰だ貴様!!?」
『誰? お前たちのような人間にそんな事を教える必要などないな』
「なんなんだコイツ!!!?」
その声は直接頭の中に響く為にどこか不気味で、私たちは目の前にいる存在が本当に人間なのかと疑いはじめていた。
『お前たちは、このダンジョンを怒らせた。その落とし前はきっちりつけて貰うぞ!!』
「何言って……!!」
キングがその男に反論しようとしたとき、もうその姿は何処にも見当たらなかった。
「き、消えた……」
「だ、ダンジョンの怒りって一体……??」
「落ち着けお前ら! そんなのあの男のハッタリに決まってる!!」
「でもあの男も、人間なのかどうか……」
「う、うるせぇ!!」
キングが叫んだその瞬間、湖全体が光り始めたのだ。
「な、何だ??」
「キング!! 大変です、この湖どうやらアイテムドロップがかかってるみたいですよ!」
「アイテムドロップ……まさか!?」
鑑定が出来る仲間が、光を見て慌てて自分のポケットやアイテムボックスを押さえた。
しかしどういう原理なのか、押さえているはずの手の隙間からアイテムが飛び出してきたのだ。
そして気がつけば全員、自分のアイテムが湖に浮かび上がっている事に焦り、必死にかき集めていた。
「わ~! 俺の秘蔵のアイテムが!!」
「そ、それは僕のアイテムですよ!」
「これじゃあ、誰が誰のかわからなくなる……って、キングの周り凄い量!?」
その声に、皆キングの方を見てしまった。
そこにはどこに隠していたのか沢山のアイテムが浮かんでいて、それをキングが必死にかき集めようとしていた。その姿は必死すぎて、まるで溺れてるようにみえる。
そして、パーティ内にいる一人が気がついた。
「あれ? これって……俺が前盗まれたアイテム」
「こっちのは僕のです!!」
「え? 嘘だろ、これ。無くしたと思ってたマジックアイテムだ……」
キングの持っていたアイテムに次々と皆が自分の物だと言い出し、その状況にキングは顔を青ざめ始めたのだ。
「ああーーーー!!! これ、私がセシノに盗まれたと思ってた大事なマジックアイテム!!」
そしてバーレさんの大声に、全員がそちらを見た。
どうやら、バーレさんのマジックアイテムも本当にキングが盗んだようで、その事にホッとした私はポツリと呟いてしまう。
「そっか、本当にセシノは盗んでなかったんだ。よかった……」
しかし気がつけば周りの仲間がキングに向ける瞳は、憎悪のこもったものに変わっていった。
「キングこれは一体どういう事ですか??」
「こ、これはだな。盗ったやつらから返してもらったんだ。だから後で皆に返そうかと……」
「だとしても、盗んだセシノが持っているはずのマジックアイテムまで、キングが持ってるのはおかしいじゃない!!」
「ま、待ってくれ! まだ話は……」
「それを持っているなら、キングといえども問答無用で殺すわ!!!」
バーレさんが、また怒りの余り魔法を打とうとしたその瞬間だった。
湖の真ん中から光とともに膨大な魔力が溢れ出てきてのは……。
その殺気だけで私たちは気圧されてしまう。
『妾の眠りを妨げるのは、どこのどいつであるか??』
声とともに、ザバァン!! と蒼く輝く何かが湖から姿を表した。
その顔は美しくまるで人間のように見えるのに、どう見てもその肌は蒼い。なにより体にある鱗が反射でキラキラと光り、下半身は魚の尻尾にしか見えないのだ。
そして肩にはランク9の印が入っていた。
その姿は噂で聞いた事がある存在そのままで、誰かがその名前を叫ぶ。
「う、ウンディーネだ!!」
「まさか!? それじゃぁ、この湖にいるという噂は本当だったのか!!!」
「しかもランク9だって!? そんなの俺たちで勝てる訳がない!!」
「お前らアイテムよりも、命がおしかったら早くここから逃げるぞ!!!」
アイテムを拾う事を諦めた私たちは湖から出ると、ただひたすら出口のある転移ゲートに走り続けた。
『貴様ら、妾から逃げられると思うでないぞ!!』
後ろでウンディーネが叫び暴れているからなのか、攻撃の余波で私たちは皆びしょ濡れだったけど、今はここから逃げる事しか考えられなかったのだった。
そしてその後、何故か私はそこからの記憶がほぼなかった。
何故ならこのダンジョンボックスから逃げたあと、ファミリーのアジトにどうにかたどり着いた私だったのだけど、気がつけばファミリーは解散していたのだから……。
一体このとき何が起きてそうなってしまったのか、私には全くわからなかった。
ただ私が、キングという苦しみから解放されたのは間違いない。
でもきっと、全てはあのダンジョンにいたお面の人のおかげに違いない。
だから私はファミリーの一人として、たまたま新聞記者に経緯を尋ねられたらから「お面男の天罰が下ったのよ」と、そう話してあげた。
そうね、あの人はきっと神様か何かに違いないと思うわ……だって、救い出された私にはそうにしか見えなかったんだもの!
1
お気に入りに追加
639
あなたにおすすめの小説

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる
咲阿ましろ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。
強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。
死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。
再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。
※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。
※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!
異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます
空色蜻蛉
ファンタジー
普通の高校生の樹(いつき)は、勇者召喚された友人達に巻き込まれ、異世界へ。
勇者ではない一般人の樹は元の世界に返してくれと訴えるが。
事態は段々怪しい雲行きとなっていく。
実は、樹には自分自身も知らない秘密があった。
異世界の中心である世界樹、その世界樹を守護する、最高位の八枚の翅を持つ精霊だという秘密が。
【重要なお知らせ】
※書籍2018/6/25発売。書籍化記念に第三部<過去編>を掲載しました。
※本編第一部・第二部、2017年10月8日に完結済み。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。


オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろうでも公開しています。
2025年1月18日、内容を一部修正しました。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる