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第一章 宿屋をやると決意する俺

7、作戦

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 気がつけばすでに外は真っ暗で、セシノを追いかけて来ていた冒険者達も一旦は引いただろうと、俺はまず状況を確認していた。

「マスター!」

 遠くからフォグが四足歩行型で走り寄ってくる。
 どうやら視察は終わったようだ。

「どうだった?」
「奴らは湖エリアで一泊するつもりみたいだぜ」
「帰らずにこのダンジョンに残ることを選んだのか……。そのキングとやらは、どうしてもセシノを捕まえたい理由があるのかもしれないな」

 今更セシノの能力が惜しくなったとか?
 それか焚き付けられた他の仲間が躍起になっているか……どちらにせよセシノを奴らに渡す訳にはいかないからな。

「俺たちには人間のことなんてわかんねぇけどよ、とりあえずぶっ飛ばせばいいんじゃないのか?」
「それだけじゃ駄目だ。まだあんなにも若い女の子に罪を擦りつけるようなクズには、自分のした事を自分で償わせないと同じ事を何度も繰り返すと思うんだ」

 だからやはり反省させないといけないと、俺は思う訳なんだけど……。

「そう言われても、わかんねぇって。でも俺たちはマスターがやりたい事の手伝いぐらいなら出来るからよ。だからもっと頼ってくれよ!」
「……ああ、ありがとうフォグ」

 コイツらには俺がダンジョンマスターになってから、ずっと世話になりっぱなしだ。
 いつかこの恩を返せるように、もっとダンジョンマスターとしてしっかりしないとな。
 そう思い、俺はスキル『ダンジョン・リフォーム』の画面を呼び出す。

「ダンジョン・リフォームを召喚っと……」

 このダンジョン・リフォームはその名の通りダンジョンの配置等、細かいところまで変更出来るスキルだ。
 宙に浮かぶ立方体の中には、このダンジョンのジオラマが見えている。
 そのジオラマを動かすと、木などオブジェクトの位置を変更できたり、地形を変えることやモンスターの配置を変えたり、さらに細かいところまで編集できるというありがたいスキルである。
 正直このスキルがなければ、ここに住むなんて発想にはならなかっただろう。
 そして今までの俺はそれを使って土壌を良くしたり、木に食べ物が成るようにしたりとか、生活面で必要最低限の事しか使って来なかった。
 しかし、明日俺が作る罠にはどうしても一本道が必要だった。
 そのために、木の位置を指で調整して道を作り出す。
 少しぐらい道が変わってても多分気付かれないだろう。

「いいかフォグ、明日は今から作るこの長い道をひたすら走る事になる。とはいえ俺たちはただ追いかけるだけだけどな」
「追いかけるって言うと、俺がその冒険者を脅すのか?」
「いや、やるのはフラフだ」
「……アイツ?? まあ、あの怠けモフモフ野郎にもたまには仕事してもらわねぇといけないしな」

 フォグは同じモフモフ同士として、フラフに少し思うところがあるようだ。
 だけど今、その話を聞くのはやめておこう。

「それでそのモフモフ野郎は?」
「フラフなら今、セシノに抱きしめられて一緒に寝てるよ」
「くそ、見た目が可愛いからって……」
「なんだよ、フォグはモフモフやきもちか?」

 俺はフォグの上に飛び乗ると、その大きな体の上に寝転んだ。

「そ、そんなんじゃねぇよ! それより何で俺の上に? 今から何処か向かうのか?」
「いや、フォグのモフモフだって最高だなと思ってな」
「おいおい、マスター。そんなこと言われても俺はあの綿毛野郎じゃないから嬉しくねぇよ」

 そんな事言って尻尾が凄い勢いでブンブンしてるぞ。全く俺のダンジョンのモンスターは可愛い奴らばかりだな。

「まあまぁ、乗ったついでだしマリーのところまで連れて行って貰えるか?」
「マリー? アイツならセシノの様子見てくるってマスターの家にいるぞ」
「何!? 俺は家の前にずっといたのに全く気がつかなかったんだけど……」
「多分スライム型で移動したんじゃねぇのか? その方が移動速度も速いからな」

 でも、マスターの俺には挨拶してくれてもいいのに……。
 なんて思っていたら、俺の腕に何かがまとわりついた。それは空色のプニプニで……。

「そうじゃ、ワシはここにおるぞ?」
「うわぁっ!? マリーいきなり現れるなよ!」
「何を言っておる、ワシはずっと側におったのじゃぞ?」
「スライム型だと、いるの気がつきにくいから!」

 そう、今のマリーの姿はスライム型だった。
 本来ならこちらがマリーの本当の姿のはずなのに、殆ど人型を見ているせいで違和感がある。

「それでプニプニなワシを探しておったみたいじゃが、何ようじゃ?」
「なんだよプニプニって、モフモフに対抗意識があるのか?」
「ふん、モフモフよりもプニプニの方が最高じゃろ?」

 そう言って俺の腕にまとわりつくマリーの触り心地はプニプニで癒される……。

「ここは、プニプニ天国……って違う!! マリーを探してたのは、湖エリアのモンスター配置について聞こうと思ったんだよ!」
「ちっ、もうすぐプニプニに陥落するところじゃったのに……それに湖エリアのモンスターはすでに殆ど回収済じゃ。だからマスターも明日に備えて寝るが良いぞ」
「マリー、お前……」

 いや凄いありがたいんだけど、俺はまだマリーに明日の作戦を何も伝えてないような……?

「ふん、ワシは別にマスターの為にやっている訳ではないのじゃぞ! このダンジョンに、あんな輩が来るのは許せんのじゃ……」
「マリー、また勝手に俺の心を読んだだろう?」
「何を言うておるのじゃ、マスターの意思をすぐに反映する為じゃから別にいいじゃろう?」

 マリーのスキルには鑑定やテレパシーなど、相手の内側を調べるのが得意なスキルが多くて、普段は使用しないようにと約束してしているのだ。

「俺についてはまあいいとしても、お前どうせセシノの心も読んだんだろ?」
「それは当然じゃろ」

 全く悪びれる事なくケロッと言ったぞこのプニプニ。

「マリーに人間の感情はわからないだろうけど、それは嫌なことなんだ。だから絶対にセシノには言うなよ?」
「わかっておるのじゃ。しかしマスターはあの小娘の鑑定結果を知りたく無いのかのぅ?」

 こいつちゃっかりと鑑定までしてたのか……でも俺はセシノと仲良くしたい訳じゃないし、もうこれ以上深く関わるつもりも無い。
 きっとこのゴタゴタが終われば二度と関わらないだろうし……。

「別に聞かなくていいかな。それにマリーがセシノを助けるのを手伝ってくれるって事は、セシノに裏は無いって事だろう?」
「……そうじゃな。じゃが、あの小娘の心は不安定じゃからな、マスターが少しでも支えてやるがいいと思うのじゃ」
「マリーが人に対して優しいなんて珍しい」
「うるさい男じゃ、後の事はワシらにまかせてマスターは早くあの小娘の様子でも見てくるのじゃ!」

 そう追い立てられた俺は家の中に入ると、フラフを抱えて眠るセシノの前に椅子を置いてその顔を見つめていた。

「君は俺みたいにならないでくれよ……」

 俺は無意識にそう呟いて手を伸ばす。
 その頬には涙の跡がくっきりと残っていた。
 だから彼女の苦しみを少しでも取り去るようにと頭を軽く撫でてやる。
 この子を救う為に明日は失敗できない。
 そう意気込んで俺はその顔を眺め続けた。

 そして、ついにその日の朝を迎えたのだった。
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