42 / 168
第二章 開業準備をする俺
42、新しい名前
しおりを挟む部屋に入った俺たちは、少しふかふかの椅子に座っていた。
向かいにはサバンが俺の右にはセシノ、左にはマリーがいる。
そして俺たちの前には、冒険者タグを調整するための魔法道具が置いてあった。
「よし、まずはこれでお前のタグを書き換える。えっと、この嬢ちゃん達にお前の事は……?」
「もちろん二人とも知ってるから、俺の事普通に呼んでも大丈夫だ。それにこの部屋は魔法遮断壁で作られてるから盗み聞きされる心配もないだろ?」
「そうだな、改めて自己紹介するが俺はサバン。俺はバンの8年前からの親友みたいなもんなんだ。出会いはもっと前だから13年ぐらい前からだと思う!!」
「さ、サバンさんはこの人がバンさんだと知ってたのですね……でもバンさんにも昔からの友達がいて良かったです」
もしかしてセシノは、俺には友達一人もいなさそうって思われてたという事だろうか……。
いや、引きこもりしてるぐらいだしそう思われても仕方がないか。
「それで、バンよ。新しい名前を決めてくれ!」
「新しい名前?」
「当たり前だろ! お前今の名前のまま冒険者ギルドで書類通したら、すぐにバレるぞ?」
そう言われれば確かにそうだ。
だけど新しい名前と言われてもな……。
「それなら、あだ名がバンという事にして名前を少し弄るのはどうですか?」
「成る程、それなら俺が間違えてバンと呼んでもバレなくていいな!」
「俺の名前がバン・ダインだから……バーン・ダイノンとか?」
「それだとほぼ変わってないだろうが!!」
「そうですよ、もっと捻ってください……!」
二人は信じられないという顔をして俺を見た。
いや、適当につけただけなんだから怒らないでくれよ……。
「私なら、バリアン・ダーウィンとか……? 少しバリアで防御っぽいみたいなのは変ですか?」
「いや、俺はせっかくならカッコいい名前がいいと思うぞ! バルヴィアン・ダンタインとかいうカッコ良さそうな名前はどうだ!?」
「いや、どっちもちょっと……」
なんか納得いかなくて俺は、どっちにもオッケーをだせなかった。
その後、いくつか名前の候補が出たのにそれもしっくりこなくて、俺たちは名前決めから一歩も話し合いが進んでいなかった。
そんななか、今まで一言も発していなかったマリーが、ポツリと呟いた。
「そうじゃな、ワシならカルテットリバーサイドからバンテット・リダーサインとつけたいのぅ……」
「そ、それだ!!」
「はぇ?」
まさか聞かれていると思っていなかったのか、マリーはキョトンとした顔をすると変な声を出した。
「そうか俺が求めていたのは、名前の中でも宣伝ができる。そんな名前だったんだ……」
「サブリミナル効果的な奴ですか?」
「多分そう! それにまんまだと怪しまれるからこれぐらい崩して、発音とかは同じならなおさらいいと思わないか?」
「『カルテットリバーサイド』と、『バンテット・リダーサイン』成る程な。いいんじゃないか!?」
「いや、待つのじゃ……本当にそれでよいのか?」
少し不安そうに聞いてくるマリーの頭を俺は撫でると、笑顔で言ってやる。
「マリーのおかげでいい名前ができた。ありがとな」
「ふ、ふん。ワシにかかればそんなのお茶の子さいさいなのじゃ……!」
少し恥ずかしそうに顔を逸らすマリーがおかしくて、俺とセシノはつい笑ってしまった。
「な、何がおかしいのじゃ!!?」
「す、すみません。マリーさんが可愛く見えてしまったもので……」
「何を言っておる、ワシはいつでも可愛いじゃろうが!!」
「そうだな。マリーはいつも可愛いよ」
「ふん、わかればいいのじゃ」
「確かに嬢ちゃんは可愛いな! はははは!!!」
そう言って突然笑い出したサバンを見て、コイツもいるのを忘れていたと少し気まずくなった俺は、サバンが笑い終わるまで何も言えなかった。
「いやぁ、いいものみせてもらった。コイツがこんな楽しそうにしている所をみれるなんてな……俺、感激して泣きそうだ!!」
「いや、もうそれはいいから早く登録を直してくれ!!」
俺は恥ずかしくて、サバンに早くしろと促してしまう。
「まあ、揶揄うのはこのぐらいにしてと」
「本当にやめてくれよ……」
「それはどうかわからないが、バンよお前のタグを借りるぞ」
俺はずっと手に持っていたタグをサバンに渡すと、それを装置の中央に置いた。
「おお、8年前のままの情報がそのまま残ってるな。流石ギルド製のタグは優秀だな」
「それでどうやって情報を書き換えるんだ?」
「それは、こうやるんだよ。ほい、お前の血を少し貰うぞ」
そう言って、サバンは俺の手を勝手に取って針山に手を刺した。
プスっと音がしたと思ったら俺の血が針山を伝って下に流れて行くのが見えた。
「いや、いきなりは流石に痛いんだけど……?」
「横に回復液があるから適当に突っ込んどけ」
そんな雑な……と思いながら回復液に指を入れると、スゥッと俺の傷は塞がっていった。
もう大丈夫だろうと、指を出すと今度はその指がセシノに捕まった。
「バンさん、大丈夫ですか?」
「ほら、回復液のおかけで元通りだ」
じーっと見つめるセシノは、それでも心配だったのか俺の手に布を巻き始めた。
「いや、そこまでしなくても!!」
「ダメです! 回復液でも、もしかしたらすぐに傷口が開くかもしれませんから……」
「まあ、そこまでいうなら一応巻いたままにしておくよ」
全く俺の周りには世話焼きが多い気がするな。
そんな俺たちのやりとりを全く見ていなかったサバンが、突然立ち上がり大声を上げた。
「ああ!!? なんでか職業がテイマーになってるぞ???」
「は?」
0
お気に入りに追加
643
あなたにおすすめの小説
ひだまりを求めて
空野セピ
ファンタジー
惑星「フォルン」
星の誕生と共に精霊が宿り、精霊が世界を創り上げたと言い伝えられている。
精霊達は、世界中の万物に宿り、人間を見守っていると言われている。
しかし、その人間達が長年争い、精霊達は傷付いていき、世界は天変地異と異常気象に包まれていく──。
平凡で長閑な村でいつも通りの生活をするマッドとティミー。
ある日、謎の男「レン」により村が襲撃され、村は甚大な被害が出てしまう。
その男は、ティミーの持つ「あるもの」を狙っていた。
このままだと再びレンが村を襲ってくると考えたマッドとティミーは、レンを追う為に旅に出る決意をする。
世界が天変地異によって、崩壊していく事を知らずに───。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜
月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。
蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。
呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。
泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。
ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。
おっさん若返り異世界ファンタジーです。
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺わかば
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。
さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。
魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。
神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。
その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。
転生公女はバルコニー菜園に勤しむ
仲室日月奈
恋愛
作物が育たない貧乏小国の公女シャーリィは、流行病で生死をさまよった際に前世の記憶を思い出す。
もう少しでベランダで育てていたミニトマトが収穫できそうだったのに、新鮮な野菜がもう食べられない事実に愕然とするが、公女も観光ツアーで働かなければ生きていけない貧乏小国では弱音なんて吐いてられない。
海の大国から来た皇子様(長期滞在の上客)から資材提供されたり、空から獲物を狙われたり、前世の野望を叶えたりするお話。
異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)
愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。
ってことは……大型トラックだよね。
21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。
勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。
追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる