ダンジョンで温泉宿とモフモフライフをはじめましょう!〜置き去りにされて8年後、復讐心で観光地計画が止まらない〜

猪鹿蝶

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プロローグ 過去の俺

2、置き去りにされた俺

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 俺がトロッコから蹴落とされたと気がついたときには、もう何が何だかわからずにただ地面を勢いよく転がっていた。
 しかも時々何か岩にぶつかってるのか痛いくて、俺はただ叫び声を上げることしかできなくなっていた。

「うわぁああああ!!! うぐっ、ぐおぉっ!! ぎぇっいっ!!!!」

 ついに大きな岩にぶつかった俺の体は、ようやく動きを止めたのだ。

「い、いててて……って、トロッコは!?」

 痛む体を押さえながら急いで立ち上がると、視線の端で速度を上げたトロッコが見えなくなっていくのがわかる。
 しかし俺には後ろを振り向く時間はない。何故なら目前に迫るアーマーゴーレムがそこまで迫って来ているからだ。
 そのサイズは思ったよりも大きくて、俺の3倍ぐらいはある。その巨大に絶望した俺は、気づけば諦めの言葉を口にしていた。

「そうか、ここで死ぬのか……」

 そう思ったせいなのか、俺の脳裏に走馬灯が駆け抜けていく。
 しかしその思い出はどこを切り取っても、余りいいものじゃなかった。
 俺は13歳で『冒険者』という職業を神託で授かって以降、ろくな人生をおくっていない。
 親からは家を追い出され、冒険者時代は使えないディフェンダーだとずっと馬鹿にされていたのだから……。

「……そう思うと、こうやって見捨てられるのも時間の問題だったのかもしれないな」

 そう呟きながらその巨大を眺めると、その距離はもう十歩もない。
 そんな俺にゴーレムは無慈悲にも腕を振り被る。
 俺は何かを悟ったように目を閉じて、その時が来るのを待った。
 しかし目を閉じた俺は、何故か自分の言った言葉に酷い違和感を感じて、その違和感を口にしていた。

「……いやまて、よく考えろ。俺は一体なんだ? そう、俺はディフェンダーだ」

 確かに使えないディフェンダーかもしれない。でもそれは仲間がいた場合の話だ。
 だって俺は防御結界を張る事は得意なんだから。

「……ああ、そうだったな。まだ諦めるには、少し早すぎるよな! 俺にはまだ出来る事があるだろう!!」

 叫びながら目を見開いた俺は、ゴーレムとの距離を測る。
 すでにゴーレムは先程振り上げた腕を、今度は振り下ろそうとしていた。

「もう絶対絶命にしか見えないが、でもこれならまだ間に合う!」

 スキルを発動させるために魔力練り上げ深呼吸すると、バカな自分に言い聞かせる。
 俺には、あのアンナのスキルさえも防ぎ切ったこのスキルがあるのに、何故忘れてたんだ……最強とも言えるこのディフェンススキルをーーー。
 そして俺はその特殊スキルを力の限り叫ぶ。

「スキル発動! プロテクト・ゾーン展開!!」

 俺の周りに四角の守護結界の膜が薄っすらと現れる。
 その膜のサイズがゴーレムのパンチと重なる瞬間、人差し指と中指をクロスさせながら魔力を込めて結界を顕現させ固定。
 結界は光に反射してキラキラと輝きながら、まるでガラス板のように俺の前へその存在を現した。
 その直後ゴーレムの振り下ろした腕は、ズシンっと大きな音を立てたのだ。

「くっ……た、耐えてくれ……!!」

 祈りながらその音に驚いた俺はつい目を閉じてしまった。
 暫くして体が無事な事にため息をついた俺は、ゆっくりと目をあける。
 よく見ると、ゴーレムの腕は結界に阻まれて俺には全く届いてはいなかった。

「た、耐えた……流石俺の『プロテクト・ゾーン』だ。本当コイツは尋常じゃない防御力だよ……」

 神託で与えられた俺専用の特殊スキル『プロテクト・ゾーン』はどんなに相手が強かろうが、絶対にその結界を魔力を帯びた物は通れない。
 しかも魔力をおびてない人やモンスターはそうそういないため、ある意味最強クラスのスキルなのだけど……俺の使い方が下手なのか俺以外の人がこの結界の中に入ると、何故か魔法やスキルが使えなくなってしまう。
 だからこそ、このスキルは味方から使えないと言われ続けたのだ。しかしずっと使えないと言われ続けたこのスキルが、今俺の生命線となっている。
 そして気がつけば、先程まで結界を殴ったり体当たりをしていたゴーレムが、今は距離をとって様子を見始めたのだ。

「よしっ、とりあえずは助かったんだよな? でもゴーレムはまだ近くにいるから、すぐに解除するわけにもいかないし……。一応結界を張っていれば俺の魔力が切れるまでなら生き延びられそうだけど、このままじゃ脱出路が見いだせないな……」

 俺は周りを確認しながら、今の現状を確認していた。
 今いるダンジョンボックスは『カルテットリバーサイド』といって、4つのエリアで構成されている。そして今の俺は山エリアにいる筈だ。
 確か先程イアさんはもう少しで森エリアに入ると言っていたから、出口までは凄く離れている訳じゃない。
 ただこの危機を乗り越えなくては、出口まで走り切る事はできないだろう。
 
「くそ、なんで俺がこんな目に……」

 今日だって本来なら危険に晒される心配はない筈だったのだ。何故なら山エリアは鉱山スポットまで行かなければそれ程危なくはない。
 それなのに、あのアンナが調子に乗って鉱山スポットまで入ってしまったのが全ての元凶だろう。
 だから今の状況は何もかも、アンナが悪い!

「アンナのやつめ、生きて帰ったら絶対に復讐してやるからな!!!!」

 やる気を出すためにそう叫んだ俺は、現在とても狭いこの結界をまずは広くする事にした。
 この『プロテクト・ゾーン』は結界が展開中でもそのサイズを自由に変えることができる。しかし場所を動かす事が出来るわけでないため、本当に全方向等倍に広がって行くだけだ。
 そのため先程少し離れたゴーレムを追うように、俺はその範囲を広げていく。
 そしてそれを何度か続けるうちに、俺の結界の範囲はだいぶ広くなっていた。

「よし……このまま少しずつ結界が広がれば、もしかすると逃げる活路が見出せるかもしれない。だからもう一踏ん張りだ俺!」

 そう希望が見えた俺は少しずつ結界を広げて行く。そのサイズはすでに俺が10人ぐらい寝転べそうなほど広くなっていた。
 しかし、俺が喜べたのはそこまでだった。
 気がつけば俺は他のモンスターに囲まれてしまい、その場からさらに身動きが出来なくなってしまったのだ。
 ならば仕方がないとそうそうに諦めた俺は、とりあえず安全地帯となった結界内でキャンプをする事にした。
 何を言ってるのかよくわからないけど、まずは落ち着く事が大事だからな。

「はぁ……持久戦になりそうだから、テントでも張るか……」

 幸い、使えない俺は荷物持ち要員として駆り出されただけの男だったので、備品や多少の食料なら持ち合わせていたのだ。
 よし、これなら数日ぐらい生き延びれるかもしれない。絶対にここを生きて出てやるからな!

 こうして俺の長い長い持久戦が始まったのだった。
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