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第一章 宿屋をやると決意する俺
8、キレる冒険者
しおりを挟むようやく時は来た。
俺は出かける準備を終えると、人前に出るときになるべく被っている狼のお面を付ける。
一応俺は死んだ事になっている筈なのだ。だから俺の顔を知っている人と出会うのを避ける為、そして俺はモンスターと仲間であると言う意思表示として、一応それを付けていた。
まあ今回はフォグのスキルで隠れるつもりだから、見られることはないと思うけど……。
そう思いながら家を出たのはついさっきで、今の俺は昨日作ったあの一本道に立っていた。
「セシノ、さっきも言った通りお前はフラフを抱えたまま、この一本道に立って仲間が来るのを待てばいい。そして見つかったら、キングを連れて来いと言うんだ」
俺の横では、緊張で少し震えているセシノがフラフを強く抱きしめて立っていた。
「わ、わかりました」
「もし、攻撃されそうになっても大丈夫だ。俺が守ってやるから、お前はただそこに立っていればいい」
「あ、あの……本当に大丈夫なんですか?」
不安そうに振り向くその姿に、俺は自信満々に笑う。だって俺のプロテクト・ゾーンは最強のディフェンスなんだからな。
「ああ、俺の命に賭けてもいい」
「そこまでなんですか……わかりました。それでキングが出てきた後は、フラフちゃんを離せば良いのでしたよね?」
「そうだ、後はフラフがどうにかしてくれる。頼んだぞフラフ」
「任せてマスター。僕、モフモフ頑張るね!」
フラフについては少し運頼みもあるが、ヤル気はあるから多分大丈夫だろう。
「よし、そろそろ明るくなる時間だからな。奴らも行動を開始するだろう。俺の姿は見えなくなるけどセシノの後ろにずっといるから、不安になったらコッソリ話しかけてもいいんだぞ?」
「いえ、大丈夫です。私にはフラフちゃんがいますから……」
まだ震えているのに強がりを言うセシノの緊張を解してやりたくて、俺は頭を撫でようと手を伸ばしかけて止めた。
そんな親しくないのにこうやって頭を触られるのは嫌だよな。
「じゃあ、後でな」
「は、はい」
俺はフォグに飛び乗るとセシノから数歩距離を取り、マリーと通信を開始した。
『マリー、聞こえるか?』
『マスター、ちゃんと聞こえておるのじゃ』
『こちらの準備は終わった。そっちはどうだ?』
『それが冒険者たちはもう動き出しておるのじゃが、一向に探しに行く気配はないのじゃ。なにやら揉めているようにも見えるのぅ』
『行方不明になってから一日ぐらい経過してるからな。そうなると死んでるか、ダンジョンから抜け出しているか、どちらかの可能性を疑うよなぁ……』
このままでは作戦を決行することはできない。
どうしようかと考えていたら、マリーがため息をついた。
『仕方がないのじゃ、ワシがセシノに化けて奴らを誘き出してやるのじゃよ。遠目では色とかあんまりわからんじゃろ』
スライムであるマリーは何にでも姿を変える事が出来る。でも人型になる場合は髪と目の色だけは変更できないらしい。
正直それでも十分凄いが、これはランク9という計り知れない努力があってこその姿なのだ。
だから俺の我儘に付き合わせてしまっているマリーには感謝しかない。
『ありがとな、マリー』
『ふん、マスターの為ではなくあの小娘の為じゃ!!』
『本当、セシノの何を気に入ったんだ?』
『うるさい男は嫌われるのじゃぞ! それ以上は詮索するでない。それに無駄話はここまでじゃ、後はこのワシに任せてそちらでゆったりと待機しておるがよいのじゃぞ!』
『わかったよ。だけどマリー、くれぐれも無理はするなよ』
『ワシがあんなのにやられる訳がないじゃろうが……全くマスターは心配性じゃ……』
なんてブツブツ言いながら、その通信は途切れたのだった。
その後すぐに湖エリア内が騒がしくなった事で、マリーが冒険者を惹きつけ始めたのはすぐにわかった。
何も知らないセシノは、少しビビりながらも静かにそのときを待っていた。
そしてセシノの名前を呼ぶ声が、徐々にここまで聞こえてきた。
「セシノ、待ちなさい!!」
「逃げるんじゃねぇー!」
「今度はどっちだ?」
「あっちにいるぞ、急げーー!!」
本物のセシノはここにいるのだけど、どうやらマリーは凄くそっくりに化けてくれたようだ。
流石俺のマリーはそこいらのスライムとは違うな。なんて俺の子自慢をしたくなってしまう。
そう思っている間に、ついに本物のセシノが奴らの目に入ったのだった。
「見つけたぞ!! こっちだ!」
「ようやく逃げるのをやめてくれたのね……」
「いや、まてこいつ何か抱えて」
「「ってモンスター!!?」」
セシノの向かいに五人程の冒険者が立ち止まった。すぐに寄ってこないのは、セシノがモンスターを抱えているからだろう。
そして、セシノは俺が教えた通り話し出した。
「キングを連れてきて下さい」
「はぁ!? キングを?」
「なにいってんだ、こいつ?」
四人の冒険者はセシノの言葉に疑問を持ち顔を見合わせていたが、一人の女性だけは違った。
「セシノ! まずは私のマジックアイテムを返しなさいよ!!」
苛立ちながら一歩前に出た青髪の女性が、セシノに近づこうとして途中で立ち止まる。
それは立ち止まったというより、先に進めなかったと言うのが正しいだろう。
何故なら俺はすでにセシノへと、プロテクト・ゾーンを展開していた。
そのため結界の壁にぶつかったのだ。
「な、なに? これ以上さきに進めないじゃない!!」
「バーレさん、私はあたなの物を盗んでなんていません」
「ふざけないで!! キングはあんたが盗んだのを見たって言ったのよ。それなのにその態度はなんなのよ!? 絶対に許さないっ!!!」
バーレと呼ばれた青髪の女性は、黄色い瞳でセシノを睨みつけながら叫び散らすと、突然魔法を放ったのだ。
それはセシノを一瞬で塵にできる威力の雷魔法で、稲妻が走った後も暫くは辺り一面砂埃が舞っていた。
「バーレ! 流石にそれはダメだ!!」
「あーもう、やりすぎだよ!!」
後ろの仲間たちが、バーレがやらかした事に叫んでいる。
それなのに当の本人は血走った目をして、セシノがいた場所を見つめていた。
「あれは、大事なマジックアイテムなの!! あんな小娘よりも大事な……。あの小娘が死んでもマジックアイテムには傷一つ付くわけがないもの。だからこれで良いのよ」
そうブツブツと呟く顔は正気ではない。
一体そのアイテムがどれ程の価値かわからないが、だからといって人を殺してまで取り戻したい物なのだろうか……。
「さあ、早くそれを……、っ!?」
バーレは今度こそ一歩踏み出そうとしたのに、それはできなかった。
だって、まだ俺の結界は壊れてないから。
そしてゆっくりと砂埃が晴れていく。
そこには勿論、無傷なセシノが平然と立っていた。
「な、なんで……無傷なのよ!?」
「バーレさん、これでわかりましたか? 貴女では私に手を出せません。それにキングを連れて来て貰うまで私はここから動きませんから」
「くっ、なんで私がこんな小娘に……わかったわよ!! シェイラ、すぐにキングを呼んできなさい!」
「は、はい! バーレさん!!」
シェイラと呼ばれた黒髪の女性は、急いでその場から走り出した。
きっと彼女がこの中で一番下っ端なのだろう、可哀想に。
「キングが来るまでに、この結界を破壊してやるわよ!! あんた達も協力しなさい!」
「あ、ああ!」
そしてキングが来るまでの間、ずっとセシノに向けて攻撃が止まる事はなかった。
だけど俺の結界は決して崩れる事はないのだ。
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